約 546,872 件
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3217.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こぼれ話 上条美琴の禁書目録Bサイドこぼれ話 後編 上条「さて、と。そろそろ休憩も終わりか」 ??「きゃー遅刻遅刻」 上条「ん?」 ??「どっしーん」 上条「て、おい!? なんだなんだ!? しかも今の擬音、口で言ったよな!?」 ??「いったぁーい。もう! 急に飛び出してくるんだからぁ!!」 上条「はい!? って、……ん?」 ??「? ――はっ! ど、どこ見てるんよ! この変態!!」 上条「………………で? 何の真似かな佐天さん? ご丁寧に御坂に変装して。制服は御坂から借りたんだろうし、その髪はウィッグだろうし、スカートの中身も短パンだし、声真似も結構うまいと思ったけど、一目でバレバレだよね?(胸とか胸とかあと胸とか)」 佐天「ちちぃ! やはり愛おしい人の振りをしても偽物だと一発で見破られますか。さすがは上条さん、幻想をぶち壊すのをお得意なだけはあります」 上条「意味が分からん。で、何のつもりなの?」 佐天「いや単純に恋が芽生えないかなと。あ、もちろんあたしじゃなくて御坂さんと」 上条「あのなぁ……前編の締めにも言ったけど、こんな使い古したこんな方法で恋が芽生えるわけねえだろ……」 木山「ふむ……つまりはすでに恋に落ちているので今さらこの程度ではドギマギはしない、と……」 上条「いや……飛躍し過ぎです……」 佐天「じゃあ次はアレですね。地球の存亡をかけた鬼ごっこをして、プロポーズしながら、この吸盤銃で虎縞ビキニに扮した御坂さんのブラをはぎ取って――」 上条「……それやったら俺、黒焦げだっちゃ。あとネタが相変わらず古いし、今のご時世でそれをやったらBPOがすっ飛んできて放送禁止になっちゃうよね。で、御坂は?」 木山「彼女ならとっくにスタジオ入りしているよ。そろそろ我々も戻ろう。あ、御坂くん、もう一、二分で戻るから準備してくれないか」 上条「遊んでただけですかそうですか」 『三十秒後』がちゃっ(ドアを開く音) 美琴「!!!!!!!!!!!?!」 上条「!!!!!!!!!!?!!」 上条「み、みさか……こ、ここここれはだな……不可抗力であってわざとでは……!!」 美琴「なななななに堂々と覗いてんのよ! この変態っ!!///」(渾身のちぇいさー!!) 上条「おぶぉわぁ!? 何でお前着替えてんだよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」 佐天「御坂さんに『スタジオに戻ったら制服を戻しましょう』という合図を送っておいて、わざと早く着いて、『うっかり鍵をかけ忘れたところで着替えをたまたま覗いてしまうハプニング的出会い』を演出してみたんですけど……」 木山「御坂くんの対応が、まさか上段回し蹴りというのは想像しなかったね」 「おっすー。そっちはお友達?」 「はい。これから一緒に洋服を見に…」 「(ちょっと! あのヒト常盤台の制服着てんじゃない。知り合いなの?)」 「(ええと、風紀委員の方で間接的に…)」 佐天「は? あたしの漫画版初登場シーンやるんですか?」 美琴「ま、いいんじゃない? アニメ版だけど、木山先生の初登場シーンはやったのに佐天さんが無いのは不公平だし」 木山「……ん? この、頭の外がお花畑の子ときみは知り合いだったのかい? 彼女はAIMバーストのときには実にいい働きをしてくれたよ」 佐天「木山先生? 確かテレスティーナの事件のときにあたしも一緒に居ましたよね?」 「しかも、あの方はただのお嬢様じゃないんですよ」 「?」 「『レベル5』!」 「レベル5!?」 「それも学園都市最強の電撃使い! あの超電磁砲の御坂美琴さんなのです!!」 「ウソ…まさか、あの『超電磁砲』?」 「そうですよ。私この間、生で見ちゃいました」 「――――あの…あたし、佐天涙子です!! 初春の親友やってます!!」 「そ…そう、よろしくね」 上条「あれま。佐天さんが顔真っ赤にしてミーハーになってんな」 佐天「この時は本当に心臓バクバクもんでしたよ。だって、あのレベル5の超電磁砲ですよ超電磁砲。もうあたしたち女子中学生の間だと下手な男のレベル5よりも憧れの的です」 上条「そんなもんかねぇ」 木山「この学園都市の学生からすれば『レベル5』はスーパーアイドル並なんだろうね。もっとも、私たち科学者からしても魅力的な研究対象でもある」 上条「その言い方、何かちょっと嫌ですね」 美琴「仕方ないでしょ。学園都市ってそういうところなんだから割り切らないと。まあ置き去り【チャイルドエラー】のアレは酷い話だったけど」 木山「学生からは慕われて、大人からも必要とされる…良いことじゃないか」 美琴(それにしても……この頃の佐天さんは純真で可愛かったなぁ……それが今ではどうしてこうなったのかしら……) 佐天「ん? どうしたんです御坂さん? あたしをちらっと横目で見てから随分と盛大な溜息を吐いたみたいですけど。どうせだったら上条さんの横顔を見て、ウットリしながら吐く溜息の方がいいんじゃないですかどうですか?」 美琴(こういう所がっ…!) 「ウチって外出時は制服着用が義務付けられてるから服にこだわらない人結構多いし」 美琴「まっ、その代わりにワンポイントとかに拘ってる人は多いけどね」 上条「で、そのワンポイントが御坂的にはカエルの」 美琴「ゲっ! コっ! 太っ!!! 何度も言わすな!」 上条「……ゲコ太のグッズな訳か」 木山「しかし妙だね。そのカエルの」 美琴「ゲコ太ですってばっ!!!」 木山「……ゲコ太の関連商品は、私の生徒にも集めている子がいたが、アレは小学校低~中学年向けのキャラクターではなかったか?」 美琴「いいんですよ! 少年じゃなくても少年ジャンプは読みますし、アンパンマンのOPの歌詞だって大人になって初めて意味が深い事に気づくんですから!」 上条「それは意味が違くないか?」 佐天「プリキュアやセーラームーンだって大きなお友達も見てますもんね」 上条「それは更に違う」 「へー『超電磁砲』てゲームセンターのコインを飛ばしてるんですか」 「まあ50メートルも飛んだら溶けちゃうんだけどね」 「でも必殺技があるとカッコイイですよねー」 上条「佐天さんはアレなの? 技に名前とかつけたいタイプ?」 佐天「え~ダメですか~? あたしそういうノリ、結構好きなんですけど」 上条「いや、ダメって事はないけど…」 佐天「多分、憧れもあると思うんですよ。あたしってほら、レベル0で大した能力使えませんから」 美琴「じゃあ佐天さんなら、自分の能力に何て名前つけたい?」 佐天「えっ!!? えっと…あたしの場合、空力使いだから…こう……ソ…ソニックブーム…とか?」 上条「……ビックリする程普通な答えだな」 美琴「きっとコマンド入力は、 ←タメ→+P(右向き時) ね」 木山「ふむ、風の能力か…では天魔剛神斬空烈風拳とか言うのはどうかな。若者向きだし、とても強そうだろう?」 上条&美琴&佐天(((木山先生、まさかの中二!!?))) 「初春 こんなのどうじゃ? ヒモパン!!」 上条&美琴&木山「「「 」」」 佐天「ん? 何ですかみんなしてあたしの方見て。あ、もしかして興味があるんですか御坂さん? 確かにこれを穿いて上条さんにスカートめくらせれば、イチコロですもんね」 美琴「ないからっ!!!///」 木山「ツッコむ所がありすぎて、面倒なので『ないから』の一言で済ませたようだね」 上条(……『命』が二つあったら、ちょっと…見たい……) 「ねね、コレかわ……」 「アハハ。見てよ初春、このパジャマ!! こんな子供っぽいの、いまどき着る人いないでしょ」 「小学生の時くらいまでは、こういうの来てましたけどね」 「そ…そうよね! 中学生になってこれはないわよね」 上条「お前なぁ……もっと自分に素直に生きろよ……」 美琴「う、うるさいわね! 私にだって見栄とか色々あるのよ!! 恥と外聞無神経のコンボで服着ているアンタには分かんないのかもしんないけどさ!!」 上条「酷っ!! 何そのお前的俺評価!!」 木山「…私も趣味は人それぞれだと思うが…」 佐天「このシーン、あたし、ちょっと納得いかないんですけど」 美琴「え?」 佐天「だってほら。夏休みに(初春と白井さんも来ましたけど)御坂さんとリゾート施設のプールに行ったときに、御坂さん、ピンクのフリル付き水着選んだじゃないですか。アレ、あたしも結構気に入ったんだから、あたしがこのパジャマのデザインを否定するとは思えないんですよね」 美琴「は? 夏休みにリゾート施設のプール? 行ったっけ?」 佐天「……」 美琴「……」 佐天「ああ、アレは並行宇宙【PSP『とある科学の超電磁砲』】の話でしたか」 美琴「……ひょっとしてみょんな伏線張ってない?」 木山「並行宇宙か…今でも科学で解明できない謎の一つだな…曰く、宇宙開闢時のビックバンで我々が生きる宇宙とは別の宇宙が誕生して――」 上条「う゛……な、何か嫌な記憶が頭を過ったような……」 (いいんだモン。どうせパジャマんだから他人に見せるわけじゃないし! 黒子は無視) (初春さん達はむこうにいるし、一瞬、姿見で合せるだけだなら) そろ~り (それっ!!) 「何やってんだオマエ……挙動不審だぞ」 「――――――ッ? ――――――ッ!?」 美琴「…………前のアンタって案外、私に気付くのね。しかも、ちゃんと声かけてくるし。タイミングは最悪だけど」 上条「い、いやちょっと待て。それじゃまるで今の俺は普段、お前を見かけてもスルーしてばっかいるみたい……あーごめん、否定できねえわ」 美琴「おんどりゃあああああああああああああああああ!! 地獄が己のゴールじゃあああああああああああああああああ!!」 上条「ば、馬鹿!! やめろ危ない!! 周り見ろ周り!! ここには木山先生と佐天さんが――って、二人ともちゃっかり避難してやがるぅぅぅぅぅううううう!!」 スタジオの外 木山「なんとか喧嘩は犬も食わないについてだが、どことなくその犬の気持ちが分かるね…」 佐天「とばっちりで怪我したくないですもんね。しかも、後から間違いなく、殺意が芽生えそうですし」 「お兄ちゃんって…アンタ妹いたの?」 「ちがう 俺はこの子が洋服店探してるって言うから案内しただけだ」 美琴「……アンタ、ホントに困ってる女の子とのエンカウント率高いわよね……実はわざとなんじゃないの?」 上条「まごうことなき偶然だよ! 第一、こんなちっちゃい子相手に下心なんざ出すかっ!」 美琴「ホントかしら?」 佐天「本当ですかね?」 上条「うわ。すっげえ疑われてる」 木山「まあ類は友を呼ぶ、と言うからね。確か、きみの友人(個人名は本人の名誉のために伏せておく)が真正の幼女好きという話を聞いたことがあるよ」 上条「だからってそんな決め付け!? と言うか、この場に本人がいたらihbf殺wqされますよ!?」 佐天「あれ? その言い方ですと、誰だか特定できるってことですか? あたしは誰かさっぱり分かんないんだけど御坂さんは?」 美琴「本人の名誉のために伏せておかないと、黒翼生やした白いヒョロったモヤシの悪魔が飛んでくるから知らないことにしておくわ」 上条「……お前……本人がいないからって強気だな……」 木山「では、私が駐車場で困っていた時にはどうだったんだい?」 上条「それもないですよ!」 佐天「大覇星祭であたしがお守りを貸した時は?」 上条「それもねーよ。つか、その場合困ってたのは俺の方だし」 美琴「じゃ、じゃあ『あの写真』を一緒に撮る時も、全然下心がなかったっていうの!?」 上条「それは……(ちょっとあった)」 「昨日の決着を今ここで…」 「お前の頭ん中はそれしかないのか?」 佐天「そりゃあ、御坂さんの頭の中には上条さんのことしかありませんから」 美琴「使い方としては、ある意味、間違ってないけど間違ってるわよっ!!///」 上条「えー……お前、まだ勝負に拘ってんの……?」 木山「私には佐天くんの言っている意味は分からないでもないが……どうやら私と佐天くんの見解と、当時と今の君の見解の間には相当の齟齬が発生していると思われるね」 (我ながら見境ないなあ) 佐天「ホント、上条さんのことになると周りを鑑みませんね。さっきとかもそうでしたけど、何でですかぁ?」 美琴「って、何で素で振ってきておいて、最後だけ、好事家みたいにニヤニヤして聞いてきてんのよ!?///」 木山「TPOは弁えた方がいいかもしれないね。時と場所くらいは選んだ方がいいぞ。まあ、二人だけのときならば周りの目を気にする必要はないが」 美琴「絶っっっっっっっっっっっっ対に私と二人の言葉の受け取り方の意味は違いますよね!?///」 上条「何でだろう。頭脳明晰で聡明な木山先生が言うことなのにTPOに関してはまったく説得力を感じられない……」 「どうもアイツが相手だと調子狂うのよね…」 上条「アレで調子狂ってんの? 俺には絶好調にしか見えないんだけど。態度とか電撃の威力とか」 美琴「意味が違うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 木山「では、どういう意味なのかね?」 美琴「え? そりゃあ、コイツと居るとなんとなく私が私じゃないって言うか、落ち着きが無くなるというか、変に意識しちゃうというか……」 佐天(あれあれ? 御坂さんが、あの御坂さんが素で答えてる!? 木山先生の合いの手のタイミングとセリフが完璧だったからかな!!) 上条「俺からすると、俺と一緒にいるときの普段のお前としか思えん発言なんだが?」 美琴「!!!!!!!!!!!!!?!///」 佐天(上条さんの馬鹿あああああああああ!! 何でここでツッコミを入れるんですか!! もうちょっとって御坂さんの本音が引き出されるところだったのに!!) あの時 私の超電磁砲は間に合わなかった 実際に――初春さん達を救ったのは――コイツだ 「ゲ 待ち伏せ?」 上条「おー…俺、こんな事してたのか」 佐天「って、えええええっ!!? そそそ、そうだったんですか!? 初春も白井さんも、勿論あたしも、今まで御坂さんがやったとばっかり………」 美琴「まぁ、黙ってるつもりはなかったんだけど、コイツがやったって言うと、またややこしくなりそうだったし、それに……」 木山「それに…何だい?」 美琴「いや、本人が」 上条「まぁ、誰が救ったとか、別に大した問題じゃないけどな。みんなが無事ならそれでいい訳だし」 美琴「……こんな調子だから///」 佐天&木山「「なるほど」」 「今名乗りだしたらヒーローよ」 「? 何言ってんだ みんな無事だったんだからそれで何の問題もねーじゃん 誰が助けたかなんてどうでもいい事だろ」 佐天「うっひょ~! かーっこいいー!」 木山「ふむ…間近でこんな事を言われたら、それこそイチコロだろうね」 美琴「………///」 佐天「さっきから御坂さん、顔赤いですしね。思い出し笑いとかはありますけど、思い出し赤面って始めて見ました」 上条「やだ…上条さん、昔言った事と同じ事を自信満々に言っちゃった……は、恥ずかすぃ…///」 木山「彼も赤面しているね。理由は全く違うけれども」 「思いっきりカッコつけてんじゃないのよ!! しかも私にだけ!? だぁ――――ムカつく―――!!」 「……………なんか理不尽な怨念を感じる…」 上条「こん時の俺も言ってるけどさ、これ理不尽じゃね? 別にカッコつけてるつもりもないし…いやまぁ、この時の記憶はないから、何とも言えないけど。でも、ドア蹴るほどムカつかれるような事もしてないだろ」 佐天「まぁまぁ上条さん。これはただの照れか《ゴッ!》しですから」 木山「この頃すでに君の事が気にな《ガッ!》始め《ゴッ!》いた彼女は、こうやって気を紛《ゴンッ!》したのだろう」 上条「……あの~御坂さん? さっきから壁を蹴る音で全然話が聞こえないのですが…?」 美琴「いやー! この時の事を思い出してたら、急に壁が蹴りたくなっちゃってー! あっはっはっはっは!///」 上条「何ちゅう迷惑な!」 ――レベル0って欠陥品なのかな……―― 「ごめんね……気付いてあげられなくて……」 ――しょうがないよね……―― 「頑張りたかったんだよね……」 ――力が無い自分がいやで……でも、どうしても憧れを捨てられなくて―― 「うん……でもさ……だったらもう一度頑張ってみよ……こんなところでくよくよしてないで……自分で自分に嘘つかないで――――もう一度!!」 佐天「……」 美琴「……」 上条「どうした? 二人とも?」 木山「きみの能力は確か『天然』だったよね?」 上条「あ、はい」 木山「だったら、きみには二人の気持ちは理解できないかもしれないな。『努力』が必要なかったきみは『栄光』と『挫折』の本当の意味を知らないからだ。二人は友人同士ではあるが『栄光【レベル5】』と『挫折【レベル0】』の典型例でもあるのだよ」 上条「っ!! そんな言い方!!」 木山「事実だ。そして、それは二人の心に常につきまとう呪縛でもある。もっともレベル0でも、本当の『無能力者』でも佐天くんは強い。きみよりもはるかに強い」 上条「どういう意味だよそれ!! それじゃあまるで俺が――!!」 木山「分からないのかい? きみは『能力者』なのだよ。『異能の力を打ち消す』能力を持つ『能力者』だ。しかし、佐天くんには異能の力も物理的な力も防ぐ手段はない。それでも彼女は『能力以外の力』によって苦境を脱する精神力を有している。そしてそれはきみはもちろん、御坂くんにも無い力でもある。『能力に頼ることができる』きみたちには決して到達することができないからだ」 上条「――――!!」 佐天「いえ……それは多分、この時の御坂さんの超電磁砲が私のもやもやを吹き飛ばしてくれたからですよ……」 美琴「そ、そうかな……あ、でも今なら言ってもいいわよね、あの時の言葉を。んで、佐天さんも受け入れてくれるんじゃないかな?」 佐天「レベルなんてどうでもいいじゃない、ですよね? まあ全部ってわけじゃないですけど、今の私なら受け入れられるかな」 「水着のモデル?」 「はい…水泳部がお世話になってるメーカーから、どうしてもって頼まれたんです」 佐天「おお! これはあたし達がモデルやった時の話ですね!? みんなでカレー作ったりして、楽しかったな~」 木山「ほう。俗に言う『水着回』という物だね。サービスシーンも入れやすく、よくテコ入れとして使われる手法だ」 上条「…やけに詳しいですね」 美琴「……………」 上条「? どうした御坂? 黙っちゃって」 美琴「…何か…激しくイヤな予感がする………」 「え~っとぉ………あぁ、これじゃなくて、こっちか。 …おおぉ! う~~~やっほう! ランランランラーララー・ラ・ラーララー・ラ・ラーラーラーラーラーラーラ♪ あー、やっぱこれカワイイー! うはは! そぉ~っれっ! あはっ! ランララー・ラ・ランララー・ラ・ラーラーラーラーラ♪ そぉ~っれぇ~!」 