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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/どこにでもあるハッピーエンド 好きの先にあるもの バスに乗ること十分、さらに歩くこと十分、上条達はようやく目的地である御坂家の前に到着した。学園都市を昼過ぎに出発したこともあって、時刻はもう夕方になっている。 「何年ぶりかしら、家に帰ってくるのなんて」 夕日に染まった久しぶりの我が家を見て、美琴が感慨深げに呟く。 「へえ、そんなに帰ってなかったのか」 「うん。長期の休みなんて普段以上に能力鍛えるのに必死で、家に帰るなんて発想自体なかったから、正直言って」 「そっか、本当にお前って努力家なんだな」 「大したことないわよ。でも、ちょっとは見直した?」 「見直すというより尊敬した。まあそんなことよりさっさと家に入ろうぜ」 上条の言葉にこくりとうなずくと美琴はインターホンを押した。しかし、家の中からは何の返事もない。 首を傾げながら美琴は何度かインターホンを押した。だがやはり家の中からは何の返事もない。 「美鈴さん達、俺達が来ること忘れてるんじゃないだろうな」 「そんなわけないでしょ、ちゃんと電車の時間まで伝えたんだから」 「けど返事がないぞ」 「そうね……」 上条達が首を傾げていると、突然彼らの背後に人の気配がした。 気配を察して上条達が背後を見た瞬間、美琴に何者かが抱きついた。 「お帰りー、美琴ちゃーん!」 「か、母さん!? ち、ちょっと、いったい何!?」 美琴は自分に抱きついた人物、母である御坂美鈴に向かって大声を出した。 「あー、この人、相変わらずのテンションだなー……」 美鈴のテンションに上条があきれかえっていると、がちゃりと御坂家の玄関が開いた。上条がそちらに目を向けると、家の中から上条の父である上条刀夜と、母である上条詩菜、そして上条の記憶にない男性が出てきた。 「もう、いきなり何すんのよアンタは!」 「だって美琴ちゃんを驚かせたかったんだもん」 美琴に怒鳴られても反省するそぶりをまったく見せることもなくニコニコと笑っている美鈴を見て、美琴は盛大なため息をついた。 「本当にどうしようもない母親ね。そう思わない、当麻……当麻?」 側にいるはずの上条に話しかけた美琴だったが、その上条からは返事がなかった。訝しげに上条の方を見た美琴は、彼の様子を見てはっと息を呑んだ。 いや正確には上条ではなく、上条が向かい合っている男性を見て、である。 「え、えっと……」 上条は自分の記憶にないただ一人の男性を見た。 見たところ父、刀夜と同じくらいの年齢だろうか。身なりそのものはいいようだが、スーツをラフに着こなすその様や、整った顔立ちに整っていない顎髭を蓄えたその一種独特な風貌から、一見すると裏家業の人間に見えないこともない。 さらにその男性は先ほどから値踏みをするかのように、上条をじっと見ている。 上条はごくりとつばを飲み込んだ。 この男性の正体ははっきりしない。だが御坂家から出てきて自分と美琴を出迎えた人間であるという事実、そして未だ収まらない自分に対する威圧するような視線から上条は男性の素性に目星を付け、ばっと頭を下げた。 「は、始めまして。俺、じゃなくて私、み、美琴、美琴さんとお付き合いさせてもらっている上条当麻といいます。そのこれから、どうぞ末永くよろしくお願いします。あの、美琴さんのお父さん、ですよね?」 しかし男性は何も答えない。 不審に思った上条が頭を上げると、男性は困ったような笑みを浮かべていた。 