「ビリビリ…何やってんだ…?」 「そぉ~れ、やっちゃうぞ~☆」 上条「………」 佐天「…………」 木山「……………」 美琴「…………………………い……… いいいいいいいぃぃぃぃぃやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!///」 上条「お、落ち着け御坂。この時の記憶は今の俺には無いから」 木山「だが今この映像を見たおかげで、新しく記憶したのだろう?」 上条「あ、はい。それはもうバッチリ」 美琴「いいいいいいいぃぃぃぃぃやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!///」 佐天「て言うか、あの時どうも御坂さんだけいないと思ったら、一人でこんな事してたんですね」 美琴「いいいいいいいぃぃぃぃぃやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!///」 木山「これ以上彼女にとどめを刺すのは、止めた方がいいみたいだね。御坂くんのライフはとっくに0のようだから」 「気にし過ぎ気にし過ぎ気にし過ぎ気にし過ぎ」 佐天「ん? ひょっとして『誰かが見てる』のお話?」 上条「何だそりゃ?」 木山「聞いたことがある。確か、微弱な電磁波のようなものを電撃使いに纏わりつかせて、あたかも四六時中、誰かの視線を感じさせて精神的に追い詰める悪戯のような機材を使った――」 美琴「何で真相まで知っているんですか?」 木山「一応、警備員の施設にお世話になったことがある身なんでね。この時期は、そういった犯罪関連の情報収集には事欠かなかったのだよ。本人からも話が聞けた場合もあったくらいだ」 上条「前科をここまで朗らかに明るく語れるってのも凄い話だ」 「ん? ようビリビリ」 「あんたのぉ~~~仕業かぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」 「なにぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」 美琴「ねえ? さっきも言ったけど前のアンタは私を見かけるとちゃんと声をかけてくれるわね?」 上条「お前の対応は声をかけてもかけなくても変わんねえことはスル―すんのか?」 佐天「御坂さん、この時はいくら気が立っていたからってこれはないと思いますけど」 木山「まあ、彼の落ち度は今回は皆無だったからね」 上条「『今回は』って……」 「何しやがる!」 「とぼけんな!!」 「あん?」 「アンタでしょ……ここんトコ、私のことをジロジロ見てたのは……アンタだったんでしょぉっ!!」 「あの……一体何の話でしょう……?」 「だから! アンタが私を――!!」 「はぁ……ったく、だいたい何で俺がお前のこと見てなきゃなんねえんだよ」 「んな! ん……何でって……その……それは……」 「顔赤いぞ。熱でもあんのか?」 佐天「記憶を失くす前と後でも上条さんの鈍感さだけはまったくもって変わってませんね」 木山「御坂くんもそろそろ彼には遠回しに言っても届かないことを学習してもいいかもしれないね」 上条「遠回しに言ってることがあるのか?」 美琴「い、いや別にそれはその……///」 佐天「ですから上条さん。御坂さんの発言を言葉通りに取るんじゃなくて、言葉に秘められた意味を御坂さんの表情とか態度から読み取るんですって」 美琴「ちょ、ちょっと!?」 上条「????? 全然分からんのだが?」 木山「一度、きみの頭を切開して特に(感情を司る)右脳をいじくった方がいいのかもしれないな」 佐天「『あっ あっ あっ』ってヤツですね」 上条「え、何? 念能力の6つの系統の、最も簡単な判別方法を言えばいいの?」 「あ、いやぁ……そ、そのぉ……」 「ああ、すみません。ちょっとコイツがじゃれてきただけで……」 「ちょっと! 私は別に!」 「はいはい。分かったから。もうすぐ完全下校時刻よ。早く帰りなさい」 「こちらは異常なし。学生カップルの痴話喧嘩でした」 「かっ……!」 「……痴話喧嘩って……」 「ほら、さっさと帰れ」 「は、はぁ~~~い」 「か、か、か………」ぱたん 木山「ふむ…これが『ふにゃー』の走りというわけか」 美琴「って、何ですかそれ!?///」 佐天「しっかし、見知らぬ警備員から見てもお二人はそういう関係に見えるみたいですけど、上条さんはどう思います?」 上条「どう、って……まあ、最初の挨拶はともかく、俺から見てもそうとしか思えんかったが……」 美琴「ええええええええええええええ!? ななななななな何言っちゃってくれてやがりますかアンタは!!///」 木山「その割には複雑な表情をしているな?」 佐天「へ?」 木山「いや何、上条くんの表情だが、照れているとか戸惑っているとか言うよりも、むしろ何かを滾らせているような感じがしたのでな」 上条「まあ……この時期の記憶が俺には無いですから……」 佐天(おぉ! これはひょっとして嫉妬!? 嫉妬ですか上条さん!! 前の上条さんに嫉妬ですか!?) 美琴「佐天さん? 何悪い顔になってんの?」 佐天「御坂さん!? 気付いてないんですか!?」 美琴「何を?」 木山「上条くんの表情が何かを滾らせているような、がどういう意味かということだよ」 美琴「ん? どうせコイツのことだから、この時の私の態度を鬱陶しく思ってるだけなんじゃないの?」 佐天「えー……」 木山「どうやら鈍いのは彼だけではないようだね……」 「平素、一般へ開放されていないこの常盤台中学女子寮が、年に一度門戸を開く日。それが盛夏祭だ」 佐天「おっ! 次は盛夏祭ですか。寮監さん、心なしか張り切ってますね!」 美琴「ん~…このイベント、ちょっと恥ずかしいから飛ばしてほしいんだけどな…」 上条「何言ってんだ御坂。恥ならさっき、これ以上ないくらいかいたじゃねーか。もう何も怖くないって」 美琴「いいいいいいいぃぃぃぃぃやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!///」 木山「トラウマをほじくり返すのは、どうだろうか」 「別にこの格好でなくても、おもてなしはできると思うんだけど…」 上条「っ!」 美琴「あー、ほらー…変に思われてる……どうせ私にはメイド服なんて似合わないわよ……」 佐天「そんな事ないですよ! めちゃくちゃ可愛いじゃないですか! ねっ、上条さん!?」 上条「あ、あー、まぁ…うん。そう…だな」 美琴「いいわよ別に。無理して褒めようとしなくても」 木山(いや…彼のこの反応はむしろ、ドギマギしすぎて逆に何も言えないように見えるのだが…?) 「は~い、は~い、は~い…いいよぉ…」 「いいねじゃないわよ! 何でアンタが撮ってんのよ!」 佐天「白井さん、ブレませんねー」 美琴「あははははは……ははは…………はぁ…」 木山「ちなみに、この時の写真はまだ残っているのかい?」 美琴「いえ、この後私がビリっておきましたから、多分中のデータもないと思いますよ」 木山「だ、そうだよ少年? 残念だったね」 上条「なななな何がですか!!?///」 「…やば…何か胸がドキドキしてきた……あ~んもう! しっかりしろぉ!」 「あのぉ…」 「…? ………があぁっ! なっ!」 上条「あー、ここかぁ。以前こぼれ話で言ってた、記憶喪失後に初めて会った時って。うん、思い出した思い出した」 美琴「今頃ー!?」 佐天「じゃあ上条さん的には、この時が運命の出会いだった訳ですか!」 美琴「ちょ、だから佐天さんっ!!!///」 上条「運命…(う~ん…確かに、この後の御坂と俺の関係を考えると…)まぁ、そうだな。運命って言えるのかも」 佐天「!!?」 美琴「!!?///」 木山「ついにデレ期かい?」 「お取り込み中すいません…実は、一緒に来た連れと逸れてしまって……こ~んなちっこくて、白い修道服の女の子なんですけd」 「―――…こにいんのよ……」 「はぇ?」 「何でこんなとこにいんのかって聞いてんのよ!!!」 「ご、ごめんなさい。ああぁ、でも、怪しいもんじゃ…あ、ほら! 招待状だってちゃんと―――」 「人の発表、茶化しに来たわけ!? 慣れない衣装笑いに来たわけ!」 「いや…そんな…すげー綺麗だと思いますけ、どぉっ!?」 「バカああぁぁぁ!!!///」 「だあああああ!!!」 「何なのよアイツ! よりによって、人が一番テンパってる時に! ふっ! …あれ?」 佐天「ニヨニヨ」 美琴「な、何なのかしら佐天さん? その、やらしいニヨニヨ顔は…?」 佐天「いっや~? べっつに~? ただあの時、ステージの裏ではこんな事が起こってたんだなーって。あたしも見たかったなーって」 上条「そういや言ったな、こんな事…マジですっかり忘れてたわ」 美琴「アンタが余計な事言ったおかげで、私がどれだけパニクったか…」 木山「そうかな? 私には彼と話したおかげで、緊張が解れたように見えるのだが」 美琴「うっ! ま、まぁ…それはちょっと…無きにしも非ずですけど……」 佐天「でっ、でっ! その余計な事ってのは主にどの部分ですか!? 上条さんが、すげー何て言った所ですか!?」 美琴「もうそれ答え出てるでしょっ!!!///」 木山「では本人に直接聞いてみるとしようか。君はこの時彼女をどう思ったんだい?」 上条「いやだから、すげー綺麗だなって思いましたよ。普通に」 美琴「あああ、改めて言わなくていいからっ!!!///」 木山「と口では言いつつ、体は嬉しそうにクネクネしているね」 佐天「まぁ、御坂さんですからね♪」 上条「あ、でも」 佐天&木山「「?」」 上条「御坂って何着ても綺麗になるんじゃないかな… 勿論、この服が可愛いのもそうなんだけど、例えばモデルの人って、一般人からしたら『これは無いわぁ…』って思う服も自然に着こなしたりするだろ? そんな感じで御坂も、どんな服も似合っちゃうと思うんだよ。そうなると、普段制服しか着れないってのはもったいない気が―――」 美琴「///」 木山「少年、その辺で止めたらどうだろうか。彼女が煙を出し始めている。それ以上彼女の好感度を上げたら、爆発【ふにゃー】する恐れがあるよ」 佐天「いや! ここはあえて止めずに、限界ギリギリまで上条さんのお話を聞きましょう! せっかく本人も無意識に言ってるんですから!」 木山「さて、今回はここまでのようだね」 佐天「あー、もうですか…やっぱり楽しい時間って終わるのも早いですね…」 美琴「私はこの企画をやる度に、毎回何か大切な物を失っていく気がするわ……」 佐天「そうですか? あたしとしては、逆に得るものの方が多いと思うんですけど」 美琴「例えば?」 佐天「上条さんとの距離とか」 美琴「……まるで近づいた気がしないけど…?」 木山「果たしてそうかな?」 美琴「どういう事ですか?」 木山「もし彼の気持ちが全く君に傾いていないとしたら」 上条「―――でもだとしたら、『御坂が着る物なら何でもいい』って事になるのか? いや、それは何か違う気が―――」 木山「あれだけ延々と君の服装について考えたりはしないのではないかな」 佐天「てかまだやってたんですか! どおりで締めに参加してないと思いましたよ!」 美琴「い、いやアレは…普段から何も考えてないから、逆にくだらない事で頭を使ってるだけですよ///」 木山「そうかな。私にはそうは」 上条「あ、そっか! 御坂って元が可愛いから何着ても似合うのか。いや~、我ながら意外な結論……って、ん?」 佐天「木山先生ー! エマージェンシー、エマージェンシー!」 木山「あそこの壁に隠れたまえ! 緊急退避だ!」 上条「え、え、なになに?」 美琴「………………………ふny 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こぼれ話
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1647.html
笑顔を求めて 今日は3月12日、すでに中学を卒業した御坂美琴は有名新学校に受験にきていた美琴の恋人となった上条は高校2年生、4月からは無事3年になれそうだ。この高校は超が何個もつくほどの難関高校だが美琴にとって受かることはたやすい。だが自分の席につきテストの開始を待つ美琴はなんともいえない表情をしている。原因は簡単なこと。本当は上条と同じ高校に行きたかったのだしかし学校や親からはもちろん、上条にまで反対されてしまった。それでしかたなくこの高校を受験することにしたのだ。しかたなく受けるレベルの高校ではないのだが…(なんでよ…当麻のばか…)上条と同じ高校に入ってもたった1年しか一緒にはいられないそれでも、1年だけでもいいから上条と一緒に学校生活を送りたかった。その理由を上条に告げてもかたくなに断られたのだから不機嫌になるのは当たり前だ。だが美琴の機嫌が悪いのは受験のことだけではない。それは最近上条の様子がおかしいのだ。明らかに何かを隠している。受験だから、という理由でなかなか会ってくれないし、上条の寮に行こうとしても断られることも多かった。また2週間ほど前、上条の寮へ行った時に上条の携帯に電話がかかってきた。なにやらとても嬉しそうに話していたので美琴は電話が終わったあとに誰からの電話か尋ねた。上条は「学校の友達だ」と言っていたがそのときの嬉しそうな表情が何かひっかかった。1時間目のテストが始まったあともいろいろ思い悩んでいたが問題は完璧に解いていく。50分間のテストだったが20分も余った。流石は名門常盤台生だ。(もうあとは適当にやろうかな……)1時間目が終わったあと美琴はそんなことを考えていた。残りの教科でわざと低い点をとれば落ちることは確実だ。落ちれば上条の通う高校に行けるかもしれない。そんな考えが美琴の頭をよぎったときマナーモードにしてあった携帯が震えた。そこに表示されていた名前は上条。(当麻から!?)超電磁砲もビックリのスピードで携帯を開けメールを見る。メールを見た美琴の表情は先ほどと打って変わって穏やかになった。『そろそろ1時間目が終わったところか?美琴なら絶対に受かる。ガンバれよ!!』たったこれだけのメールだったが美琴には十分だった。先ほどまでの不安やわざと落ちようなどという考えはすっかり消えていた。(そうだよね…当麻は私のことを考えて反対してくれたんだもん…頑張らなきゃ!!)こうして残りの教科はリラックスして受けることができた。休み時間ごとに送られてくる上条からのメールはより一層美琴を元気づけたのだ。「あ~疲れた!でも当麻のおかげで頑張れたわね…そうだ何かお礼しなきゃ!」そう思いついたのは4時間目の休み時間。美琴は早速上条に『受験終わったあと会えない?』、とメールする。上条に話したいこともたくさんあるしとりあえず会おうと考えたわけである。その後の5時間目のテストも難なく解答し、美琴は受験を終えた。現在は16時を回っておりあたりも薄暗くなり始めている。「よし完璧!これで受からないはずがないわ。さて、当麻からのメールは…あれ?」なんて返信がきているだろうと思い携帯を見てみるがこの1時間の間に受信したメールは黒子22通、美鈴1通だけで肝心の上条からのメールはなかった。いつもならすぐに返事をくれるはずだが1時間以上も時間が経っているのになんの返事もないことに不思議に思いとりあえず電話をかける。しかし電話にも全くでないので美琴は徐々に不安になってきた。もしかしてまた何か事件に巻き込まれたのではないか。そう考えた美琴は急いでバスに乗り込み上条の寮へむかった。寮にいるとは限らないが何もしないわけにはいかないのでとりあえず行ってみようと考えたわけだ。「当麻…無事でいてよね……」上条の寮の最寄り駅で降り、そこから猛スピードで走ろうとしたとき美琴の携帯が鳴った。この音は上条からのメール、急いで携帯を開けメールを見る。『悪い気づかなかった!なんだか電話が通じないからメールで済ます。 俺も会いたいから5時にいつもの公園に来てくれ。大事な話がある。』それを読んだ美琴は事件ではなかったと安心し胸をなでおろした。「あ~よかったなんともなくて。それにしても大事な話ってなんだろな…。」公園に着くまでの間は“大事な話”について考えながら歩いていく。、バス停から公園までは近かったのですぐに到着した。まだ5時にはなっておらず見渡す限り上条の姿も確認できない。「なんだ…まだ来てないのか…」残念そうにつぶやくと側にある電灯にもたれる。そして“大事な話”について再び考え始める。これだけ心配させておいて課題が終わらないので手伝ってくださいとか言いだしたら無意識のうちに超電磁砲を打ってしまいそうだ。(いったいなんの話なのかしらね……まさかプロポーズとか!?…ないない!…でももしそうだったら…)などとありったけ幸福なことを妄想し顔を赤くする。そんなことを考えドキドキしながら待っていると待ち人の姿が見えた。向こうはまだ気づいてないらしくキョロキョロと辺りを見渡している。「ま、この位置じゃ見えないか。さて、と!大事な話とやらを聞かせてもらお―――」そこまで言って言葉が途切れ、上条がいる方向へ歩き出したはずの足も止まる。なぜならば上条の隣には見知らぬ女性がいたからだ。別にただいるだけなら何も問題はないのだがやけに親しそうだ。それに何を話しているかはわからないが楽しそうに会話をしている。(あ、あんなのただの知り合いに決まってるじゃない!早く当麻の見えるところへ行かないと…)そう頭では考えられるが最近の上条の行動に対する不安感からか体は上条の方向へ動いてくれない。しかたがないのでとりあえず物陰に隠れ、2人がこっちへ来るのを待つことにした。上条は辺りを見回しながら美琴が隠れている場所のすぐ側までやってきた。(とりあえず2人の会話を聞こう!それから出て行っても遅くはないし…。)そういうわけで美琴は2人の会話を聞くことにした。だが盗聴系の能力者でもなくそういった機械ももちろん美琴は持ち合わせていないわけで会話はところどころしか聞こえない。(う~ん…うまく聞こえないな…私がいないみたいなことを話してるみたいなんだけど…)それでも聞き続けると話題が変わりいくつかの単語が聞こえた。その単語というのが、別れる、飽きた、めんどくさい、などといったものだった。(うそ―――)それを聞いた美琴は絶句する。(うそ、うそ、うそ、よね、当麻…そんなわけ…)「まあアイツも高校生になったし調度いいかと思いましてね。」上条達は美琴の近くまできたためその言葉だけははっきりと聞こえた。大事な話とは別れ話だった、それがわかった瞬間美琴の目の前は真っ暗になった。この状況で自分の姿を見られるわけにはいかない。そう考えると美琴は常盤台の寮へと走っていった。◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇寮に帰ってくると美琴はすぐにベッドに倒れこんだ。ここまで全力で走ってきたのだから疲れているのは当たり前だ。だがベッドに倒れこんだ原因はそれだけではない。上条と別れる、その闇に支配された美琴はうつぶせのまま泣き始める。「う…うう…なんで…当麻…なんでよ…ヒック…どうして……やだ、やだよ…うう…」汗をかいていることや足がつりかけていることなどもはやどうでもいい。なぜ別れなければならないのか、美琴の頭の中はその疑問で埋め尽くされた。するとふいに携帯電話が鳴る。この着信音は上条、それも電話のようだ。今の美琴が電話にでられるはずもなく1分ほど鳴り続いたあとその音は消えた。すると今度は別の着信音、これは上条のメールの音だ。美琴は携帯を手に取りおそるおそるメールを見てみる。『もう5時半だけどどうした?何かあったのか?連絡をくれ。』このメールが別れ話ではないことに少しほっとする。しかしもう今日会うわけにはいかない。この状態で会ってもろくに話しなどできないだろう。だが連絡しないわけにもいかないのでメールを送る。『心配かけてごめんね。今日は入試のことを学校に報告しないといけないから行けそうにないわ。 こっちから誘ったのに本当にごめんね。』真っ赤な嘘だがこの際しかたない。あの会話を聞いていて走って寮に戻ったなどと本当のことを話すわけにもいかない。震える手でなんとか送信を完了する。するとすぐに返信がきた。美琴は先ほどと同じくおそるおそるメールを見る。『そうか…残念だな。まあ何かあったのかと思ってたから無事でよかったよ。また明日にでも連絡する。受験お疲れ。』このメールを見て美琴は少し冷静になった。このメールを見る限り別れ話をしようという感じではなく、ただ純粋に心配してくれているだけだ。美琴は体を起こしベッドに座り公園での出来事を思い出す。先ほどは上条の言葉を聞き気が動転してしまい悪い方向にばかり思考が進んでいた。しかし冷静になってからあの公園での出来事を考えるとまだ別れ話だと決まったわけではないと思うようになった。だいたい別れるからといってあの上条が“飽きた”や“めんどくさい”などと他人に漏らすだろうか。冷静に考えればそれはありえない。それにはっきり聞こえた上条の言葉では『美琴』ではなく『アイツ』と言っていた。ならば先ほどのことは自分の勘違いで本当は別の話ではないか、と美琴は考えた。しかしすべての不安が消えたわけではない。別れ話でなくても最近上条が自分に何かを隠していることは明らかだ。今日上条の隣にいた女性やその前の電話など不審なところが多すぎる。…まあ女性関連についてはそれ以前、ずっと前からいろいろと問題があるのだが。気分は落ち着いたため美琴は上条に電話をかけようとする。“大事な話”や最近のことについていろいろと聞くためだ。だがあとボタン1つで電話がかかる、というところで美琴の指が止まる。上条があのようなことを言うなどありえない、だがもし上条に心境の変化があってそれがありえたとしたら?電話で理由もわからないまま一方的に別れ話をされたら?そしてそのまま上条と会えなくなったら?美琴はまた悪い方向へと考えてしまった。この指があと少し下に動くだけですべてがわかるのに、美琴には電話をかけることができなかった。結局この後美琴は不安のため上条に電話もメールもしなかった。(明日会えば…すべてわかる……)こうして美琴は再度気持ちを落ち着かせる。もうすぐ帰ってくる黒子に今の心境を悟られないためにも。◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇翌朝目を覚ますとなくなりはしていないものの昨日ほどの不安はなかった。この日は休日、まあ卒業した美琴にとって3月はすべて休みということになるのだが。部屋に黒子の姿が見えないのは風紀委員の仕事へ行ったからのようだ。顔を洗い着替えをしてから携帯を見ると上条からメールがきていた。送られてきた時間は今から1時間前。その内容は『悪いけど急に1日中補習があることになって今日は会えない。また夜に電話かメールするよ。』上条に会えないとわかると残念だと思った反面少し安心した。安心したというのは別れ話をされるのではないかという不安がまだ完全には消えていないからだ。美琴は上条と会う予定がなくなったので朝食を摂った後、引越しの準備をすることにした。3月の終わりには新入生が寮に入ってくる。それまでに卒業生は退寮し新しい下宿先を見つけなければならないが下宿先については美琴は受かった高校の寮に入る予定なのでなんの問題もない。だが本当は寮などではなく上条と一緒に住みたかった。実際美琴は上条に高校生になったら一緒に住みたいと言ったことがある。上条の寮は男子寮なのでもちろんそこに住むわけにはいかない。だから他に部屋を借りて住みその費用は私が負担するから、などと説得を試みた。しかし上条からはお前にお金を払わせるわけにはいかない、とあっさり断られていた。数時間後、片付けを終えベッドへ倒れこむ。片付けといってもあと数日はここにいるためすべて片付けてしまうわけではない。今日行ったのは不要なものの処分と簡単な荷造りだ。「あらかた片付いたわね……立ち読みでもしてこよっかな。」片づけを終えた美琴は寮にいても暇なので立ち読みをするためコンビニに行くことにした。だが今日は運が悪くいつものコンビニに読みたい雑誌がなかった。「あーもう!なんでないのよ…」愚痴を言いながら少し遠めのコンビニに到着し目当ての雑誌があったため早速立ち読みを開始。こうしている間だけは不安から逃れることができた。立ち読みを始めて20分、読みたいものはすべて読み終わった。移動時間と合わせて1時間ほど時間が経っておりもう昼時であるため昼食を摂るため移動しようとする。「さてと…次はファミレスにでも……え?」美琴がコンビニの中から見たもの、それは補習があるといって学校に行っているはずの上条だった。時刻は12時を少し回ったところ、補習ならまだやっているはずだ。昼食を食べに来たとしても上条の学校からは離れすぎている。(なんで…ここに?急に補習がなくなったとか?…いやそれなら連絡をくれるはず…)不振に思った美琴は上条の後をつけることにした。話しかけることも考えたが昨日のことと朝のメールのこともあり話しかけずらかった。上条は全く美琴に気づいていない。(何を隠してるのかは知らないけど絶対に暴いてやるんだから!)こうして尾行を始めて30分、すでに美琴のイライラはMAXに近くなっていた。それもそのはず、この30分の間に上条はフラグを立てまくっていたからだ。まさに歩くフラグメイカーである。そこからさらに30分が経過。フラグを立てまくる以外には特に何も変わったことはなかった。強いていうならば上条の不幸さが改めてわかったくらいだ。尾行を始めて1時間近く経ったのにただ第7学区を歩き回るだけの上条。何件か店に入っていったがそれは食料品の安さを調べているだけで事意外本当に何も起こらない。(はぁ…何もなさそうだし帰ろうかな…それともここで声をかけようかな……)あまりの何もなさにいい加減飽きてきた美琴は悩み始めた。帰るか、声をかけるか、美琴が迷っているときについに上条が動いた。上条はポケットから取り出した携帯を見てそれに従い歩いていく。美琴は先ほどまで帰るか、話しかけるかなどと考えていたがもはやそんなことはどうでもよくなっていた。上条に気づかれないように今まで以上に慎重につけていく。美琴は自分の鼓動が少し早くなるのを感じた。するとたどり着いたのはそこそこ大きなマンション。上条はそのマンションに入っていった。(まずい!エレベーターを使われたら見失う!)そう思った美琴は何か策を練ろうとしたが必要なかった。なぜかエレベーターがこない。故障中でもないのにだ。上条はただ一言「不幸だ…」と言うと階段を上っていった。美琴はそれを見てどう反応していいか困った。(初めて当麻が不幸でよかったと思っちゃったわ…ごめんね当麻…)などと心の中で一応謝る。そんなこんなで目的の階らしい5階に到着。上条がインターホンを押して誰かが出てくるのを待っているのを美琴は隠れて見ていた。鼓動は先ほどより早くなっており冷や汗がにじむ。嫌な予感がする。美琴はその予感が当たってほしくないと願った。しかしその願いは叶ってはくれなかった。出てきたのは昨日の若い女性。美琴は目の前の現実を信じたくはなかったがその光景は変わらない。さらに聞こえてきた会話が追い討ちをかける。『あら、遅かったわね。』『すいません、まだこの辺の道よくわからなくて……』『ところで本当に彼女さんに内緒でこんなことしていいの?』『本当は昨日言う予定だったんですけどね、ここまできたら内緒にしとこうと思いまして。』『そうなんだ。まあ私が口出しすることじゃないわね。さ、早く上がって。』そうして上条はその部屋に入っていった。昨日と違いこの会話ははっきりと聞こえた。そして美琴は静かにその場を去った。昨日のように走るのではなく、泣くこともなく、ゆっくりとマンションをあとにした。美琴は気がつけば常盤台の寮に戻ってきていた。どうやって帰ってきたかなど覚えていない。無意識のうちに帰ってきたようだ。今日の出来事はあまりにもショックが強すぎた。昨日をはるかに上回る絶望感。顔は真っ青で全身の震えが止まらない。昨日はまだ自分の勘違い、ということも十分ありえた。しかし今日は違う。上条は自分を捨てた、もう別の女のところへいってしまった。それがはっきりとわかった、わかってしまった。ここで今朝の上条のメールを思い出した。夜には電話かメールをすると書いてあったはずがそのときに別れ話をされるかもしれない。上条はあの女との会話で内緒にしておくと言っていたが本当に内緒にするとは限らない。まだ別れたくない、その一心から美琴はポケットから携帯を取り出し電源を切った。こうして美琴は上条との連絡を絶った。◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇それから3日後の16日合格発表の日の朝、なんともいえない疲労感と喪失感に見舞われながら美琴は目を覚ました。上条に捨てられたショックで寝込みこの4日間は1度も部屋から出ていない。黒子や寮監は何があったのかと心配してくれたが体調が悪いと言ってごまかしていた。本当に体調は悪かったがその原因を言うわけにもいかないし、もし言えば黒子は上条に危害を加えるからだ。たとえ上条が自分を捨てたとしても上条が傷つくのは絶対に嫌だった。あれから数日間いろいろなことを考えた。あのときの電話相手はマンションの女性だったのか。最近付き合いが悪かったのはあの女性と会うためだったのか。受験を頑張れとメールしてくれたのは同じ学校に入らせず自分を遠ざけるためだったのだろうか。悪い方向に思考が進むことが多かった。しかし1番多く考えたことは上条との楽しかった日々だった。学校が終わると毎日のようにデートし、土日はいろいろなところへ遊びに行った。遊園地や映画館、ゲームセンター、水族館にプール、劇場や旅行にも行った。もうあの楽しかった日々は戻ってこない。最終的にはそう考えてしまい毛布に包まって泣く、そんな繰り返しだった。この日もずっと寮にいたかったが合格発表に行かないわけにはいかない。風邪は治っておりいるが重い足取りで受験した高校に向かう。結果は「合格……か。」周りでは受かって騒いでいる子や落ちて落ち込んでいる子がいる。だが美琴はそのどちらでもなかった。受かって落ち込んでいるのだ。理由はもちろん上条の存在。「受けてる時は楽しみだったんだけどな…4月からの生活…」頼もしい存在であった上条はもう自分のもとにはいてくれない。だが受かったことで逆に踏ん切りがついた。上条に会おう。会ってすべてを終わらせてこよう。そうして4月からの新しい生活をむかえよう。そう決意した。そして美琴は受付でいくつかの書類をもらうとその学校を後にした。いや正確には後にしようとした。「よ、久しぶりだな。その書類を見る限り受かったみたいだな。」その声の主は上条、いくら会おうと決意したといえどこれは早すぎる。ついつい書類を落っことしそうになる。美琴は会っていろいろな話がしたかったが何もでてこなかった。でてきたのは単純な質問だけだった。「な…んで…ここに…?」「なんでって彼女の合格発表の日だぞ?しばらく連絡つかなくて心配だったしここに来るのも当たり前だろ?。」上条が来たことがありえない、という表情をしている美琴を見て上条はため息をつく。「はぁ…なんて表情してんだよ…そんなに俺が来たことが嫌だったか?」「い、嫌なんかじゃない!でも…」思わず美琴は叫んだ。周りの視線が2人に集まる。「でも…なんだよ。まあいいや、俺も話したいことあるしちょっと移動しようぜ。」話したいこと、その言葉を聞いて美琴は上条から離れたくなった。しかしこれ以上上条に迷惑をかけるわけにもいかない。歩き出した上条にとりあえずついていくことにした。◇ ◇ ◇歩くこと数分、やってきたのはあのマンションだった。この時点で美琴は泣きそうになった。ひょっとしたらもう涙目になっているかもしれない。だが前を歩く上条はそんなことに気づかない。(今までなら絶対隣を歩いてくれたのに…)明らかに今日の上条は歩くペースが速かった。だから何回追いついても美琴は上条から数歩遅れてしまう。また手をつなごうにも上条は両手に荷物を持っていてつなぐことができなかった。上条はマンションのエレベーターの手前まで来てようやく歩くのが速かったことに気づいたようだ。「悪い!少しでも早くここに来たくてさ。」「別に…それだけ大事なことだもんね…」上条の言葉に美琴は自分の中にどす黒い感情が生まれたのがわかった。自分から上条を奪い取ったあの女が憎い。そしてその感情は1分でも、1秒でも時間が経てばどんどん膨れ上がっていくこともわかった。(あの女に会ったら速攻で電撃をくらわせてやる)部屋に着くまで上条が何か話しているようだったが美琴はそれを一切聞いていなかった。電撃をくらわせるなどと物騒なことを考えているうちにあの部屋の前にたどり着いた。インターホンを鳴らすのかと思いきや上条は鍵を取り出すとそれを使いドアを開ける。この時点で美琴はかなり帯電していた。しかし上条が右手で美琴の腕をつかんだため帯電していた電気は消える。「さ、入ろうぜ。」「え?ちょ、ちょっと!!」上条はドアを開けると美琴の腕をつかみ強引に引っ張って中へと入る。美琴はそれを振り払おうとしたが玄関を上がったところで上条のほうから離した。再び帯電しかけたがそこで美琴はあることに気づく。(あの女は…いない…?)中に人の気配はなかった。美琴の能力でも誰もいないということがわかる。そして通路の先の部屋に入ってみても女の人が生活しているような様子はなかった。それ以前に置いてある物がやけに少ない。まるで引越ししたてのようだ。そこでふと上条のほうを見ると顔を少し赤くし何か言いたそうだった。「まあ言いたいことはいろいろあるけどまずは美琴、合格おめでとう!お前なら絶対受かると思ってたよ。」「あ、ありがと……で、この部屋なんなの?」「ああ今から説明する。と、その前にこれ受け取ってくれ。ちょっと遅くなったけどバレンタインのお返しだ。」そういって手渡されたのは小さな四角い箱。きれいに包装されておりどう見てもどこかの店で買ってきたものだ。「(今年は手作りじゃないんだ…)わざわざ悪いわね。」お返しをもらえたことはもちろん嬉しい。だが去年は手作りだったことを考えるとやはり自分はこの程度の存在なのかと思ってしまう。まあずっと手に持っているわけにもいかないのでその箱を持っていたカバンにしまおうとすると「あ、あのさ…それ今開けてみてくれないか?」美琴はなぜ今?と思ったが別に断る理由などないので開けることにした。結構頑丈な包装ほどくと出てきたのは何やら立派な箱。(お菓子にしてはえらい豪華な箱ね―――え!?これは…)美琴の予想に反しその中身は――――――――――――指輪美琴が驚きのあまり固まっていると指輪を上条が手に取る。そして無言のままその指輪を美琴の薬指にはめる。上条は美琴の指のサイズなど知っているはずがないのだがなぜかぴったりだった。さらによく見てみるとその指輪には『KAMIJOU TOUMA KAMIJOU MIKOTO 』と刻印があった。さすがは学園都市製、小さな指輪だが文字ははっきりと見えるよう刻印されている。「それでだな、美琴も4月から高校生になって常盤台の寮を出ることになるしさ」そこでいったん言葉を区切り上条は美琴に優しく微笑みかける。「ここで俺と一緒に暮らさないか?」美琴はまだ目の前の状況が理解できなかった。ここはあの女の部屋ではなかったのか、上条は私を捨てたのではなかったのか。その他にも膨大な疑問が浮かんできたが、今はそんなことはどうでもよかった。嬉しさとともに涙がこぼれた。1粒、2粒とこぼれるともう止まらない。目の前で焦っている様子の上条の姿が歪んでいく。「え!?なんで!?ひょっとして嫌だったのか!!?指輪か!?一緒に暮らすってことか!?」それを言葉で否定しようとしたが泣いているためうまくしゃべれない。首を小さく横に振ると美琴は上条に抱きついた。上条はそんな美琴に驚いたようだったがすぐに腕をまわし優しく抱きしめる。久しぶりの彼の体温、久しぶりの彼の匂い、久しぶりの彼の抱擁。すべてが懐かしく、そして恋しかった。それから何分経ったのだろうか。美琴としてはもっとこうしていたかったが気分は落ち着いたし言わなければならないことがある。美琴は名残惜しそうに上条からそっと離れる。数分間立ちっぱなしだったため2人はとりあえずその場に座ることにした。それから少しの沈黙の後美琴が口を開く。「ありがとう、当麻…指輪も、一緒に住もうって言ってくれたこともすごく嬉しい…覚えててくれたんだ。」公園のことやあの女のことなど多くの疑問があったが美琴はとにかくお礼を言いたかった。「そんな大事なこと忘れるわけないだろ?前は美琴がお金を払うって言ったから断っただけだったしな。」美琴は手に目をやり薬指に指輪がはめられているのを確認する。しっかりと感触がある、夢ではない。と、ここで美琴は重大な問題に気がついた。「……あ…でも一緒に住むって言ったらうちの親がなんて言うかな…」それは両親が許可してくれるかどうか、ということだ。美琴としては一緒に暮らすのはもちろんOKだ。しかし美鈴はともかく旅掛はこういうことに厳しい。なんて説得しようかと美琴が迷っていると「それなら問題ないぞ。もう許可もらってるからな。」またしても上条に驚かされた。「受験の少し前だったかな、ほら美琴がうちに来てた時に電話かかってきたことあっただろ? あの電話の相手は美鈴さんで許可がおりたとこだったんだよ。 まあ一緒に住ませてくれって最初に頼んだのはもっと前だったけどな。」「そんなに前から……じゃ、じゃあ受験の前あんまり会ってくれなかったのは私の親を説得するため…?」「あー…いや、それはまた別のことでだな……」上条が言葉を濁す。