「まあ年長者に対して名前も含めて自分から名乗るところなんかは礼儀として間違っちゃいないし、この状況で俺が美琴の父親だって判断するのも妥当だな。けど、君のその挨拶って冷静に考えると結構凄い内容だよな」 「へ?」 「だって、まるで『娘さんを僕にください』って言いかねない勢いだったろう、今の君の挨拶って。なにしろ初対面である彼女の父親に、いきなり付き合ってることを言うんだから。普通は始めましてで終わらないか?」 「あ、その、えと……」 「いやいやすまない、少々意地悪が過ぎた。こちらこそ始めまして、美琴の父、旅掛だ」 旅掛は苦笑いを浮かべながら上条に右手を差し出した。 「は、はい、よろしくお願いします」 上条も同じように右手を出し、旅掛と握手を交わす。 「ふむ、否定しないところを見ると、さっき俺が言ったことはまんざらでもないってことか」 「はい?」 「君のことは妻や、そちらにいらっしゃる君の父上から色々聞いていてね、まあいくらか知ってはいるんだがこうして対面すると、改めて色々わかってくる。なるほどな」 「あの、御坂さん?」 状況にまったく付いていけていない上条の疑問をよそに、旅掛は一人納得しながら話をどんどん進めていく。 「ああ、俺のことは『旅掛さん』とでも呼んでくれたらいいから、妻のことも『美鈴さん』で構わない。妻は以前、君にずいぶん世話になったらしいからね、夫の俺が特別に許可しよう。で、俺としては美琴のことなんかも含めて君とは色々話があるんだが」 そこまで言うと旅掛はチラリと美鈴を見た。 美鈴は黙ってうなずく。 「長旅で疲れているだろう、まずは家の中に入ることにしよう。さあ、上条さん達もどうぞ遠慮せずに」 「ほら美琴ちゃん、ちゃっちゃと入っちゃいましょう」 「え、ちょっと母さん、いきなり何を!?」 突然美鈴に背中を押された美琴は家の中に入っていった。それに続く美鈴と旅掛。 そんな三人をぼうっと見ていた上条の肩を、ぽんと刀夜が叩いた。 「ほら、何やってるんだ当麻。私達もお邪魔しよう、もう準備はできているんだ」 「え、準備って?」 「すぐにわかるさ」 上条は訝しげな表情を浮かべながらも渋々うなずくと、御坂家の玄関をくぐった。 「なあ美琴、これってやっぱり」 「それしかないでしょうね、どう見ても」 和室に通された上条は、先に入っていた美琴の側にすっと寄ると小声で話しかけた。 「ということは、旅掛さんがいるからって俺は歓迎されてないわけじゃないんだよな」 「……なんでそういう感想が出るわけよ。どこをどう見ても普通に歓迎されてるでしょ」 「あはは」 上条達は和室の中を見回した。 広めの和室の中央に置かれた大きなテーブルの上にはお寿司などといった料理が並べられており、どう見ても美琴の言う通り客人をもてなす準備が出来上がっている状態だった。 だが上条には一つだけ疑問があった。 「なあ、こういう時って普通家族ごとにかたまるんじゃないのか? なのになんで今回は親達四人並んでるんだ?」 上条家も御坂家もそれぞれ三人家族で合計六人。ならば今回のような場合ではテーブルの一辺に三人ずつ家族ごとに集まって座り、家族同士が向かい合うよう、例えばお見合いのような座り方にするのが普通だと上条は思ったのだ。 けれど今回はテーブルの一辺、部屋の上座に位置する方に親達四人が既に座っており、それに向かい合う形で二人分の座席が用意されていた。 その二人分が自分と美琴の席であることは間違いない。 「なんで?」 「知らないわよ。でもこういう配置ってことは、こう座れってことでしょ」 「だよな」 首を傾げながら席に座った美琴に続いて、上条も美琴の右隣に座った。 「なんか、緊張するな」 「何ビビッてるのよ。気にしたら負けよ」 美琴と二人並んで両親達に向かい合った上条の心は、両親達が何を考えているのかがわからないため、妙な緊張感に包まれていた。 