と、ここで美琴は上条の変化に気づいた。今日はまだ上条の顔をしっかり見たことがなかったので気がつかなかったが前よりも痩せた気がする、というか明らかに痩せた。目元に隈もできており疲れがみえる。そこから導き出された答えは1つ。「ねえ……マンションと指輪のお金って…どうしたの?」「え!?……こ、これくらい上条さんにとって支払うのはたやすいことですよ?」明らかに嘘だった。片方でもかなりお金がかかりそうなのに貧乏学生である上条が簡単に両方支払えるわけがない。バイトをしていたに決まっている。それもかなりの時間を。「……バイトしてたんでしょ?」その言葉に上条はビクッっとする。図星のようで美琴を見てはいるが目は合わせていない。「し、してたけどほんの少しだぞ?1週間…いや4日くらいだったかな~……。」「ねぇ……本当のことを話して……。」美琴は上条をじっと見つめる。それに対し上条はしばらく考えたあと口を開く。「……わかったよ。話すからそんな悲しそうな顔するなって。」どうやら隠しても無駄と思ったようだ。「俺はここ2ヶ月くらいバイトしてた。お前も受験勉強で忙しくて会えないだろうから調度いいと思ってさ。 そんでそのバイトのお金で指輪買ったんだ。ま、そんな疲れるバイトじゃなかったから心配すんなよ。 欲をいえば受験の日にマンションのことを話してホワイトデーに指輪を渡したかったんだけどな、まあ風邪ひいてたならしょうがないよな。」「え?」美琴は上条の言葉に耳を疑った。今上条はなんと言った?受験の日にマンションのことを話してホワイトデーに指輪を渡したかった?「あ、のさ……まさか…受験の日の“大事な話”って…この部屋のことだったの…?」「ん?ああ。俺としては12日に一緒に住もうって言って13日に引越しの準備、 んで14日に引っ越して指輪を渡すって予定だったからな。」上条はまあ今日同時にプレゼントできたから結果オーライだけど、と言っていたが美琴の耳にははいっていかない。上条を尾行したときのような冷や汗が流れる。「それと……なんで風邪のこと知ってるの?」風邪をひいたということを上条が知っているのはおかしい。風邪だと言って部屋にこもり始めたのは13日からでそれから今日まで上条とは1度会っていない。町で黒子に会い聞いたのだろうか、と思ったがその答えは予想外のものだった。「なんでって…13日の夜に常盤台の寮まで行って寮監から聞いたからじゃないか。 ていうか最近は毎日行ってたんだけど寮監から俺のこと聞いてないのか?」「え……あ―――――」上条の言葉を聞いて美琴は思い出した。確かに13日の夜に寮監は美琴の部屋に来て何か話そうとしていた。しかし美琴は体調が悪いことを理由にそれを聞かなかった。そしてそれ以降も同じように寮監が来ても話を聞こうとはしなかった。上条が来てくれていたということに驚いている美琴を見て上条は不思議そうな表情を浮かべる。「まさか知らなかったのか?おかしいな…寮監に伝えてくれって頼んだのに。」対する美琴は今上条が言っていることが信じられないというような表情だった。だがそれは紛れもない事実、すべては美琴の勘違いだったのだから。「そ、そんな…バイトも大変だったはずなのに…わざわざ来てくれてたの…?」とんでもない勘違いをしてしまった、という思いから顔が青ざめていく美琴。だが上条は自分がバイトのことを話したことが原因だと思い慌てて弁解する。「い、いやだから別に大変ってことはないぞ!?さっきも言ったけど疲れるバイトじゃなかったし 美琴の笑顔が見れることを考えれば楽しいくらいだったしな!」「ッ―――――」大変でないはずがない。疲れないわけがない。上条の姿を見ればわかることだ。毎日のようにきついバイトをして食事なども削っていたに違いない。それなのに心配をかけないようバイトをしていたことを隠そうとしていた。それだけ苦労してホワイトデーことを計画してくれていたのに自分の勘違いで台無しにしてしまった。(最低だな……私……)美琴は謝らずにはいられなくなった。「……ごめんね…」「へ?何がだ?」「実はね…私こないだ当麻を尾行してたの…」それを聞いた上条は驚いたようだったが何も聞き返さず黙って話の続きを聞いていた。美琴は受験の日からのことをずべて上条に話す。「その前の日に公園で女の人といるのを見て…不安になって…それで次の日たまたま外で当麻を見かけてここまでつけてたのよ…」美琴の声が涙声になる。目からは先ほどと別の涙があふれそうになる。美琴は自分を責めた。なぜ上条を信じることができなかったのか。そんな自分が心底嫌になった。「その時この部屋から女の人がでてきたからてっきり浮気してるのかと思って…それで…連絡もしなくて…」「美琴…」「部屋にこもってて…当麻がきてくれてたのに……気づかずに自分の都合で追い返して…」上条はそこまで聞くと美琴を抱き寄せた。「まさか不安にさせてたなんてな……でも安心してくれ。あの人はここの管理人さんなんだ。 受験の日はたまたま会っただけだったしその次の日はちょっとした用事でここに来てたんだ。 本当ごめんな美琴……。」「と、当麻が謝る必要なんてないわよ!私の勘違いが全部悪いんだから!」上条に謝られたため美琴は慌てて反論する。「当麻は…私のこと考えてくれてたのに…私は…私は勝手に勘違いして落ち込んで…勝手にいらついて……それに―――」そこまで言って美琴の言葉が途切れる。上条がキスをしたためだ。「ん…それ以上は言わなくてもいい。そんなことより笑ってくれよ。」「え?」「俺は美琴の笑顔が見たくて指輪とこの部屋を用意したんだ。美琴が笑ってくれないと意味ないだろ?」「あ……」上条の言葉通りこの日美琴は1度も笑っていなかった。それどころか上条を尾行した日からずっと笑ったことがなかった。今朝まではもうこれから先は笑うことができないかもしれないとさえも美琴は思っていた。だが上条はこれからも自分の側にいてくれる。また笑うことができるのだ。上条から離れた美琴は泣きかけていたため目をふき顔を上げる。「ありがとう当麻」2度目のお礼の言葉とともに最高の笑顔を上条にみせる。それは作られたものではなく嬉しいという気持ちが心の底から現れたものだった。◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇そしてあれから1カ月後、新学期が始まり、とあるマンションで暮らす2人の姿があった。「ほら当麻起きて!朝ごはんできてるわよ。」「んー……」美琴に起こされると上条は寝むたそうに洗面所へと向う。上条が顔を洗っている間に美琴は朝ごはんをテーブルへと運ぶ。「おー……今日は普通だな。」「え?いつもと変わらないじゃない。」美琴が用意した朝食はパンとちょっとしたおかず、いつものメニューだ。「いや…美琴の格好がさ。」その言葉に美琴の顔は真っ赤になる。今の美琴の服装はパジャマにエプロンをしている。が、昨日はパジャマを着ていなかった。つまり…裸エプロンである。それを見た上条は暴走、ことが終わるころにはとっくに学校は始まっており2人とも休むはめになった。「……ま、まあ…あれは休みの日だけにしておくわ。毎日してたら学校に行けそうにないし……」休みの日はするのか、と上条は思った。「それにしても…毎日メシ作ってもらって悪いな…他の家事もまかせっきりだし…」上条の言葉通りこの部屋で暮らすようになってから家事はすべて美琴が行っていた。上条も手伝うと言ってくれたが美琴は断っていた。上条には指輪とマンションのお礼、という理由にしていたが本当は上条を疑ってしまった償いでもあった。また家事以外にも上条のためにできることはなんでもしようとしていた。ちなみに裸エプロンも償いの1つである。それからもう1つの美琴が家事をする理由、それは「何言ってるのよ!私は当麻のお、お嫁さんなんだから当たり前でしょ。」家の中では美琴は完全に『上条美琴』モードであるからでもあった。そして2人で朝食を食べ学校へ行く準備をする。「美琴ーもう行くぞー。」「ちょっと待ってー…ってお弁当忘れてるわよ!」「何ぃ!?美琴の愛妻弁当を忘れるとはなんたる不覚!!」「愛妻って…まあその通りだけど…///」「悪い悪い、じゃ行くか!」そして2人は途中までだが一緒に登校していく。初めてマンションに来たときと違い上条は美琴の隣を歩き手をつないでいる。その指には指輪があり今の美琴に不安は一切ない。「それにしても……美琴といると幸せだな。」「い、いきなり何よ。」突然の上条の言葉に美琴の顔は少し赤くなる。そんな美琴を見て上条は笑いながら答える。「いや~好きな子と一緒に住んで毎日その笑顔が見れるんだからな、この上ない幸せ者だよ俺は。」それを聞いた美琴は立ち止まり上条もつられて止まる。そして美琴は笑顔で上条に問いかける。「ねぇ当麻……これからも一生私の側にいて私の笑顔を見続けてくれる?」上条はすぐに美琴の問いかけに答えた。その答えは言わずともわかるだろう―――――
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1455.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/投稿者 「∀」 ∀(2-230)氏 ▲ ∀(2-230)氏 とある帰り道 嫉妬する上条さん(美琴視点) やくそく 不幸を背負って バイト生活 1 0日目 バイト生活 1 1日目 嫉妬する上条さん(上条視点) バイト生活 2 2日目 バイト生活 3 3日目 上条さんがいちゃいちゃスレを見つけてしまいました。 1 バイト生活 4 4日目 勝手に終わりを想像してみた 上条さんがいちゃいちゃスレを見つけてしまいました。続き 2 小ネタ 本当と嘘 バイト生活 5 5日目 小ネタ バレンタインでの不幸(?) 悪夢 責任の取り方 1 責任の取り方 2 バイト生活 6 6日目 A lie バイト生活 7 7日目 バイト生活 8 おまけ 小ネタ みかん 小ネタ 黒子→美琴×上条の日常 1 小ネタ 上条さんが狼にっ!? 小ネタ 二人が何かしています。 1 小ネタ 二人が何かしています。 2 詳細 ▲ 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/投稿者 Back
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2433.html
ねむねむタイム それなりの修羅場はくぐってきた。ある時はレベル5の第一位と戦い、またある時は、ローマ正教を裏で牛耳る最強の魔術師と互角に渡り合った。ロシアでは戦場を駆け抜け、バゲージシティでは地獄も見てきた。たかだか一介の高校生には受け止めきれない程の心の傷を負いながらも、彼はここまでやってきたのだ。しかしここに、そんな彼すらもあざ笑うかのような、最大の敵が立ち塞がっている。過去の偉人たちに睨まれ、異国の言語を読み取り、暗号と数式の解を求め、化学式に頭を悩ませる。ぶっちゃけ課題である。上条はここ三日間、ず~~~っと問題集やらプリントやらとにらめっこをしていたのだ。それもそのはず。何しろ三日前、小萌先生に泣き付かれてしまったのだ。ただでさえ成績は下から数えた方が早いくらいなのに、度重なる無断欠席で出席日数もギリギリで、もはや小萌先生のフォローだけでは、学校側としてもどうしようもない状態になっていた。なので今回の三連休を使い、「せめて誠意だけでも見せる」ため、この三日間、ただひたすら、黙々と課題をやっていたのだ。だが人間の集中力には限界がある。そうでなくても、徹夜続きだ。フラフラするのも無理はない。しかし課題はまだ山のようにある。小萌先生のところにインデックスを預けてまで(本人は渋々だったようだが)やっている課題だ。さすがに終わらせないと色々とマズイ。けれども眠いし終わらない。上条は働きが鈍くなった頭をなんとか動かし、ある人物へと電話する。「……あ、美琴…か? 悪いんだけど………た、助けてください!」その言葉を最後に、上条は力尽きた。 せっかくの休日だというのに美琴はヒマである。ルームメイトの白井は、風紀委員で忙しいのだそうだ。ベッドに転がり、少女漫画を読みながらダラダラとしていると、ケータイが鳴り響いた。この着信音は一人だけにしか設定していない。ガバッと起き上がり着信相手の名前を見る。やはり上条からだ。まず慌てる事31秒、心を落ち着かせる事14秒、軽い発声練習8秒、鏡を見て前髪だけでも直そうかと思ったが「あっ、電話だから関係ないや」と思い直した事0.17秒。計53.17秒の準備期間の後、美琴はケータイを手に取った。「ななな、何の用かしら!!?」それでもこの体たらくである。『……あ、美琴…か?』上条の声は明らかに弱々しい…と言うより半泣きだった。『悪いんだけど………た、助けてください!』「助けてって…アンタ何があったの!?」尋常ではない上条の様子に、美琴は思わず声を荒げる。だがそれ以降は上条の声は聞こえてくる事はなく、代わりにツー、ツーという音が聞こえてくるだけであった。嫌な予感がする。美琴はケータイの着信履歴を見る。不幸中の幸いと言うべきか、どうやら寮の固定電話からかけられたものらしい。場所なら分かる。美琴は急いで上条の寮へと走り出した。 この野郎!それが現場に駆けつけた美琴の心の中の声の、第一声であった。被害者はコタツで突っ伏す形で倒れており、チャーペンを握り締めたまま固まった右手は、ノートに「(x-6)(x+2)=0 これより,x-6=0 またはx+2=0 よって,x=6,-2」という謎のダイイング・メッセージを残している。よほど凄惨な事件だったらしい。「ったくもう! 心配して損したわよ!!」そう言いながら毛布をかけてあげる美琴。本人のためを思うなら、本当は起こしてあげる方がいいのだが、上条がそこまで切羽詰った状態である事を美琴は知らないのである。だがコタツに広がった参考書やら問題集やらを見て、ある程度状況を把握した美琴は、「せっかく来たんだから、ちょっとくらい手伝ってやりますか」と、上条の握っていたシャーペンを抜き取ろうとする。その瞬間、美琴はとんでもない事に気付いてしまった。今ってもしかして、二人っきりなんじゃね?そうなのだ。この狭い空間で、美琴は上条と二人っきりなのだ。黒子はいない。いつもコイツにくっついている、ちっこいシスターも何故かいない。しかも目の前にいるコイツは熟睡していて、自分が何をしても起きそうにない。そのことに気付いた美琴は、声にならない叫びを上げる事5秒、色々と想像して悶絶する事246秒、一旦落ち着こうとして深呼吸する事133秒、そして再び想像して悶絶する事177秒、その後なんやかんやで405秒。計966秒、約16分間も何かワチャワチャしていたのだ。こんなチャンスは滅多にない。今こそ積年の恨み(主にスルーされたり、イライラさせられたり)を晴らす時。当初の目的【べんきょうのてつだい】はどこへやら、上条が無防備なのをいいことに、仕返しという名のイタズラが、今、始まろうとしている。 美琴は高鳴る胸を抑えながら、その油断しきった顔に近付いていく。くかーっと寝息を立て、よだれを垂らし、時折むにゃむにゃと何か言っている。非常にだらしない姿だが、恋する乙女はそれを「カワイイ」と表現するらしい。子犬でも見つめるようにウットリとしている。しかし、長時間直視する事はできないらしく、「見つめる→目を逸らす→深呼吸→見つめる」を繰り返していた。こうしてるだけでも充分幸せなのだが、しかしそれでは、せっかくのこの貴重な時間が勿体無い。コイツが起きる前に、普段できないような事をして、もっと楽しんでしまおう、と美琴は考えた。 [MissionⅠ NEGAO WO GEKISYA SEYO!]美琴はケータイを取り出し、その寝姿を保存しようと企んだ。一応建前上は、「何かあった時に、この写メを材料に交渉【きょうはく】する」というものだが、本当の使用目的は乙女の秘密である。何度もパシャパシャと音を立て、うまく撮れて保存したもの、緊張して手ぶれが激しくなり失敗したもの含めて、約100枚近くの写真を撮る。もうホクホクである。「ふっふ~ん。 いっつも私をスルーするから悪いのよ~♪」と、口では言っているが、顔はニヤケきっている。上条とは違った意味で、こちらもだらしない。と、その時である。上条が「みこ…とぉ……」と小さく呟いた。バレた!!? と思ったが、寝言だったようだ。「お! お! 驚かすんじゃないわよ!!」本当に心臓が飛び出るかと思ったらしい。後に美琴はこのときの事を、「14年間生きてきて、一番ビックリした瞬間だった」と語っている。しかし上条はどんな夢を見ているのか。その後も何度も「美琴」の名前を呟いている。実際は「ヘルプで呼んだはずの美琴が、課題の追加を大量に持ってきた」という、とんでもない悪夢を見ている訳なのだが、そんなことを知る由もない美琴にとっては、「ひょっとしてコイツ、夢の中で私と!?」とか思ってしまう。真実というのは残酷なものだ。 [MissionⅡ NAMAE WO YONDE MIYOU!]何度も何度も名前を呼ばれ、美琴も妙な気分になってくる。この特殊な空間がそうさせたのだろう。普段ならありえないが、コイツが寝ている今なら言えるかもしれない。コイツの名前を。「み、こと……」「ななな、何よ! と、と、とう、ととと、とう」「みこ…むにゃ……」「とう、とう、とと、と、とう…………ま………」「言えた!」と胸を張って言えるかは微妙だが、一応名前を呼んだと言えなくもないような気がする。その後も何度か挑戦したが、「と」と「う」と「ま」を繋げて呼べたのはこの時だけだった。 それにしてもこの男、まるで起きる気配がない。これだけ近くで美琴が大騒ぎ(本人的にはその自覚はない。あくまで冷静なつもりである)したというのに、相変わらずレム睡眠の真っ最中だ。これだけ起きないのであれば、多少無茶しても大丈夫なのではないだろうか。 [MissionⅢ IROIRO SAWATTE TANOSHIMOU!]一応、名前は呼べた(と本人は思っているらしい)ので、今度はもう一段階ハードルを上げてみる。ゴクリと生唾を飲み込んだ後、そ~っと腕を伸ばし始めた。どうやら触れてみたいらしい。相手を刺激しないように、まるで猛獣と触れ合うかのような、ゆっくりとした手つきではあったが、美琴の右手は、見事、上条の頭にポフッと着陸した。「ふぉ!? ふおぉぉぉおおおお!!?」感激と興奮のあまり、言語中枢がおかしくなった模様。そのままワシャワシャと頭を撫でてみた。トゲトゲした髪は、触ってみると意外と柔らかく、「大型犬ってこんな感じなのかな?」と、何となく思った。その後も鼻をつまんでみたり、耳たぶをフニフニしてみたり、首筋をコチョコチョしてみたりと、本人が寝ているのをいいことにやりたい放題だ。自分からやっておいてイチイチ悶える美琴も美琴だが、これだけされても全く起きない上条も上条である。だがほっぺたをプニプニと突いている時に事件は起こった。くわえやがったのだ。美琴の細い人差し指を、上条の口が無造作に。「!!? !!!!?? !!!!!!????」あまりの出来事に脳が追いついていないらしい。学園都市で第三位の演算能力をもってしても、処理できないことはあるのだ。上条は「千歳飴……」と、とても夢の内容が分かりやすい寝言をほざきながら、チュピチュピと美琴の指を、吸ったり舐めたり転がしたりしている。本当は起きているのではなかろうか。「や……ちょ、やめ………ぁ…は、あ…………んん!!」やだ、なにこれエロイ。やっとの思いで指を抜き取ると、上条の口と繋がった糸がツツーッと引いていた。美琴はそれを、心臓をバックンバックンさせながら、自分の唇へと当てようとする。もう一度言うが、普段の彼女は絶対にこんなことはしないだろう。何もかもこの状況が悪いのだ。だが唇に触れようとした瞬間、ハッと思い直し、頭を抱えた。(な、何をしようとしてんのよ私は~~~!!! これじゃ変態【くろこ】と一緒じゃない!!!)惜しい。もうちょっとだったのに。美琴はティッシュで指をふき取った。思い直してからティッシュを使うまで、色んな葛藤があった事は内緒だ。 冷静になったのか、さすがに懲りたのか、それとも、「思い返すととんでもなく恥ずかしい事をしていた」という自覚をしたため上条の顔をまともに見れなくなったからなのかは分からないが、これ以上ちょっかいを出さないでおこうと美琴は思った。そっと立ち上がり、帰ろうとする。ホント何しに来たのやら。だがその時、美琴は左腕をガッとつかまれた。一瞬、何が起きたのか分からない美琴に、本日最大の試練が訪れる。 [Final Mission KAMIJOU NO HANGEKI KARA MI WO MAMORE!]そのままグイッと引っ張られ、美琴は床に倒れこむ。「いった~! 何が起きた…の…?」本当に何が起きたのか。目の前には、自分に覆いかぶさる形で抱き締めてくる上条の姿があった。「ちょちょちょ持って待って!!? 何!? 何これ!!? えっ、アンタ起きてんの!!?」急な展開に焦る美琴だが、どうやらこれでも上条は寝ているらしい。「ん~…あと5分……」とか言いながら顔をスリスリしてくる。「や! ほ、ほんとに…やめなさいよ! ちょ、ちょっとおおお!!」それでも上条の暴挙はとどまるところを知らない。いつも幻想をぶち殺すその右手が、美琴の控えめな現実【むね】を鷲づかんだのだ。「ぇぇぇぇええええええええ!!!?」そのままモニュモニュと胸を揉む幻想殺し。「…肉まん……」などと寝言をぬかしてはいるが、肉まんはそんな持ち方しないだろ。こんな神業【ねぞう】ができるのは、彼か結城リトぐらいなものだ。「ん…は…あぁん……ら、めぇ………や…ぁ、あ…んあ!」やだ、なにこれ超エロイ。好きな男に押し倒され、胸を揉まれているのだ。変な気分になってもおかしくはない。どんどんエスカレートする上条の手つきに、美琴の高ぶる感情も歯止めが利かなくなりそうだ。が、いいところで上条の動きがピタッと止まった。焦らしまで寝相で行うとは、さすがは一級フラグ建築士である。「はえ…? なんれ…?」効果は抜群だ。美琴はトロンとした目つきで、上条の方を見る。すると上条は、ここで止めを刺しにきた。ムチュッ唇と唇が重なり合う感触。今まさに美琴は「奪われた」のだ。いわゆるファーでストなキスを。それも寝ている相手にだ。今日はあらゆる意味で頑張ったが、さすがにこれには耐えられなかった。いつものように、「ふにゃー」の掛け声を残し、美琴は心地よ~く気絶した。 何かあった。この状況はどうなってる。上条が目を覚ますと、もう夕方だった。腕から伝わってくる感触は、とても温かくて柔らかい。まるで女の子でも抱き締めているかのような感覚だった。いやいや、そんなはずがない。だって身に覚えがないもの。しかし目を開けると、そこには真っ赤に染まった美琴の顔がある。いやいや、そんなわけがない。だってありえないもの。きっとこれはまだ夢なのだ。上条はそう言い聞かせて再び目を瞑る。「って! んな訳あるかあああぁぁぁぁ!! 何で!? 何故に美琴センセーがワタクシめの部屋にいるのでせう!!? そして何で俺と一緒に仲良く寝てんの!!? てか何で俺は美琴を抱き枕にしてんだ~~~!!!?」抱き枕どころか、もっと大変な事をしてた訳だが。上条はとりあえず水を一杯飲み、落ち着いたところで今日の出来事を思い出していく。今日は課題に追われていた。ここまではいい。睡魔と戦いながらも手と頭はなんとか動かしていた。問題はここからだ。たしか数学の問題(多分、二次方程式だったと思う)を解いている時に限界に達し、最後の力を振り絞り、美琴に助けを求めた…気がする。だから美琴がここにいる理由は、まぁ分かる。では何故、その美琴を抱き締めながら、自分は寝ていたのか。その答えを鈍感王上条が導き出せるわけもなく、彼は訳も分からず頭をかきむしる。絶賛気絶中の美琴。全く進んでいない課題。それだけでも厄介なのに、さらにこの後、「よ~カミやん! 課題は進んでるかにゃー? ヒマだから冷やかしに来てやったぜい」と、最悪な理由で遊びに来た友人と、最悪なタイミングで鉢合わせする事になり、その翌日、クラスで上条の公開処刑が行われる事になるのだが、それはまた別の話。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/661.html
信じた先に・後日談 御坂美鈴は目を覚ました。 見慣れない天井。 見慣れない部屋。 寝慣れないベッド。「あー…昨日泊めてもらったんだっけ」 昨日4月1日に上条詩菜宅に夕飯を共にした。 しかしついつい酒が進み、そのまま寝てしまったらしい。 後で詩菜さんに謝らないとと思い携帯を探す。「えっと、あったあった。―――8時20分か」「もう詩菜さん起きてるわよね」 そう思いベッドからでる美鈴。 その時メールが一通受信してることに気付いた。「お? 誰からだろ…って美琴ちゃん?」 美鈴は美琴からのメールを開くと、ふふっと笑って携帯をポケットにしまい背伸びをしてその部屋を後にした。 台所に向かうとそこには料理している詩菜の姿があった。「あ、おはようございます。美鈴さん」「おはようございます。詩菜さん。すみません、リビングからの記憶が無くて…」「いいえ。やはりお布団の方が気持ちよく寝れるでしょう?」「おかげさまで頭以外なら痛くないです」「ふふふ。……? 美鈴さん? 何かいい事でもあったんですか?」「えぇ。 詩菜さん? どうやら私は恋のキューピットだったみたいですね♪」 Time 10/04/02 02 11 From 美琴ちゃん Sub------------------------------------ ありがとう4/2 AM8 47 上条当麻はカーテンから差し込む日の光で目を覚ます。 昨日はインデックスがいなかったため久しぶりのふかふかベットだ! …ったのだが、実のところあまり寝れていない。 家に帰ってきたのは深夜2時を回っていたし、何より寝る時に美琴が「今日は一緒に寝て!」とか言うもんだから。 美琴は上条に抱き枕のごとく抱きついて幸せそうに眠りに落ちた。 しかし、当の上条はそうも行かなく、 美琴の柔らかさと匂いにより目が冴えに冴えて日が昇ったくらいにやっと寝ることが出来た。 正確には睡魔で意識が飛んだと言った方が正しいのだが。 上条は眠そうに寝返りをうつ。 しかし、そこに美琴の姿はなく変わりに何か良い匂いがしてきた。「ん? あれ…み、こと?」 そこには可愛いエプロン(以前上条宅に料理をしに来た時に置いていった)姿の御坂美琴が楽しそうに料理をしている。 その後ろ姿はとても愛くるしく、その後姿だけで自分は幸せになってしまったのだと実感できるほどだ。 そしてそんな愛しの天使が上条の声に気付き、「あ。おはよう当麻。よく寝れた? もうすぐご飯できるから待っててね♪」 などど言うもんだから上条は、もうそれはそれは泣きそうな顔になったのと同時に前屈みになった。 そんな上条の姿に美琴は?の表情をしたが、 何かを思い出したように料理の手を休め上条のいるベッドへと小走りで近づいてきた。 そして、「忘れてた♪ 恋人の寝起きの特権――」「ん? ―――っん」 おはようのちゅうをされた。 美琴は頬を赤く染めて、えへへと笑いながら台所へ戻っていった。 その場に残された上条は、…その、もう、何か、ダメになった。 しばらくすると美琴が、出来たよーとお盆に乗せて朝食を持ってきた。 そこにあったのは上条では作れないようなこったメニューだった。「ぅお。なにこの食い物、あまり物でこんなの作ったのか?」「そうよ。勝手に使っちゃったけどいいわよね? 朝食分くらいしか冷蔵庫に入ってなかったし」「うぅ…。ありがとうございます、美琴様。こんな…こんな朝食は今まで見たことがないですよ」「ふふ。出来る女だと惚れ直した?」「もうぞっこんですよ、美琴様」「えへへー。じゃあさじゃあさ。撫でて撫でてー」「なでなで」「ふにゃー」「(超電磁砲ファンがみたら殺されるようなシチュだぜ…)」「じゃあ冷めないうちに食べよっか?」「おう。うんまそーだな、おい」「朝だから食べやすく味付けしたんだけど…はい、あーん♪」「じ~~~~~~ん…」「ど、どうしたのよ」「俺は今確信した。もしこの世界が小説や漫画の世界ならば主人公は俺だという事に」「そ、そうなんだ。ま、まぁとりあえず。どうぞ?」「あむ」ピピッ「「へ?――――」」 何か電子音がした。 2人は音のする方に視線だけ向けるとそこには、「つつつつつつつつつつつつつ土御門ッ!!???」「ままままままままままままま舞夏!!???」「おいっすカミやん! はいチーズ♪」「いい絵だぞーみさかー。笑って笑ってー」 デジカメとデジタルビデオカメラを持った土御門兄妹がいた。 どこから入ったのか部屋の隅に立っており、そのすぐ後に「とうまー。ただいまなんだ、よ…」「おはよう。この子送りに来、た…。」「上条ちゃーん?春休みは宿題がないからってだらけてないです、よ………ね?」「お姉さま! こんな時間までお戻りにならないと思ったらやはりここでし…た、か」 …と色々来た。 舞夏と黒子は美琴に 「いつから? なんで? どこまで?」「何故ですの? 黒子のどこがお気に召さなかったんですの?」などと詰め寄り、 上条はまずインデックスで数箇所噛み付かれ、 姫神と小萌に同時にげんこつをもらい、 床に倒れたところを土御門にボコボコに脚蹴りされた。 もちろんインデックスは上条を噛んだ後ちゃっかり美琴お手製の朝食をおいしく頂いた。 しかしこんな出来事は序章に過ぎない。 上条当麻と御坂美琴のドタバタラブコメディは始まったばかりなのだから―――
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1850.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/投稿者 「うウヴウ」 うるっせえんだよのド素人(13-538)氏 ウルルフ(17-388)氏 ヴァヴァーン(8-767)氏 ▲ うるっせえんだよのド素人(13-538)氏 小ネタ 帰ってこないあの馬鹿… ▲ ウルルフ(17-388)氏 天体観測 Northern_CROSS. ▲ ヴァヴァーン(8-767)氏 ツンデレカルタ(美琴ver) 罰ゲームですよ・「あ」行 ツンデレカルタ(美琴ver) ちょっと休憩・「か」行 ▲ 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/投稿者 Back
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/224.html
心を奪われ、射ぬかれ、包まれて 寮内調理室は大賑わいである。チョコレートの甘ったるい香りがただよう中、御坂美琴も奮闘中であった。美琴に関しては、何をしても噂に繋がっていくが、今回は何といっても手作りチョコを作っている!ということで、周りは色めき立っている。(まったくもう。ほっといて欲しいもんだわね)美琴はトリュフを作っていた。白井黒子が出かけているため、作れるチャンスは今しかない。ぺろっ、と味見してみる。(おっしOK、あとはラム酒だけね)ンフフ、ンフフ、ンッフフ~と鼻歌交じりで、ラム酒の小瓶を取ろうとした、その時、手が滑って倒してしまい、中身を全部あけてしまった。あまりラム酒の匂いが好きでない美琴は、漂う匂いに顔をしかめつつ、腕組みした。(あちゃー、参ったな)周りのスズメたちに聞けばいくらでも貸してくれるだろうが、そこを突破口に根掘り葉掘り聞かれかねない。思案した後、白井黒子の調味料小箱を拝借し、同じラム酒ラベルの小瓶を発見した。(黒子、借りるわよ)と感謝しつつ、必要なだけ借りて、また戻しておく。・・・小さく赤い字で『特製』とラベルに書いてあったのに気付かず・・・2月14日、上条当麻はやや緊張しつつ、恒例の自動販売機に向かっていた。昨日、美琴から『チョコわたしたいから、いつもの自販機前で』と、シンプルかつ直球なメールが届いていたのだ。上条の頭の中を、義理だの本命だの毒入りだの言葉が舞い踊る。御坂美琴は既に待っていた。上条は駆け寄り、どう声をかけたものかと頭を掻く。「来てくれて、ありがと」(こ、こいつこんなキャラだっけか!?)「あ、ああ。カミジョーさんは頂けるものは喜んで頂く主義ですから」「え、えっとね。本命とか義理とかって話じゃなくて、こういうイベントでさ、何かやってみたいと思ってさ」美琴は頬を赤らめて、視線は斜め下を向いている。「作るところまではやったんだけど、その、上げる人いなくって。で、貰ってくれないかな、って」(いかん、中学生にドキドキしてきた)そういって美琴が取り出したのは、可愛らしい小袋。「うわー手作りか。サンキュー御坂。ありがたく頂くよ」中身はトリュフのようだ。「今食っていいか?」「うん!」ぽいっと、口に放り込む。美味い.。「こりゃうめえ.。上品な味だ・・・な?」「良かったー♪・・・?」「何だ・・・?体が熱い・・・ぞ。アルコールのせい・・か?」「え?ラム酒がちょっと入ってるけど、酔うような分量じゃない、と・・・」明らかに上条の様子がおかしい。トリュフの材料はシンプルだし、こんな状態になる要素は皆無だ。まさか・・・黒子の!黒子特製の即効性媚薬は確実に上条に効いていた。強烈に美琴を抱きしめたくなる。滅茶苦茶にしたくなる。ドクンッ!凄まじい情動が襲いかかってくる。(これは・・・いや、アイツはこんなこと・・・)(絶対に、絶対に、アイツを傷つける訳にはいかねえ!)歯を食いしばり、耐え忍ぶが、正常な思考が徐々に薄れて行くのが分かる。真っ青になって震えている美琴の姿が視界に入る。「御坂・・・頼む」「! な、なに?どうすればいい?」「左か・・ら・・・電撃を・・・意識を・・・・・・飛ばして、くれ・・・」「そん、な・・・!」「お前、を・・・傷・・・」御坂美琴は覚悟を決めた。一刻の猶予も無い。自分が襲われるのはともかく、上条の人間としての尊厳が失われる。逃げたら他人が危険だ。そして捕まったら、幻想殺しで抵抗もできない。(ホントごめん・・・意識が戻ったら、何でもするから・・・)アクセラレータと戦う前の、橋の上を思い出す。(なんで私は・・・好きな男にこんな何度も撃たなきゃなんないのよッッ!)ズバァンッ!! 左から青白い雷光が上条の体を貫く。上条当麻は、ゆっくりと崩れ落ちた。腕を揉まれている感触を意識しつつ、上条はゆっくりと目を開けた。どうやら美琴が必死に腕をマッサージしているようだ。手足が冷たくなっていた。美琴が上条の様子に気付く。「だ、大丈夫っ?」「ああ・・・とりあえず・・・戻った、かな」安心したのか、美琴は泣き出した。「ごめんね・・・・ごめんね・・・」「はは・・・あの時の再現なら、膝枕もお願いしようかな、てな・・・」美琴はぐいっと涙を拭くと、上条の頭を起こして、膝枕の形にする。「言って・・・見る、もんだな・・・はは、気持ちいい、な・・・」「何でもするから。無理して喋らなくていいから!」上条はしばらく喋らなくなった。目は薄く開けているので、意識はある様子だ。美琴は膝枕をしながら、上条の指先などを揉んでいる。「あれは・・・媚薬ってヤツかな。あんなに理性が暴走するものとは、驚いた。」「黒子の調味料を考えも無く借りちゃってね。ほんとあの子は何持ってるのかと・・・」「お前がそんなモノ・・・使う奴じゃないのは分かってるから。落ち込むな。」「・・・なんでアンタが私を気遣うのよ。被害者なのに。」「・・・あのシスターズの事が無かったら、俺も理性保てたかどうか、わからねえ・・・」「え?」「あん時のお前の、絶望の表情を2度と見るわけにいかねえと思うとな、何とか保てたんだ」「馬鹿・・・ぐすっ」涙がぽたぽたと顔に落ちてきた。また泣かせてしまったようだ。美琴はようやく落ち着いたらしく、息を整えている。上条も手足の痺れは取れてきていた。血が巡りだしたらしい。いきなり、美琴は右手を上条の目の上にかぶせ、視線を隠した。「おい?」「えっと、・・・一つだけウソついてたのよねー」「ん?」「あのチョコレートは、・・・その、・・・本命、で・・・」「え?」上条は身を起こそうとしたが、美琴は上条の目を今度は両手を使ってふさいだまま、膝に押さえつける。「だから本命だって言ってんでしょ!1ヶ月後返事するのよ、分かったわね!?」「お、お前・・・」「えーい、うるさい!以上!」美琴は真っ赤になりながら押さえつける。「はは・・・媚薬よりも電撃よりも、強烈なの食らっちまったじゃねーか」「・・・!」「ま、とりあえず、ちょっと立たせてくれ。それで抱きしめさせてくれ」「え?え?」「媚薬のとき、抱きしめるの死ぬほどガマンしたんだぞ。このままじゃ欲求不満で帰れねえ」「よっきゅう・・・って!?」言いつつ、美琴の手を優しく外して起き上がる。まだフラつくが、なんとかなるようだ。横を向いて真っ赤になって座っている美琴の手をとり、立たせ・・・そのまま、ぎゅっと抱きしめる。「ちょ、ちょっと!ねえ・・・」「ありがとな、御坂。お前に応えるには、解決しなくちゃならない事がある。待っててくれ。」「・・・うん、わかった。待ってる・・・」身を離し、上条は美琴の頭をくしゃっとなでた。「じゃ、帰るか・・・体は大丈夫だから、ほんと落ち込むなよ?」「ん・・・」「チョコはどうすんだ?」「私が持って帰る。さすがに・・・」「お前食ったらどうなるんだろうなー」「!」「ものすごくエッチな御坂か・・・それはそれで・・・って冗談だ冗談!」バチバチやりだした美琴を見て逃げ出す。「んじゃカミジョーさんこっちだから!またな!」「もう!・・・あの馬鹿・・・」美琴は、走り去る上条を、姿が消えるまでずっと見つめていた。「お、お姉様!黒子が、黒子が何をしたとおっしゃいますの!?」「えーいやかましい!おとなしく殴られろっ!」その夜、理不尽に枕で殴られる白井黒子の姿があった・・・Fin.