「さあ、みんな揃ったわね」 そんな上条の緊張を知ってか知らずか、二人が座ったことを見て取った美鈴が明るい声を出した。 「それでは、改めてお帰りなさい、美琴ちゃん。そして、お久しぶり、御坂家へようこそ上条くん」 「……ただいま」 「ど、どうも」 憮然とした表情の美琴と緊張した面持ちの上条。 そんな二人を見て美鈴はつまらなさそうに口を尖らせる。 「もう、二人ともノリが悪いわよ」 「仕方ないでしょ、帰ってくるなりいきなりこんな宴会準備OKみたいな場所に通されたんだから。一息つくくらいさせてよね。それにこの座り方、妙な思惑を感じるし」 美琴の反論に美鈴は軽くため息をついた。 「思惑じゃなくて親の気遣いと言ってほしいわね。……まあいいわ。それでは皆さん、これから美琴ちゃんと上条くんの歓迎会をしたいと思うのですが――」 美鈴はここで急に言葉を句切ると、ぐるっと全員を見回した。 「その前に、話しておかなければいけないことがあります」 「話しておかなければ、いけないこと?」 上条と美琴は声を合わせた。 「そう。ちょっと長くなるから、悪いけどその辺は覚悟しておいてね」 上条達は顔を見合わせると互いにうなずきあった。 「まず今日のこの集まりについてなんだけど。初めは電話で美琴ちゃんに連絡した通り、私と上条さんの奥さん、詩菜さんとだけでやるつもりだったの。でもね、美琴ちゃんと話したことを色々考えてたら、やっぱりパパ達にもちゃんと立ち会ってもらった方がいいと思ったのよ。それで無理を言って、パパと上条さんのご主人に日本に帰ってきてもらったの。正直な話、こうしてみんなが揃う機会なんてなかなかないから。それで立ち会ってもらった上でやりたいことなんだけど――」 「奥さん、後は私から言いましょう」 突然刀夜が美鈴の言葉を遮った。 「ですが……」 「気にしないで下さい。職業柄はっきりと物を言って人に憎まれることは慣れてますから」 躊躇する美鈴を手で制すると刀夜は上条と美琴を交互に見やった。 「さて奥さんの話の続きなんだが、その前に。当麻、美琴さん、先に聞いておきたいんだが母さんから聞いた話、あれは本気かい?」 「話?」 「そう。お前達二人が付き合ってるだけじゃなくて、将来は結婚することまで考えているって話だ。どうなんだ、当麻?」 「そ、それは……」 返答に窮した上条は声をつまらせた。正直言って、なんと答えていいかわからなかったからだ。 美琴のことを好きだというのは事実である。 ずっと美琴といっしょに生きていきたいと思っているのもまた事実。美琴以外の女性とそういう関係になりたいなどとは露ほども思っていない。 しかしそれ以上、結婚したいか、などといったことを冷静に問われると、いまいち実感が湧かないのだ。 美琴のことが好きで、愛している。となるとその先には結婚して家庭を持って、と続くのだろうが、改めて問われると上条には自分がいまいち本気になりきれていないように思える。 あのときは心のまま勢いで告白したものの、これから自分はいったいどうしたいのだろう。 問われた以上、何か答えなければいけない。 けれど親の前、そして何より美琴の前でいい加減なことは言えない。いや、言いたくない。 今、自分の心はどこにあるのだろう。 「…………」 上条は半ば無意識にチラと横目で美琴を見た。 ふいに気になったのだ、自分の思考や意志は混濁してわけがわからなくなっているが、美琴の方はどう思っているのだろうかと。 美琴に告白したとき、美琴は上条の告白をプロポーズとみなすと言った。 先ほども美琴は上条のことを「フィアンセ」と呼んだ。 言葉通りに取るなら刀夜の言った通り、美琴は結婚やその先まで考えていることになる。 