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1423.html
新たな年の幕開けは 2 そして大晦日当日。(いよいよ決戦の時ね) 覚悟も決めた。 腹も括った。 「ストレートに行け」というアドバイスも頭に刻み込んだ。 何より、美鈴への嘘の負い目からも、もう迷わないと決めたのだ。「よしっ!」 事前に聞いておいた上条宅の住所に向けて、たくさんの食材を詰め込んだ袋を両手に抱え、美琴はどしどしと歩を進めた。 いつの間にか美琴は上条宅の扉の前に着いていた。 覚悟はしても、やはり緊張しているのだろう。 ここまでの道のりはほとんど覚えていなかった。 その勢いのままに呼び鈴を鳴らす。 その音に合わせ、美琴の心臓も一際大きな音を立てた。 もう後戻りはできない。そう思うと不安がもたげてくるが、心の中でそれを握りつぶした。「おーっす御坂――って何だその大荷物」「おっす。とりあえずこれ下ろさせて」 驚く上条を押しのけて我が物顔で上条の部屋へと入る。 そうでもしなければきっと玄関先で立ち往生したままであっただろう。「何だこれ、全部食材? 年越し蕎麦ってこんなに手の掛かるもんなのか?」「そんな訳ないでしょバカ。これはお節とお雑煮の材料よ」「何!? まさか御坂が作ってくれるって言うのか!? うちで!?」「他にこれをどうするってのよ」 何を当たり前のことを、とでも言うように美琴は呆れ顔を作った。「ああ、クリスマスに続いてなんて幸運なんだろう。もう上条さんは一生分の運を使い果たしてしまったようで怖いぐらいですよ」 なら私が一生アンタに運を与え続けてあげるわよ、なんてセリフが思い浮かんだが、口に出せるわけがなかった。 代わりにしめたとばかりに、かねてから聞きたかったことを口にした。「それで、アンタはそのクリスマスにかわいい女の子達に囲まれて、どんなラッキースケベを連発してたのかしら~?」「い、いやいやいや、紳士上条さんはそんなラッキースケベなんてこれっぽっちも経験してませんよ!? むしろあれは全部事故でそれよりも殴られたり蹴られたり投げられたり斬られたりかじられたり投げられたり燃やされたり――」「…………もういい、だいたいわかったから」 顔を引きつらせながら言い訳だかなんだかを繰り返す上条に、やっぱりこいつはいつも通りかと、美琴はただただため息しか出なかった。 でもこれなら、恋人が出来たり、特定の誰かと仲が進展したということもないだろう。 それにもし、そうであったとしても、もう突き進むしかないのだ。 過去のことなんて関係ない。 つい数日前の悩みが馬鹿馬鹿しく思えるくらいに、今の美琴は芯が固まっていた。「さて、じゃあ早速お節作り始めるから、どいたどいた」 邪魔者を追い払うようにしっしっと手を振りながら、美琴は荷物の中からエプロンなどを取り出しはじめた。「う~ん、我が家で女の子がエプロンを着けて料理をする光景をまた見られるなんて、上条さんは感動で涙が出そうですよ」(「また」って何、「また」って!) これだからこいつは、とこめかみに青筋が立つが、気にしないと決めたからにはそれを曲げるつもりはない。 次に口に出すときは、恋人の座を勝ち取ってからだと、美琴は心の中で新たに誓いを立てた。 そしてそのときになったら、首根っこを掴まえて必ず吐かせてやることも忘れずに。 美琴が顔を上げるとそこには、頻りに頷きながらなにやら噛み締めている上条の姿があった。 その手はまな板に掛かっている。「で、アンタはなにやってんのよ。邪魔だからどいてなさいって言ったでしょ」「いえいえ、まさか上条さんとしては御坂さんにすべて任せてただ待っていることなんてできませんよ」 つまり、手伝うということであろうか。(――ってことは、こいつと二人で料理!?) この時に備え幾つものパターンをシミュレーション(妄想)してきたが、さすがにこれは想定外であった。 そもそも前提からして違ったのである。パニックに陥りそうになる思考を何とか抑え、言葉を搾り出す。「それなら、とりあえず手を洗いなさい。まずはそれから」 おう、と小気味良い返事。 ただそれだけでも、美琴の心は弾んだ。 しかし、どうしようかとも思う。 美琴は、お節の作り方を人に教えられるほど慣れていない。 というよりも、数日前からインターネットや本から知識を集め、寮で何度か練習しただけなのだ。 食べ物を粗末にしてはいけないという思いから、その数とて限られている。 女の子なのだから本当は母親から直に教わってみたかった。 せめて、電話でアドバイスだけでも求めたいという思いはあった。 けれども、こと今回に関しては、美鈴に聞くのはルール違反だろうと思ったのだ。 自分で決め、美鈴に嘘をついてまで押し通したことなのだから、最後まで自分でやり遂げなければならない。 その思いこそが今の美琴の行動を支えているのである。 まさか上条が作り方を知っているとも思えない。 なら自分が何とかするしかないのだ。 それに、二人で試行錯誤するということに、甘い響きがあるとも思った。 結局のところ、お節と雑煮を2人で作り終えたころには23時を回っていた。 美琴が当初思い描いた甘い幻想とは裏腹に、実際にはテンパりながら、時に罵声を飛ばしながらの疲れるものであった。 けれども、満たされるものがあったことも否定できない。 今はようやく落ち着き、美琴は蕎麦を茹でていた。 これはひとりで十分ということで、上条は台所を離れテーブルに突っ伏している。 精も根も尽き果てたといった体である。 出来上がって美琴が振り返ったときには、上条は犬のように一心にこちらを見つめていた。(色気よりも食い気か、アンタは) それでもそんなことには落胆しないほどに、美琴の心は満たされていた。 それはもう、蕎麦などいらないぐらいに。「お待たせ」「待ってました。もう少しで空腹で死んでしまうところでしたよ」「くすっ。大袈裟ね」「いやいや、食べ盛りの男子学生があれだけ働けば当然だって」「アンタは洗うか切るかだけだったじゃない」「それを御坂のペースに合わせてやるのがどれだけ大変だと思っているんだ――っても、本人にはわからないだろうが。 でもあれだな、俺も料理経験の時間は負けちゃいないと思うが、こうまで手際に差が現れるとお前が女の子なんだなとしみじみと感じるよ」「それ、全然褒めてないわよね?」 私に対する普段のコイツの扱いからすれば、コイツの口から「女の子」という評価が出たことは記念すべきことだが、素直には喜べない。「十分すごいと思ってるよ。こんだけ料理が上手いってだけでも、将来いいお嫁さんになれるさ。旦那は絶対に尻に敷かれるだろうが」「だからアンタは一言多いのよ!」 その後も他愛もない会話が続いた。 美琴は蕎麦を味わう余裕がなかったが、食事はこれまでにないほど楽しいものだった。「いや~、美味かった。ご馳走様。これまで食べた中でも間違いなく一番美味い蕎麦だったよ」「お粗末様。でもアンタの買ったこの蕎麦、アンタのことだから安物でしょ? 大体手打ち蕎麦でもないのに、さっきから言うことがいちいち大袈裟なのよ」「どんなに安物でも、女の子の手作りってだけで特別な価値があるのですよ」(~~~~~!) コイツは自分で言っていることの中身を自分で理解しているのだろうか、と美琴は血の上った頭で考える。 少なくとも、昨日までのコイツだったら私に対してこんな言葉を掛けることはなかっただろう。 たとえ無意識であっても、コイツの認識を変えられたのなら、大きな成果である。「ありがとな、御坂」「な、何よ急に気持ち悪い!」 動揺の余り、つい元の憎まれ口を叩いてしまう。 そのことに美琴はしまったと思ったが、上条は気にすることなく続けた。「だってよ、初めての年末年始を独りぼっちで過ごさなきゃならないと思って落胆していたところを、お前に救ってもらったんだ。 それも、もうこれ以上の正月は迎えられないんじゃないかと心配してぐらい、こんなに充実した形でさ。 お前には幾ら感謝してもし足りないぐらいだよ」 その言葉に、美琴は思わず涙ぐんでしまった。 それを隠すために、美琴はテーブルに顎を乗せて上目遣いで上条を見つめた。 不安の中で努力してきたこと、その時間は短いけれど、その結果としては、望むべくもないものであった。 それは、レベル5になったときの喜びとは全く違う、とても温かなものだった。 だからこそ、何も気負うことなく、素直に言葉を返せたのだと思う。「バーカ、アンタは私と、私の9699人もの妹の命を救ってんのよ。そんな人間が何言ってんのよ。感謝してもし足りないのは、私の方よ」「それは――」「アンタは自分のためにやったって言うのかもしれないけどね、それなら私だって同じよ。 でもね、受け取る方はまた違う受け取り方をするもんなのよ」「そういうもんか」「そういうもんよ」 どちらともなく笑いが漏れる。 思えば、こうして彼と笑いあったことは、これが初めてなのではないかと思う。 今日この日のことを、たとえこの先何があったとしても、忘れることはないだろうと美琴は思った。 いつの間にか、年が明けていた。 広い敷地の中で片手で数えるぐらいしか寺社の存在しない学園都市内では、除夜の鐘が聞こえる場所は限られている。 テレビも点けていない現状では、時計を気にしていない限り年明けの瞬間を知ることは出来なかった。「明けましておめでとう」「おめでとうございます」「気がついてたら年明けを5分過ぎてたってのはなんか抜けてるな」「ふふっ、そうね。でもまぁそんなことより、早速初詣に行くわよ!」「おいおいこんな寒いのに今から行くのかよ」「当ったり前じゃない。私は明日から母が来るから、アンタと違って忙しいのよ。だから今から行くわよ」「あれ? じゃああのお節とかはどうすんだ?」「あれはアンタの分よ。私は母が作って持ってきてくれるもの。 ああ、お餅も買っといてあるから安心してね。 それとも何、私と一緒に食べたかった~?」「その方が嬉しいが、美鈴さんが来るんならそんなこと言えねえだろ。本当に、何から何まですまないな」 母が聞いたら喜んで正月をここで過ごと言うだろう。 絶対に伝えないが。「だ~から気にしない。じゃ、1時間ぐらいしたら携帯に連絡するから、それまで待っててね」「ちょっと待て! 1時間って何だ! 今から直接行くんじゃないのかよ!」「女の子にはいろいろあんのよ。じゃあ私はちょっとホテルで着替えてくるから」 了解、とげんなりとした表情で上条は返事をしてきた。 ならばそのその時間がどれほどの意味を持つのか、たっぷりと教えてやろうじゃないかと美琴は意気込み、上条の部屋を離れた。 明日美鈴と共に泊まるために今日から借りているホテルの部屋には、既に振袖など必要なものは運び込んであった。 シャワーを浴び、振袖の着付けを終え、頃合を見て上条に連絡を入れたのだが、化粧を施している間にロビーに到着したという連絡が入り、それから既に十五分は経過している。 姿見で全身を隈なくチェックしてみるが、一向に緊張と不安が消えてくれない。 これは上条の部屋を訪れたときとはまた別種のものであるが、それがわかったからといってどうしようもない。 これ以上彼を待たせるわけにも行かないだろう。気合を入れて部屋を出た。 エレベーターで一階に着くと、上条は窓の外に視線を向けていた。 その眼には退屈の二文字しか映っていないことは、後姿からでもありありと窺える。 声を掛ける勇気もなく、静々と彼の傍まで近づくと、服の裾をくいくいと引っ張った。「お前なあ、いくらなんでも人を待たせすぎじゃ――」 ようやくといった感じで振り返った上条は、文句のひとつも言いたかったのだろうが、美琴と目が合うとその言葉を止めてしまった。「……何よ、文句あんの?」「――馬子にも衣装ってのは、こういうのを言うんだな」「ア、ン、タ、はあぁーーー!!!」 上条のことだから褒め言葉と思って言ったのかもしれないが、最早確かめる気にもなれなかった。 怒りのためか、羞恥のためか、美琴の前髪から青白い電流がバチバチと弾けた。「わーー! ちょっと待て落ち着け! 折角綺麗なカッコしてんだから今だけはやめとけ」「うーー……」 顔を赤くし上目遣いで上条を睨みつけながら、頭に彼の右手を乗せられているこの状態では、この前の子ども扱いとまるで変わらない。 ここまでやってもこいつの対応は変わらないのかと、目にうっすらと涙すら溜まってきた。 だから、彼の頬がほんのり赤くなっていることには気付けなかった。「よくわからんがすまん。俺が悪かった。だからとりあえず落ち着いてくれ」 そういって上条が美琴の頭から右手を離した途端、再び彼女の頭から青白い光が放たれた。「御坂さんすみませんこの通り謝るから機嫌を直してください」「そ、そう言われても、自然と出てきちゃって……」 レベル5たる美琴にとってこの程度の電流は出すことは、大した労力も掛からずに出来てしまうため、無意識で流れてしまうことが多い。 そしてそれが、最近多発するようになってしまったのだ。 それも上条が関わるときばかり。「でも、こうすれば問題ないでしょ!」 そう言ってヤケになって美琴は左手で上条の右手を取った。 彼を睨みつけていたのが一転、恥ずかしさの余りそっぽを向いてしまった。 先ほどまで彼の部屋で和やかに過ごせていたのが嘘のように、どこか気まずい雰囲気に変わる。「こ、こうすればいいって……」「何よ、何か文句あんの!?」「イイエ、アリマセン」「ならさっさと行くわよ!」 そういって彼の顔も見ずに、上条の右手を引っ張って美琴は先導した。「――って、やっぱりこのまま行くのかよ!?」 今度はきっぱりと無視して、ずかずかと先を進んでいく。 不幸だなどと呟いたら即座に超電磁砲を叩き込んでやると考えながら。 このとき傍からは、振袖を着込んだ中学生の女の子が男子高校生を勢い良く引っ張っていくという奇妙な光景が見られたことだろう。 そのまま美琴は上条を引っ張り続けた。 ホテルから目的の神社まで十分とかからなかったが、その間二人はずっと無言であった。 その理由はひとつではないのだろうが、話し出すきっかけを見出せずそのまま時が過ぎていったのである。 沈黙を破ったのは美琴だった。「さあ、着いたわよ!」 目の前の階段と、その先にそびえる鳥居を美琴は親の敵の如く睨みつけていた。 この頃には上条にも、忙しい奴だなぁなどと思うほどには心に余裕が出来ていた。「あの~御坂さん? やっぱりこのまま入るのでしょうか?」「文句ある?」「いいえありません」 先程と同じ問答を繰り返したことで上条は諦めた。「学生なんてほとんど残ってないんだから、知り合いに会うこともないでしょうし大丈夫よ」(見知らぬ独り身の男子学生に睨まれること確実だよな) それ以前に理性が崩れそうで怖いのだが、気恥ずかしくて口には出せなかった。 美琴に連れられて階段を上りきり、鳥居の前に立った際に目に飛び込んできた光景は、およそ上条の想像からかけ離れたものだった。「……なんていうか、思ったよりも寂しいな」「アンタは学園都市の神社に一体何を期待してたのよ」「具体例があるわけじゃないけど、もっとこう、華やかだったり、賑やかなものを想像してたんだが。だって新年だぜ?」「外のおっきな神社なら屋台があったり人でごった返してたりするんだろうけど、ここじゃこんなもんよ。 だいたいこういうのは気分の問題よ」(気分……か) そう心の中で呟きながら、繋がれた手を見る。「よおし、なら張り切っていくぞ! 美琴!」「ちょっ! アンタ! いきなり!」 声を張り上げて、今度は上条が美琴を引っ張って歩き出した。なにやら後ろから美琴の焦った様な声が聞こえる。「気分だ気分!」(何で、コイツはいつもいつも……) 上条は自分を評して「将来旦那を尻に敷く」と言っていたが、それは絶対に間違いだろう。 何せ今日一日、自分は上条に振り回されてばかりなのだから。 それでも、悪い気はしないのだからどうしようもない。 そしてこのまま、この繋がれた手のように、彼が自分を引っ張り続けてくれたらどんなに幸せだろうと思う。 彼にとっては不幸をもたらす右手なのだろうが、自分にとっては間違いなく幸せをもたらしてくれる右手なのだから。「さて、賽銭箱の前に着いたけど、こういうときの作法ってどうすりゃいいんだ」「賽銭箱の前って……他に言い方もあるでしょうに。まあ、二拝二拍手一拝って言われてるけど、神様を敬う気持ちがあればあんまりこだわらなくていいんじゃない?」「んな適当な」「鳥居をくぐるとき礼もせず、お手水で体も清めずに突っ切り、道の真ん中を堂々と進んできた奴が今更何言ってんのよ」「…………そうか、毒を食らわば皿までと言うしな」「アンタはとりあえず、日本語が上達するように願っときなさい」 いよいよ参拝という段階になって、美琴は渋々上条の手を離した。 そのとき上条がどこか安堵するような表情を浮かべたことに、不機嫌が抑えられない。 鳥居をくぐる頃には能力が暴走することもないだろうとは自分でわかっていたが、上条の安堵はそのためだけではないことが窺えるためだ。 それでも神前だからと粛々とした態度で賽銭を入れ、鐘を鳴らした。 神様への願い事は今更言葉にする必要などなかった。 今、二人でこの場所に立っている。 そして今抱えているこの想いをもう一度確認する。 それだけで十分だと思えた。「なあ御坂」「……文句ある?」 社の階段から降りてすぐに、手を繋ぎなおしたら、またこれである。 三度繰り返された問答に、上条はただ首を振るだけで答えた。 そして美琴は、上条が呼び名を「御坂」と戻していることに、一層不機嫌になった。(幻想殺しの右手で神前に立つってのは罰当たりだったのかもね) 今更そんなことを思ってもどうしようもないが、まあいいかと割り切る。 元々他力本願は性分ではないのだ。誓いさえ聞き届けてさえもらえればそれで構わないのだ。「さて、じゃあ後はおみくじかしらね」「上条さんは遠慮させてもらいますのことよ」「私がアンタの右手を握って、アンタが左手でくじを引けば、少しは良くなるんじゃない?」「なら御坂さんが幸運の女神であることを期待して引いてみますかね」 人の気分を上げたり下げたり、こいつは人をおちょっくっているのではないかと勘繰ってしまう。「じゃあ俺から引かせてもらうぞ」「結果はまだ見ないでね。私が引いてから」 そして美琴も引き終えると、畳まれた紙を二人同時に開いた。「……凶か」「私は吉ね」(二人合わせてプラマイゼロ――) そんな埒もないことを夢想する。「いつもだったら大凶だっただろうから、これはきっと御坂のお陰だろうな」 大凶のないおみくじもあるわよね、なんてことも思うがそれはおくびにも出さない。「そうよ、美琴サマに感謝なさい」「だな。本当に、今日一日御坂には感謝しっぱなしだよ。これなら神頼みよりも、毎日御坂を拝んでいたほうがご利益があるかもな」「何馬鹿なこと――」 言いかけて、美琴は突如上条の右手を離し、彼に抱きついてその頭を彼の胸に埋めた。「み、御坂!?」「黙って抱きしめなさい! 特に頭!」 いきなりのことに上条の狼狽した声が聞こえるが、それに構まず彼に小声で指示を飛ばす。頭に彼の右手が、背中に左手が恐る恐るといった感じで回されるが、今はその感触を堪能している暇はなかった。 