けれど果たして本当にそうなのだろうか。 美琴の言葉や態度にはどこまでの「本気」が含まれているのだろうか。 美琴は、自分との将来をどう考えているのだろうか。 そこまで考えて上条は小さく頭を振った。 ダメだ。 自分はあの告白のときから何も成長していない。 あのとき、まずは自分自身をしっかり保たなければならないと、自分自身の気持ちを確立しなければならないと悟ったはずではないか。 美琴の気持ちは美琴が考えることだ。 ならば、上条は上条の気持ちを考えればいい。 そして上条が今、御坂美琴という女性に対して思うことは――。 「…………」 上条はごくりとつばを飲み込むと目の前にいる両親達の顔を見た。 すっと細く息を吸うと上条は口を開こうとした。 「今はまだ年齢的に結婚はできません。でも、私は将来必ず当麻と結婚します。当麻以外の男性なんて考えられません」 「…………!」 だが上条のセリフは美琴の凛とした声に遮られた。 その瞬間、上条ははっと息を呑んでいた。 上条がウジウジと悩んでいる間に美琴はきちんと自分の意志を明確にし、はっきりその想いを口にしていたからだ。 そんな美琴に少しでも近づかなければ、上条にそう思わせるほど毅然とした美琴の態度であった。 「そうか。で、当麻は、どうなんだ?」 美琴の言葉に軽くうなずいた刀夜は再び上条を見る。 上条の方も気を取り直して刀夜の目をじっと見返すと、こくりとうなずいた。 「俺もだ。美琴以外の女の子なんて考えるまでもない」 そう、これでいいのだ。 自分がずっと共に人生を歩んでいきたいと思う女性は御坂美琴という女の子ただ一人。そう答えればよかったのだ。 色々頭をよぎる考えはあるし、納得しきれたわけではない。だが少なくともさっきの刀夜の質問に対して上条の心が出す答えとしてはこれで十分だ。 上条当麻は将来必ず御坂美琴を妻にする。 このとき、上条ははっきりその心に誓った。 「そうか、二人とも本気なんだね」 刀夜は何度もうなずいた。 「なら親としてその上で言おう。その気持ち、考え直してくれ」 「な……!」 刀夜の言葉に上条達は絶句した。 慌てて二人は他の親達の顔を見る。 「…………」 そして二人は親達の態度に絶望を味わうことになる。 刀夜以外の親、三人共がすっと上条達から目をそらせたのだ。 「……どうして」 やがて美琴の口がゆっくりと開かれた。 「どうしてそんなこと言うのよ! 私は当麻が好き、世界で一番好き。その人のお嫁さんになりたい、この気持ちをどうして考え直さなきゃいけないのよ!!」 激高する美琴。 だが刀夜はあくまで冷静だった。淡々と言葉を繋いでいく。 「もちろん、ちゃんと理由はあるよ」 「なんだよ、その理由って。もちろん俺だって、考え直す気なんてさらさらないけどな」 上条は刀夜をキッとにらんだ。 「二人とも若すぎるってことだ。若いから世の中がまだちゃんと見えていない。今は確かに付き合い始めたばかりだから、好きな人が世界で一番素晴らしいと思っているだろうけど、これからもっといろんな人との出会いがあるんだ。どう心変わりするかわからない、それなのに今相手を限定して視野を狭くする必要はないんじゃないかな?」 「なんだよ、それ……」 「当麻と美琴さん、二人が互いを『好き』なのがダメなんじゃないんだ。『今』の段階でそれ以上を考えるのが早すぎるんじゃないかって言ってるんだ」 刀夜はここでいったん言葉を句切った。 「『好き』のままじゃ、ダメなのかい?」 「くっ……」 上条はギリッと奥歯を噛みしめた。 刀夜の言うことにも一理ある。いや、未成年の子供に対してなら普通に親が思うことだろう。腹立たしいが、自分達子供のことを思いやっているからこそ出る言葉だ。 