間髪入れず、今度は別のところから声が飛んできたのである。「カ、カミやん!? その女の子は誰ぜよ!?」「おー、上条当麻ー。明けましておめでとー。そっちは新年早々ラブラブだなー」 その声に、上条がビクリと震えるのが直に伝わってきた。 心音の変化すら聞き取れる状態なのだから、それはもう、美琴の全身を揺らすぐらいに。「カミやん、ついにフラグを回収したのかにゃー。これは年明けから血の雨が降るぜよ」 奇怪な猫ボイスと裏腹に、その口調は剣呑な色を帯びていた。「これは休み明けのクラスでの裁判が楽しみぜよ。それまでせいぜい生き延びてることだにゃー」「待て土御門! 誤解だ!」「この期に及んでも彼女を抱きしめたままなのに、誤解も何もないにゃー。 安心しろカミやん。こんなに喜ばしいことはすぐに年賀メールとして知り合い全員に報告してあげるぜよ。 出来ることなら写真付きといきたいところだが、そこは彼女さんに遠慮してとどめておくから、感謝するにゃー」「その方がいいぞ兄貴ー。学園都市には写真の取り扱いに気をつけなければならない人間が何人かいるから、その方が懸命だぞー」 それを聞いて、今度は美琴の体が震えた。 咄嗟に顔を隠したのに意味はなく、むしろ現状を悪化させただけだったのだ。 けれども、今更顔を上げることなどできなかった。「じゃあなカミやん。最後にせいぜい彼女特製のお節と雑煮を堪能しておくことだにゃー」 土御門兄妹の遠ざかっていく足音が聞こえ始めると同時に、上条は「不幸だ」とポツリと呟いたが、その後も二人は抱き合ったままであることも気にすることなく、茫然自失としていた。 どれだけ時間が経ったのか、口火を切ったのは上条の方だった。「お前、人を盾に自分だけ隠れるなんて、ズリィよ」「……私だって舞夏にしっかりとばれてたわよ。それも全く言い訳できない状況で」 う~~、と呻きながら、美琴は額を上条の胸に押し付け、視線を下に下げた。 その体勢のまま、美琴は上条に尋ねた。「舞夏達とはどういう知り合いなのよ?」「一緒にいた男の方が土御門舞夏の兄貴で、俺のクラスメイトであり、隣の部屋の住人だ」 終わった、と美琴は心の中で呟いた。 ということは二人を通して美琴と上条のことはすべて筒抜けになるということである。 しかも今日の彼の部屋での出来事も、会話をちゃんと聞かれていなかったとしても、状況は把握されていたに違いない。 舞夏を通して常盤台全体に、もしかしたらネットにまで飛び火することまで覚悟しなければならないと美琴は思った。 これでは、今のこの体勢と合わせても、幸か不幸かわからない。「あー、御坂? そろそろ離れていただけると上条さんはとてもありがたいのですが」「私が落ち着くまでこうしてなさい。それとも女の子を抱きしめてる状況を不満だと言うの?」「そんなことは決してありませんが、この状況をまた知り合いにでも見つかったら今度こそ上条さんの命が危ないわけでして」「アンタなんていっつもこれよりすごいことやってんだから、今更誰に見られたって何も変わらないわよ」「上条さんはそんな無節操ではありませんのことよ!?」 上条の言い訳を無視し、美琴は全身の感覚に身を委ねた。本当は隙間のないぐらい上条に強く抱きつきたいところだが、きっかけのない今からそれをすることは出来ない。 いくら覚悟を決めても、ストレートに気持ちを示すことさえままならないのだから、今のこの状況でもうあっぷあっぷだ。 それでも、頭や背中に回された腕、そして正面の上条本人から伝わってくる彼の体温は、美琴の体が火照ってくるほどに温かなものだった。「御坂ー」「もー少しー」「周りの視線が非常に痛いのですが」「男なら我慢なさい」 上条の温もりについ甘えたくなる。 一方でこの男は、気まずさしか感じていないのだろうかと思うと、不公平だなと思う。「御坂さーん」「――もう、わかったわよ」 駄々をこねる子供のような上条の口調に、美琴は満足はしていないものの、少しばかり拗ねてみせながら、上条の背に回した手を離した。「さあ、行くわよ」 離れる際に、再び上条の右手を取ったが、今度は何も言われなかった。「送ってくれてありがとね」 二人は神社を出て、美琴が宿泊予定のホテルのロビーに戻ってきていた。 道すがら、行きと同様に会話はなかったが、美琴は十分に満足していた。 神社の近くのホテルをを選んだことを悔やむぐらいに。「あの、これ」 そう言って美琴は鞄から紙袋を取り出して上条に差し出した。 美琴としては可愛らしくラッピングもしたかったが、あれ以来そんな余裕はなかったのだ。「ホントは、クリスマスに渡すつもりだったけど、機会がなかったし。でも、感謝の気持ちを示すのは、別にいつだっていいと思うから」「あ、ああ。ありがとう」 虚を突かれた上条はおずおずと受け取った。「開けてもいいか?」「うん」 そして紙袋から出てきたのは、手編みのマフラーと手袋だった。「これ、もしかして御坂が編んでくれたのか?」「もしかしなくてもそうよ」「その、本当に、ありがとうな。なんか今日は、いろいろともらってばかりで、俺は何も用意してないし、申し訳ないというか」「いいのよ。これは私がしたいからしているだけ。人の好意は素直に受け取っておきなさい」「でも――」「じゃあさ」 交換条件にするつもりはなく、あくまで「お願い」として上条に頼むつもりだったことを美琴は口にする。「3日は、アンタ暇?」「夕方までは予定は入ってないぞ」「それなら、夕方まで私に時間をくれない?」 ホテルに戻ってきてからは解いていた手で、上条の服の裾をつかむ。「妹達と、一緒に、お正月を過ごしてあげたいの」 お人好しの上条が断るはずがないと信じているが、それでも言葉に言い表せない恐れがある。 それはもしかしたら、上条に対してでなく、妹達に対する負い目からなのかもしれない。「あの子達は、そういうのを全く知らずに育ってきてるから。 大晦日からずっと一緒にいてあげたいとも思ってたけど、2日まで母が来る予定だったし、外泊の許可も2日の夜までだったから、せめて3日だけでもと思って」 そんな、言い訳みたいな言葉を連ねていると、不意に上条に頭を撫でられた。「それなら喜んで行くさ。こういうのは人数が多いほうが楽しいし、俺だって一人で過ごすよりよっぽどいい。 むしろそんなんじゃ全くお返しにならねえよ」「ううん、お返しとか、そういうんじゃないの」「そうだな」 上条の右手で撫でられている頭から、じんわりと彼の熱が体に広がっていき、それと共に体の中に巣食っていた恐れや不安が和らいでいく。「それなら、うちにあるお節持っていくか」「それは大丈夫。母に、たくさん作って持ってきて頼んだから。きっと、私が作ったものよりも、その方がいいから」「そっか」 彼の右手から伝わる労りが、一層強くなるのを感じた。あるいはそれを、慈しみというのかもしれない。 ホテルの部屋にひとり戻って、一息ついた。 高まっていた気分が落ち着き、呼吸と共に精神的な疲れも抜けていくように感じたが、一緒に体にこもった彼の熱も逃げていくようで、もったいないと思った。 今日は――正確には大晦日から、本当にいろいろあった。 新年の幕開けとしては、驚くほど波乱に満ちている。 今年は一体どんな年になるというのだろうか。 一連の行動は、今までの自分からすれば別人ではないかと思えるほど、理想(自分だけの現実)に近付いたものだった。 それはきっと、成長の証なのだろうと思う。 でもそれは、自分ひとりの力では成し得なかったことであることはよくわかっている。 有形無形の形で、いろんな人に後押しされていた。 それを今、噛み締めている。 すぐには無理だろうが、いずれ母や黒子、初春や佐天に、たとえどんな結末を迎えたとしても、しっかりと報告することが出来るだろうと思う。 でもまずは、昼からは母と、明日は妹達と、精一杯楽しんで過ごそうと思う。 そしていつか、その横に彼が一緒にいてくれることを美琴は強く願った。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1318.html
if.御坂美琴と上条当麻の会合[前編] 1 6月某日「よぉ~、君。かわいいね~、俺たちと遊ばなーい、ぎゃははは」(はぁ。この手のはホント絶滅しないわね)不良にかわいいと言われた少女、御坂美琴は軽く嘆息をついた。いつも絡んできてそして結局はいつも自分にやられる、そんなやりとりにそろそろ疲れてきたなと美琴は感じていた。こいつらは私を学園都市第3位の超電磁砲《レールガン》だとなぜ気づかないのだろうか、そう考えたりもした。「いやぁ、連れがお世話になりました~」「へ?」「ああん?」周りの人達は白状ではないのよね、などと考えているところにツンツン頭の目立つ、美琴より年上であろう少年が割って入ってきた。しかも美琴を連れなどと抜かして。「ということで、失礼しましたー!」「ちょ、ちょっと!」「おいこらぁ!」そのツンツン頭の少年は不良になるべく関わらないよう、そそくさと美琴の手を引っ張ってその場をあとにした。美琴は意味がわからなかった。どうして自分を助けようとしたか、おとなしく周りの人と同じようにしていればいいものを。「はぁはぁ、ここまでくれば見つからないだろ、はぁはぁ」意味がわからないままでは自分が面白くないので、一応、聞いてみることにした。「ねぇ、アンタ。どうして私を助けようなんて考えたわけ? 周りの人みたいに見て見ぬふりをしとけばいいのに」「はぁ? 困っている人が目の前にいたら助けるのは当たり前だろ? 他の人もひでぇよな、目すら合わせようとしないんだもんな」そうか、こいつはそういう奴なんだ、と美琴は思った。困っている人がいたら何が何でも手を差し伸べるそういう奴なんだと。「そう、ありがとね。アンタ、名前は?」「俺か? 俺は上条、上条当麻。お前は?」そのツンツン頭の少年は上条当麻と名乗った。美琴はそのとき違和感を感じていた。なぜ名前なんかを尋ねているのだろうと。しかし、そんなこといつまで考えていてもわからないと感じたので、美琴は相手の質問にも答えることにした。「上条、ね。私は御坂美琴」「御坂か、これも何かの縁かもしれねぇから、覚えておくよ」「そう。じゃあこの辺で、また縁があったら会いましょう、上条」「年下でしかも初対面なのにいきなり呼び捨てかよ……。じゃあな、御坂」「じゃあね」こうして二人の初の会合は終了した if.御坂美琴と上条当麻の会合[中編] 2 8月20日場所は自販機近く。ここ3週間ほどの出来事が原因で美琴はかなり疲労が溜まっていた。まず虚空爆破(グラビトン)事件に始まり、木山春生による幻想御手(レベルアッパー)事件と色々あった。虚空爆破事件ではあのツンツン頭、上条が変な能力を使い助けに入り、そのうえ助けたと名乗り出なかった。少しいけ好かないと感じた。そして、今、絶対能力進化(レベル6シフト)実験というものに直面していた。自分が人の役に立つならと思い提供したDNAマップ。それが自分のクローンを作り、そして殺して、学園都市第1位をレベル6にするために悪用されるようになっていた。美琴はそれを止めるために、研究所をいくつも潰して周った。途中わけのわからない連中とも戦った。そして最後の研究所が手を引いていたため実験は終わったと思い今に至る。(もうあの子達は死ななくても大丈夫よね?できることならもうあの子達とは会いたくない)美琴は今、自分のクローンに会うと実験をやってるんじゃないかと心配になってくる。そして、こんな実験のためにDNAマップを提供した自分は会う資格ないとも感じていた。(はぁ、最近黒子達とまともに会話できてないなぁ。上条とも会ってないなぁ。会いたいなぁ、って何言ってんのよ私はぁぁあああああ!?あんないけ好かない奴と会いたいなんてぇぇええええ!!ってあれ?)自己嫌悪している途中で美琴は自販機の前で何かやっている人物に気がついた。その人物はツンツン頭が目立つ高校生だった。「あっれー?おかしいな、金は入れたぞ?なんで出ないんだ、ちくしょう不幸だー!」美琴はちょうどのどが渇いていたので、その知り合いであろう少年に声をかけることにした。「ちょろっとー?私も飲み物飲みたいから、上条そこどけてよー」美琴はその少年をどかすと小銭を財布から出し、自販機に入れようとした。そこで少年はおかしなことを口走った。「ああ、すいません……って誰だ?常盤台のお嬢様?」「……はぁ?アンタこの暑さで頭おかしくなっちゃったんじゃないでしょうね?御坂よ。御坂美琴。アンタ、上条でしょ?上条当麻」「あ、ああ、すまん、そうだったな」美琴の知り合いであるその少年は変だった。美琴から見た目でも少年、上条当麻は変だった。だが今はいろいろなことがあったのであまり深く考えないようにするのだった。「……たくっ、ちゃんと覚えておきなさいよね。後、この自販機、お札は飲み込むわよ」「な、なんだってー!?俺の財布の全財産がぁ……」「ぜ、全財産!?いくら自販機に入れたのよ?」「……うっ!」上条は明らかに動揺した声を出した。美琴はさらに問い詰めることにした。「いくら入れたの?笑わないから、言ってみて」「……2千円」「は?」「2千円だー、ちくしょう!」「……く……あっははははははは!やめてよ、笑い死んじゃいそう!」美琴は笑わないといったが、上条の発言に耐えられなかった。「笑わねぇっていたのに……どうせ上条さんは不幸ですよー!」「ご、ごめん、ごめん。そんなに自暴自棄にならないでよ。2千円くらいなら貸してあげるわよ。なんなら飲み物も奢るわよ」「え?ホントですか御坂さん!」「う、うん。本当だからそんなに迫らないで」「あ、悪ぃ」上条に近づかれた美琴だったが、そんなに悪くは思わなかった。どうして悪く思わなかったかも、気にならなかった。それが上条へ対するある感情だと美琴はまだ気づいていない。――――――――――――――――――――――――――――――――自販機で飲み物を買った二人は近くのベンチまで行き座っていた。このとき自然と美琴は上条に近寄っていた。だが二人ともそんなことには気づかない。「2千円札なんてよくあったわねー。すっかり絶滅してるかと」「うるせぇ、これでも上条さんの全財産なんだぞ。絶滅したとか言うんじゃねぇ」「あーはいはい。2千円借りる相手にそいう態度なのね。もう要らないって事か」「すいませんでした、御坂さん!」上条はすぐさま土下座モードに移行した。そんな上条を、美琴はジュースを飲みながら楽しげに見ていた。「お姉様?」そこに美琴には聞きなれた、上条には聞いたこと無い声がかかった。美琴はその声の主に気づき、瞬時に固まった。「ん?誰だ?」上条は声の主のほうに向き当然である疑問をその人物に投げかけた。「あらあら、お姉様じゃありませんの。まぁ、こんなところで」「……無視か。ん?お姉様?お前、妹がいたのか!?」上条が驚いて美琴に聞くが、いまだに美琴は固まったままだった。「私は白井黒子と申します。お姉様の露払いをしていますの。どうぞ以後、お見知りおきを」白井と名乗った少女はいかにもお嬢様らしく、スカートの端をつまんで上条に一礼した。上条は、「なんだ妹じゃないのか」、などと呟き自分も名前を名乗った。「それにしても……まぁまぁ、最近帰りが遅いと思ったら、お姉様はこんなところで殿方と密会なさってるなんて。この方は彼氏なんでしょうか?」上条が彼氏というのを否定しようとしたら、いきなり美琴が目を見開き、顔を真っ赤にさせ、叫びだした。「あ、アンタは、こ、こいつが私のかかかかか彼氏に見えんのかァァあああああ!!」美琴は慌ててビリビリしながら否定をした。上条は電撃を見て驚いていたが、違うことが上条の気にかかり、「叫び声を上げて否定することは無いだろう」、と呟いていた。「おっほっほ。そうでしたか。ですがお姉様。密会はほどほどにしてくださいまし」「密会でもないわよ!!黒子ぉ!!」美琴は赤い顔で電撃を飛ばすが、白井は、「では」、と言い残し空間移動でその場からいなくなった。美琴はその赤い顔のまま、「か、彼氏……」、と呟いていた。もちろん、上条には聞こえていなかった。「お姉様?」そうこうしているところへ、また美琴をお姉様と呼ぶ声が美琴の後ろから入ってきた。上条は、「新手か!?」、とよくわからないことを言い、美琴のほうを見てみた。そこには美琴がいた。美琴が〝二人″いた。「ほ、本当に妹!?しかもそっくり双子さん!?」上条は現状が理解できていないようだった。「アンタ……なんでここにいるわけ?」美琴は極めて冷静にその〝妹"に質問した。だが上条に見えない美琴の顔には汗が流れていた。「ミサカは今、研修中です、とミサカは現在の自分の状況を説明します」上条は、「変なしゃべり方だな。しかも一人称が御坂って」、と一人何も理解できないままゴチていた。しかし、美琴はまったくそんなことはなかった。「そう。じゃあ、ちょろっと私に付き合ってもらおうかしら?ということで上条とはここでお別れね。さようなら」美琴の声は据わっていた。上条は美琴の様子がおかしいことはわかっていたが、なにも答えれなかった。「じゃあ、行くわよ。付いてきなさい」「いえ、ミサカにもスケジュールが……」「いいから」「来なさい」美琴はさっきとは違い明らかに怒気の混じった声で妹を黙らし、手を引っ張って、早足で上条から見えなくなるまで遠ざかった。「……なんだったんだ……?」結局、上条はなにもわからなかった。だが、上条はこの後、美琴の〝妹″がどんな存在かを知ることになる。 if.御坂美琴と上条当麻の会合[後編] 3 8月21日深夜御坂美琴は第7学区の大きい鉄橋の欄干に体を預けていた。先日、上条当麻と分かれた後、自分のクローンを連れて“実験”について問いただした。その結果、得られた情報は実験はまだ終わってないということだった。「……」その際、美琴はショックで一切言葉が出なかった。泣くこともできなかった。そして、美琴は決意した。(あの子達を助けるためには、自分が死ぬしかない)美琴自身が死ぬ。それによって『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の演算結果を狂わせてしまうことによって、実験を止めるのだ。自分が死ぬことによって妹達が助かるのなら本望だ、と美琴は考えていた。だが、「……誰か……助けてよ」泣いていた。そして助けを求めていた。そんなことを願っても助けは来ない。涙は止まらないし、嗚咽も漏れる。十分わかっていたが、美琴は願った。そして、最初に頭に映った顔はあのツンツン頭の少年だった。(そっか、私……でも、もう……)そして美琴が何かを悟ったときだった。「……助けてやる、助けてやるよ」ありえないはずの声が聞こえた。美琴はそちらに向くと、何も知らないはずの先ほど頭に浮かんだ少年が目の前にいた。「……どう、して?」美琴はあまりの驚きにそれしか口に出せなかった。少年、上条当麻はその問いに答える。「どうして、じゃねぇ。お前が救いを求めている。それを俺は成し遂げたいだけだ。だから俺は助けてやる。お前も御坂妹も、それが一方通行(アクセラレータ)であっても助けてやる」「どう、して……」疑問が口から出たがすぐに美琴にはわかった。