けど。 だからといって。 ここで引き下がっては自分のさっきの決意そのものが無意味になる。 あの決意だけは、誓いだけは譲れない。 「んなもん、ダメに決――」 上条は刀夜に食ってかかろうとした。 しかし左手に加えられた力が、左手をぎゅっと握った、荒れ狂う心を包み込むような暖かく柔らかい美琴の手の感触が、上条の行動を制した。 「美琴……」 上条の呟きに美琴はこくりとうなずいた。 自分が答える。 美琴の瞳が、握った手が、そう語っていた。 「ああ」 だから上条も納得した。ここは美琴に任せよう、と。 そして美琴を励ますようにそっと彼女の手を握り返した。 美琴は親達の顔を順番に見ていき、最後に母、美鈴をじっと見つめた。 「『好き』じゃダメ。『好き』のままじゃ、絶対にダメ。私の心は、もう、そんな感情じゃ収まりがつかない段階に達してしまった」 美琴はチラと上条に視線をやった。 「だから私は、この想いが早すぎるとは思いません。私は、私が生涯をかけて愛する人と、14歳の今このときに出会った、ただそれだけ。これからどんな出会いがあっても、私の当麻への想いが変わることはありません。当麻は、もう私の中で、私という存在の一部になっています。だから、この想いが変わる時は、私が、御坂美琴でなくなってしまう時。だから、私は一生当麻を愛し続けます。考え直すなんて、絶対にあり得ません」 凛とした、透き通った声が部屋中に静かに響いた。 上条はぽんと美琴の肩を叩くと、親達の顔を順に見やった。 自分も同じ気持ちだ、これ以上ゴチャゴチャ言わせない、そんな気持ちを込めて。 「…………」 だが、刀夜の顔には反論されたことに対してなんの感情も浮かんでいない。 上条達がその様子に疑問を感じたとき、刀夜が口を開いた。 「美琴さん、当麻をそんなにまで好きになってくれてありがとう。親として心から礼を言うよ」 「上条のおじさま……」 「けど、二人のことを考えたらやはり考え直してほしい」 「な、なんで!」 「親としては子供にはいつだって幸せでいてもらいたい、辛い思いをしてほしくないんだよ」 「そんな。それとこれとなんの関係があるって言うんですか!」 「ある。端的に言うと、住む世界が違うということなんだ」 「住む世界? ……レベルの、ことですか?」 美琴の言葉に刀夜はうなずいた。 「そう。君達二人の間にある厳然とした違い、という奴だね」 「でもそんなの、私達が付き合うことになんの関係があるんですか! それこそ個人の自由じゃないですか!」 「本当にそう言いきれるのかい? 君達二人は学園都市という社会の中で生きている。そしてその影響は君達が学園都市を出た後でも、何かしらの形でずっと続くだろう。そんな君達が、レベル5とレベル0が、付き合ったり、ましてや結婚を考えたりして本当に邪魔が入らないと思うのかい? 天才お嬢様とおちこぼれのラブストーリーを歓迎する人間なんて、どれくらいいるかな」 「だって、私達が付き合ってもう何ヶ月も経つけど、そんな邪魔なんて――」 「今はまだ、なだけかもしれない。君達の様子を伺っているだけかもしれない。少しずつ邪魔はもう始まっているかもしれない。他にも人間関係や修学関係なんかも含めたら、世の中はどこでどんな邪魔をしてくるかわからない」 「だから考え直せって言うんですか? 当麻のことを、諦めろって言うんですか? じゃあ私は同じレベル5で、どこかの御曹司みたいな奴しか好きになっちゃいけないって言うんですか!」 「そうじゃないよ。今はまだそこまで考えるべきじゃないっていうだけさ。君達がもっと成長して、人生経験を積んで、それでもまだ相手のことを想うのなら構わないかもしれない。ただ、覚えておくといい。世の中っていうのはね、君達が考えている以上にその流れに乗ろうとしないイレギュラーな存在に対して冷酷なんだ。卑怯で、狡猾で、最低な存在だ。美琴さんも当麻も、少しは思い当たることはないかい?」 「…………」 刀夜の言葉に美琴も上条も黙ってしまった。 そんな二人に刀夜はさらに言葉を続けた。 「別に意地悪をしたいわけじゃない。ただ現実を考えてほしいだけなんだ。あくまで私や御坂さんの予想だが二人が付き合うとなったら、普通の学生カップルなんかより遥かに苦労するはずだ。私達は親だからね、子供が理不尽な苦労をすることは望まない」 「……あ、く」 美琴は何か言おうと思ったが上手く言葉を繋げることができず、結局再び黙ってしまった。 自分達に向けられた冷静な、それでいて無慈悲な意見。喋っているのは刀夜だが、その内容は旅掛や美鈴や詩菜、両親全員の意見と考えて間違いない。 つまり、皆が自分と上条の交際に異を唱えているということになる。 しかもその意見には親として当然の感情が多分に含まれている。むしろ自分達を心配するからこそ出てきた意見だ。 それに具体的な妨害は今のところないが美琴自身、レベルが評価の全てである学園都市という世界のいやらしさは十二分にわかっている。 学園都市はレベル5の美琴を優遇すると同時に、レベル0の上条をある意味虫けらのように扱う世界である。 それに妹達の件だって、学園都市の残酷さを示す証拠となる。 さらに言えば上条をぞんざいに扱っているにも関わらず、学園都市、というよりその上層部、統括理事会は時が来れば上条の右手を利用しようと考えている。だからそのためとあらば、上条の五体をバラバラにすることさえ連中はいとわないだろう。 そう。上条と結婚する、などと言えば学園都市という魔物がいったい何をしようとするかわかったものではないのだ。しかももし奴らにそのような思惑があるのだとすれば自分達が成長しようとなんの解決にもならない。永遠に自分達につきまとう問題だ。 つまり、自分と上条は決して結ばれてはいけない存在だということになってしまう。 「そ、んな……」 ぽたっぽたっと美琴の瞳から涙がこぼれだした。 やっと想いが叶ったのに、やっと気持ちが通じ合えたのに、なぜこんなことにならなければいけないのだろう。 なぜこんな思いをしなければいけないのだろう。 大好きな人のお嫁さんになる、そんな女の子としてはごく当然の幸せすら自分は願ってはいけないのだろうか。 美琴の瞳からは次から次に涙がこぼれだし、その勢いはとどまるところを知らなかった。 「……いい加減にしろ」 その時、低く静かな、それでいて恐ろしいほど冷たい声が美琴の耳に届いた。 「いい加減にしろ父さん! いや、父さんだけじゃない、母さんも美鈴さんも旅掛さんも、みんなみんないい加減にしやがれ――――!!」 ガタッと立ち上がった上条は怒りで顔を真っ赤にしながら両親達を怒鳴りつけていた。 しかしそんな上条を目の前にしても刀夜はあくまで冷静だった。 「落ち着け、当麻。私だけならともかく、御坂さん達に失礼だろう」 「うるせえ! 失礼も何もあるか! そっちの態度の方が俺に取っちゃよっぽど許せねーんだよ! 予想の話だけでよくもまあ好き放題言ってくれやがったな!」 「お前は予想だと言うが、これは十分考えられる事態だろう。違うか?」 「ああそうだ! でもだからどうした! 学園都市や世の中の根性が腐ってるのは今に始まったことじゃねえ! 生まれついての不幸体質の俺はいくらでもそんなもん味わってきてるんだ!」 「だったら私の言う意味が理解できるはずだろう。それに私達は何も付き合うなとは言っていない。時期が来るまで待てばいいと――」 「父さんの理屈通りならそんな時期なんて永遠に来ねーよ! 