そうだった、こいつはこういう奴だった、と。泣き崩れそうだった。いや、泣き崩れていた。「あいつの場所を教えてくれ」何もできないまま、上条に場所を教えた後、しばらくそこを動けなかった。――――――――――――――――――――――――――――――――8月22日昼過ぎとある名医のいる病院のとある病室の前。美琴は考え事をしていた。結果だけを述べると上条は学園都市第1位、一方通行(アクセラレータ)に勝利し、実験を中止させた。なぜ、上条が戦ったというと、無能力者である上条が一方通行(アクセラレータ)に勝つことで演算結果が誤りだということにし、実験を中止させることになるというものだった。(上条の考えである)だが、上条は体がぼろぼろになるまで戦い、妹達や美琴の協力があり、やっと倒せたのであった。そして美琴はそのぼろぼろになり入院した上条の病室の前にいるのだ。(伝えたいこと、聞きたいことがある)そう美琴には上条に対して言いたいことがある。まず、昨日気づいた気持ち。そしてなにより気になるのは一昨日の上条の自分に対する反応だった。(よし!)上条の病室前でわりと長い時間(長くなってしまったのは気づいた気持ちを告げるかどうか悶えていたため)考えていた美琴だが決意をすると病室のドアをノックした。中からどうぞ、と聞こえたので開けて入りながら第一声を発した。「ど、どう? 元気にしてる?お見舞い持ってきたけど」そう言う美琴は若干顔が赤かった。「ああ、御坂か。まぁ、元気ちゃ元気だ。麻酔切れて少し痛むけど」「ありがとう、妹達のこと」「気にすんなって。俺がやりたくてやったことなんだし」「そう……」実験を止めたことのお礼を言うと美琴は早速切り出した。「あのさ……聞いてほしいことがあるんだけど」「ん? なんだ? 上条さんは何でも聞きますよ」上条はあまり心構えなどはしていない様子だった。それを見ながら美琴は、「……わ、私、アンタが、上条当麻が好きなの……」「へ? それはどういう――――」「もうちょっと続きがあるから黙っててくれる?」「……」赤い顔で告白をした美琴。上条は間抜けた声を出した。だが、美琴の次の言葉に真剣身を帯びていることに気づき黙る。「こんなのを言い訳にするのも自分でどうかと思ってるんだけどさ。やっぱりアンタのこと好きだからアンタの事を知りたいの」「……」「……アンタ、もしかして記憶喪失じゃない?」「――――ッ!?」そこで、上条は美琴が今まで見たこと無い顔をした。やはり、と美琴は思った。上条当麻は記憶喪失なのだ。「……やっぱり。自販機の前で久しぶりに会ったときの上条は何かおかしかった」「ああ、……俺は今、記憶喪失、正確には記憶破壊って言うらしい。もう記憶が戻ることは無いかもしれない。だから俺は“前”の自分を演じてる。」上条の言葉は何か悲しさを帯びていた。美琴は黙って聞いていた。「お前と初めて出会ったときは少し気が抜けてたかなぁ。すぐに知り合いと分かれば隠し通していたんだけど……」そう一人で語る上条は後ろめたさがある感じだった。まだ美琴は何もリアクションを起こさない。「それで、さっきの話だ。いいのか? 俺はお前の知る“前の上条当麻”じゃないんだ。それでも俺のことを――――んぐっ!?」話続けていた上条の口が止まった。美琴がリアクションを起こした。上条の唇を美琴自身の唇で塞いだからだ。「ばか!そんなこと言わないでよ!私の好きな上条当麻は目の前にいる上条当麻。それだけでいいのよ!前とか今とか言わないでよ!アンタは……アンタなんだから……」「……」泣いていた。美琴は泣いていた。それを見ている上条はすごく申し訳ない気持ちで一杯になっていた。「ごめん。お前の気持ちも考えてやれてなくて。そして、ありがとな」「……ばか……ごめんは余計でしょう」二人は見つめあう。「そうか。じゃあ……ありがとな、“美琴”」「どういたしまして、“当麻”」そして、お互いの唇を重ね合わせた。その瞬間の美琴の顔は涙で濡れていたが、実験が続いてた時では信じられないような、とても幸せそうな表情だった。 ☆おまけ☆「ところでさ……」美琴は見舞いに持ってきたりんごを切りながら上条に話しかけた。「なんだ?」「私たちってこ、恋人になったんだよね?」顔を赤くしながら言う美琴。「そうだな。俺は拒否しないぞ?」「よかった……。でさ当麻は実験を知ってたってことは私の部屋に入ったわけよね?」「え?な、なんのことでせう?」上条はあきらかに動揺しきった声を出した。「ほうほう。この彼氏は彼女に嘘をつくんだー。じゃあ、私も嘘付いて引っ張りまわそうかなぁ?」「すいませんでしたー!」上条は怪我の痛さも感じさせないほど、綺麗な土下座をベットの上でして見せた。「まぁ、いいんだけどさ。そ、そのかわりさ、今度デート連れてってよ。アンタが内容考えてさ」「ん?それでいいのか?それならこの上条さんに任せなさい?」(や、やったー!)さりげないデートの取り付けに奥手の美琴さんは喜んでいたとか。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3425.html
お薬出しておきますね ご存知の方も多いと思われるが、佐天涙子は都市伝説や噂話に目が無い。友人達【みことたち】と集まった時は必ずと言っていいほど進行役を務める為、常にその話題【ネタ】を探しているのである。故に今日も彼女は自分の部屋で、スマホのディスプレイとにらめっこしていた。「う~ん…何か面白そうなの無いかなぁ。 また実地テスト用の試供品が売られてるサイトでも見てみようかな?」言いながら、佐天はお気に入りのWebページを開く。わざわざブックマークしている辺り、相当頻繁に覗いているページなのだろう。学園都市には、大学や研究所などで作られた薬品や機械が数多くある。それらを商品として売り出し、実地テストと称して購入者の反応を見るケースも少なくない。「ガラナ青汁」や「いちごおでん」等々の、学園都市名物・変な缶ジュースシリーズも、その一環である。言ってみれば人体実験に他ならないが、能力開発の為に進んで人体実験を繰り返している学園都市の生徒にとっては、今更気に留める事でもない。佐天が開いたページは、そういった商品を専門で通信販売しているサイトである。かなりコアだが、だからこそ固定客【じょうれんさん】などが多く(佐天もその一人)、扱っている商品の種類も豊富なのだ。未確認情報だが白井の怪しげな『パソコン部品』も、ここから取り寄せているとかいないとか。佐天はこのサイトで、過去あらゆる面白グッズを買っていた。ある時は、人の心が簡単に分かる嘘発見器型のオモチャを、またある時は、その香りの中で眠ると未来が見えるというアロマオイルを。佐天は事ある毎に珍しい物を購入しては、遊びながら実験している。主に美琴を実験動物代わりにして。そう。これらのグッズは、先に述べた通り話題作りの意味もあるが、それ以上に美琴を弄る為の意味合いが大きい。佐天は、美琴が上条に惚れている事を知っている。ちなみに初春も白井も知っている。だが美琴が素直な性格じゃない為(そして上条が鈍感すぎる為)、その恋は中々進展しない。だから佐天はその背中を押す為…という大義名分の下、あらゆる手段を使って弄っているのだ。実地テスト用の商品で実験するのも、そんな理由が半分ある。もう半分は単純に遊んでいるだけだが。事実、嘘発見器では美琴の上条に対する本当の気持ちを(無理矢理)聞き出せたし、アロマオイルは美琴と上条が将来家族になるという夢を見せてくれた。これらの経験から佐天はこのサイトをご贔屓にしており、今日も今日とてカートの中に何か入らないかと探している。すると。「……んっ!? 『スナオニナール』…? これは商品名からして危険【オモシロ】な臭いがしますなぁ~♪ 購入決定!」その分かりやすすぎる名前と、『飲んだら3分間素直になります』という説明文だけで、特に考えもせずカートへと入れてしまう佐天。その後に小さく書かれている、『※副作用として―――』という箇所には気付きもしないで。 ◇もう説明するのもめんどいが、ここはいつものファミレスである。美琴、白井、初春、佐天という毎度お馴染みのメンバーは、しかし少々いつもと様子が違っている。佐天は終始ニヤニヤしており、初春は周りの反応を見てソワソワし、白井は目の前を睨みつけながら歯軋り、そして美琴は顔を真っ赤にしたまま固まっている。その元凶は、大方の予想通りこの男の存在だ。「あ、あの~…わたくしは一体、何故この場に呼ばれたのでせうかね…?」上条当麻。4人掛けの席に無理矢理座らされた、5人目の人間。初春と白井の反対側の席に、佐天と美琴と上条が座っており、しかも美琴は佐天と上条に挟まれているので、上条と肩と肩が当たる密着状態にある。更に佐天が隣からグリグリとお尻で美琴を押してくるので、尚更上条との距離が近い事に。その様子を白井が良しとする訳もなく、愛しのお姉様とゼロ距離な上条を睨みつけているのだ。その原因を作ったのは上条ではなく佐天の筈だが、白井の怒りの矛先は何故か上条なのだから不幸な話である。上条も白井からの痛い視線と、隣の美琴から髪の匂いやら体温の熱さやらを直に感じたりで、とても居心地の悪い状況になっている。美琴の心音が妙にドキドキしているのも気になる。白井はイライラしながら、「何故この場に呼ばれたのか」という上条の問いに答えた。「嫌ならば今すぐお帰りになっても構いませんの!」否。問いに答えるつもりはなく、手で「しっしっ」と追い払うようなジェスチャーである。そもそも上条がここにいる理由など特にない。佐天がこっそり上条に電話して呼び出したのだが、どうせろくでもない事でも企んでいるのだろう。そんな佐天は含み笑いをしたまま不気味に沈黙しているので、初春が口を開く。「ま、まぁたまには男性も交えてお茶会もいいじゃないですか! ねっ、御坂さん!?」「そそそそうね! べ、別にコイツがいようがいまいが関係ないしねっ!」チラチラと上条を見て、全く関係なくなさそうな態度を取る美琴。と、美琴は手元にティーカップの取っ手部分を摘んだ。カラッカラに乾いた喉を少しでも潤す為だ。しかし美琴がそのまま紅茶を一口飲むと、佐天は心の中で「来たっ!」とガッツポーズを取る。やはり、何か企んでいたようだ。分かってはいた事だが。紅茶を飲んだ美琴に対し、すかさず佐天は美琴にある質問をぶつけてみる。さぁ、弄りタイムの始まりだ。「ところで御坂さん。さっきから何か緊張してるみたいですけど、どうしたんですか?」すると美琴から、驚くべき言葉が飛び出してくる。そしてその一言は、ここにいる佐天以外の人間を凍りつかせる物だった。「き、緊張ぐらいするわよ! すぐ隣に好きな人がいるんだから!」………………………え? 彼女は今、何と言ったのだろうか。先にも説明したが美琴が上条の事を好きだという事は、佐天も初春も白井も知っている。しかし美琴は基本的にツンデレなので、その気持ちを表に出す事はない。(ただし本人は表に出すつもりはなくても、自然と溢れ出れいる事は間々ある)その為、いきなり上条の事が好きだなどと、しかも上条本人を目の前にして言うなど有り得ないのだ。数秒間空気が凍結した後、堰を切ったように白井と初春が絶叫した。「えええええええええええええみみみみさみさ御坂さぁぁあああああああんんん!!!!?」「おおおおおねおねおねねおね姉様っ!!!? ななな何を仰っておりますの!!!?」「…え? な、何々? どうしたのよ二人共?」自分で何を言ったのか分かっていないのか、美琴はキョトンとしている。実はコレ、冒頭で佐天が購入した「スナオニナール」の効力だ。飲んだら3分間素直になるというその薬を、佐天はこっそりと美琴の紅茶に一服盛っていたのである。それをまんまと飲んでしまった美琴は、今現在、自分の気持ちにウソがつけなくなっているのだ。しかし上条の鈍感も斜め上を行っており、美琴の「すぐ隣に好きな人が」という言葉を、まさかの方向から解釈する。上条は『美琴の隣』にいる佐天の方をチラリと見ながら。 「隣って…まさか佐天が美琴の!?」「んな訳ないでしょ! 私が好きなのはアンタよアンタ! 上条当麻ただ一人よ!」だが上条のトンチンカンな推測も、アッサリと美琴が否定する。これも普段では見られない光景だ。「んな訳ないでしょ! 私が好きなのはアンt……じゃ、じゃなくて! 何でもないわよ馬鹿!」というのが普段の美琴の反応である。こんなストレートな言葉をぶつけられたら、如何に鈍感な上条と言えども。「あ、ああ…なるほどね。俺の事が………って、ええええええええええええええええ!!!!?」「な、何よアンタまでそのリアクション…ただ本当の事を言っただけじゃない」美琴のとてつもなく予想外な返答と、過去味わったことの無い衝撃に、上条は顔を真っ赤にして大声を上げてしまう。だが相変わらず美琴は、むしろ驚かれる方が意外だと言わんばかりに平然としていた。これには流石の白井も、類人猿【かみじょう】に怒りをぶつけるより先にお姉様【みこと】の心配を優先する。「お……お姉…様…? た、大変失礼ですが…何か、わ、悪い物でもお召し上がりましたの…?」口から半分魂が出掛かっている状態ながら、搾り出すように質問する白井。美琴が不思議そうに「何で?」と聞き返すと、今度は初春が口を開いた。「だ、だって明らかに様子がおかしいですよ! と、ととと、突然上条さんの事をぬふぇ~~~」しかし最後まで言い切る事が出来ず、「ぬふぇ~」する。普段の彼女達ならば、佐天が『何か』した事くらいは見抜けたのだろうが、あまりの出来事すぎて頭が回らないのかも知れない。美琴の素直ショックで白井、初春、そして上条の三人が固まっているので、佐天が助け舟(?)を出す。「みなさん、何をそんなに驚いてるんですかね? 上条さんの事が好きだって言っただけなのに」「ホントよ! 私は出会った頃から、ずっと当麻が好きなんだから」益々固まる三人。白井など、もはや完全に魂が抜けてしまった。しかし佐天は攻撃の手を緩めない。薬の効果は3分。今の内に、聞き出せるだけ聞き出さなければ。「ところで上条さんのどんな所がお好きなんですか?」「そんなの決められないわ。言ってみれば全部かしら。 当麻の目も、鼻も、口も、背中も、指先も、声も、ちょっと抜けてる所も、優しい所も、 笑顔が可愛い所も、一緒に歩くと歩幅を合わせてくれる所も、エッチな所も全部好き。 本当はまだまだいっぱいあるんだけど、言い出したらキリがないし」「ほほう、なるほどなるほど。エッチな所も…ってのが気になりますね」「当麻って、転んだ拍子に私の胸とかお尻とか触る事がよくあるから。 でも私もそれが嫌じゃないって言うか、むしろ当麻になら触られてもいいって言うか」「うほう! それは中々の大胆発言ですね! じゃあキスとかも…?」「それはまだないけど…でもそうね。してはみたいかな。 多分、ドキドキしすぎてどうにかなっちゃうと思うけど」「どっ、どうにかって具体的にはどんな風に!?」「ん~…例えば何も考えられなくなって、そのまま当麻に身を委ねたり…と……か…?」言いながら、美琴がふっと何かに気付く。そしてそのまま、見る見る内に真っ赤になっていった。残念だが、どうやら時間切れのようだ。「ふにゃーーーーーっ!!!!! ななな、なに、なに、何言っちゃってんのよ私いいいい!!? こここ、こ、これはウソ!!! 今さっき言った事は全部ウソだから!!! わ、わわ、私がこの馬鹿の事を、す、すすす、好………き…だなんて!!! 有り得る訳ないじゃないそんな訳ないじゃなぁぁぁあああああああああい!!!!!」 目をグルグルにして手をバタバタと振り回し、必死で否定する美琴だが、その言葉を信じられる者は誰一人としていない。勿論、上条も含めて。何故なら、上条の事が好きだと言っていた時の美琴は、真実を語る目をしていたから。愛する人の事を語る、乙女の目をしていたから。上条は突如突きつけられた好意に、どう対処すれば良いのか分からず、口をパクパクさせながら、恐る恐る言葉を発する。「美…琴? えっと、その……い、今のは……」「だ、だだ、だか、だから違うっつってんでしょっ!!? アアアアアンタの事なんて何とも思ってにゃい、はら…………………っ!!!?」再び否定しようとしたその時だった。美琴は自分の身に起きている、体の異変に気付く。「あ…れ…? ハッ…ハッ…な、にこ、れ……体が、ハッ…ハッ…熱、い…?」それはあまりに突然の出来事だった。美琴が(佐天の薬から)我に返って数秒後、彼女は謎の発熱で息が苦しくなってしまったのだ。火照った体からはジットリと汗が浮かび、目は虚ろ、頬は熱で上気する。「あの…み、美琴…?」先程とはまた違う美琴の異変に、上条は心配そうに美琴の顔を覗き込む。するとその直後、佐天すらも驚愕する行動を美琴が取り始めたのだ。「当…麻ぁ……♡ んむ、ちゅる♡」「「「っっっっっ!!!!!!?!!??!?!?!!!?!?!?!!???」」」それは紛れもなくキスだった。上条、初春、佐天の三名は、急転直下なこの状況にただただ目を丸くする。魂が抜けて絶賛死亡【きぜつ】中の白井は、ある意味良かったのかも知れない。この惨劇を直接見ずに済んだのだから。上条の頭が働きだすまでは、まだ数分かかりそうなので、代わりに初春がツッコミを入れる。「どどどどうなってるんですかコレ!!!?」「いや…あたしがちょっと御坂さんの紅茶に自白z…もとい、 スナオニナールを入れただけなんだけど…あたしの手に負える事態を超えちゃってるね…」「何なんですか、その聞くからに怪しげな名前の薬!!? それと今、明らかに自白剤って言おうとしてましたよねっ!? て言うか佐天さん!? 何だか御坂さんのご様子が尋常じゃないんですが!?」見ると美琴は、あのまま執拗に上条の口内を舐っていた。所謂ベロチューである。先程「キスしたらドキドキしすぎてどうにかなっちゃう」と美琴本人が語っていたが、まさかこんな形でどうにかなってしまうとは、思いも寄らなかった事だろう。そしてそれは上条も同様で、頭の中は完全に真っ白になっている。「あ、あれ!? おかしいな、副作用でもある訳じゃなし………あっ。あった」流石の佐天もこれはおかしいと、もう一度よく薬のビンを調べてみる。するとそこには、『※副作用として、使用後に異常なほど性欲が促進される場合がございます。 過度な使用は控え、用量・用法を必ずお守りください』さて。ご存知の通り、佐天はこの注意書きを読んでいない。薬の量も、考えなしに紅茶へと入れてしまった。つまり、促進される性欲も計り知れないという事だ。サーッと血の気が引けていく佐天に、初春が絶叫する形で声を掛ける。「さ、さささ佐天さんっ!!? これちょ、と、止めないとマズイですよっ!!!?」「うわわわわわっ!!! み、御坂さん!!! お店の中でそれ以上はヤバイですってばっ!!!」見ると美琴と上条は、もはや『目も当てられない状況』になっていた。今回ばかりは流石にやりすぎたと、佐天も反省するのだった。…えっ? 目も当てられない状況って具体的にはどうなってるのかって?それに副作用の効果が切れた美琴と、美琴から告白とディープキスをされた上条の、その後の反応も気になる?ちょっと何言ってるのか分からない。