俺達が成長したら成長したでそれ相応の嫌がらせをしてくる連中なんだよ、そういう奴らは! 父さん達、それわかってて言ってるんだろう? つまり別れろって言ってるんだろう、結局!」 「…………」 上条の言葉に今度は刀夜が沈黙する番だった。 「ふざけんなよ。俺は美琴が好きだ。相手が学園都市であろうと、世の中そのものであろうと、どんな奴からだって美琴は俺が絶対に護ってみせる! どんなことをしてでもな! だから余計な心配して俺たちを引き離そうとすんじゃねえ!」 上条はぎゅっと右拳を握った。 刀夜はそんな上条を見ながら大きくため息をついた。 「その決意は立派だ。だけど冷静になれ、当麻。私達はあくまで親としてお前達を心配しているんだ。なぜその気持ちを余計なんて言う? 私達はあくまでお前達の味方なんだぞ、なぜそんな私達まで敵に回そうとするんだ。そんなことで美琴さんを守ることができるのか?」 「何が味方だ!」 上条はびっと美琴を指さした。 「見ろ!! 味方なら、親なら、なんで美琴を泣かせた!! どんな理由があったって美琴を泣かせる奴はみんな俺の敵だ!! そんな奴はたとえ親だって許さねえ!!」 「と、うま……」 美琴はしゃくり上げながらぼうっと上条を見つめていた。 上条は両親達をにらみつけながら見回した。 「残念だったな、父さん達の企みは失敗だ。いいか、よーく覚えておけ。俺は美琴に心底惚れてんだ、だから美琴が嫌だって言わない限り、俺の方から美琴と別れることは絶対にない……誰がどんな小細工しようともな!」 「…………」 上条の「惚れてる」発言に美琴は真っ赤になってうつむいた。 「この際だからはっきり言っておくぞ。これからも俺には何を言ってきても構わない。だけどな、二度と美琴を泣かせるようなことだけは言うんじゃねーぞ。もし今度そんなこと言ってきたら、たとえ父さんだって容赦しねえ。いいな!」 「…………」 何も言わなくなった刀夜を見て上条は面白くなさそうにフンと鼻を鳴らし、美琴の腕を掴んだ。 「馬鹿馬鹿しい。帰るぞ、美琴」 「え?」 上条に腕を掴まれた美琴はきょとんとした顔で首を傾げた。 「こんなところにいる理由なんてもうねえ。どこもかしこも敵だっていうんなら学園都市で俺がお前を護ってやる。少なくとも単純にぶん殴れるだけ向こうの方がまだマシだ」 「待て、当麻」 「は? なんだよ」 上条は刀夜をキッとにらみつけた。 その刀夜は上条の視線の先で両手を挙げていた。 「私としてはこの辺でもう勘弁してもらいたいんですが、皆さん、どうですか?」 「何を言ってるんだ、父さん……?」 訝しげな表情を浮かべる上条をよそに、苦笑する刀夜以外の親達三人は、嬉しそうな、それでいて感心したような微妙な表情を浮かべていた。もっとも、ただ一人、美鈴だけはニヤニヤと笑みを浮かべていたが。 「あらあら当麻さん、いつの間にか刀夜さんに説教できるほどにまで成長したんですね。私としては嬉しいと同時にちょっと寂しくもありますね。ですが言葉が汚すぎます、もう少し品性を保って下さい」 「親を相手にあそこまでぶちまけるとはなあ。普通、よっぽど尊敬されてない親でもなければ子供はもう少し臆するもんなんだが。君、結構根性あるじゃないか」 「あらー、もしかして上条くんて、そんな気持ちで美琴ちゃんに告白したわけ? こりゃ美琴ちゃんじゃなくても惚れるわ」 「へ? え?」 突然空気の変わった両親達の様子に混乱している上条に向かって、刀夜ががばっと頭を下げた。 「すまん、当麻、美琴さん! やりすぎた!」 「へ? やりすぎって、どういうこと、だ……?」 「いくら二人の決意の程を確認するためとはいえ、さすがに演技の度を超えていた。本当にすまん!」 「え、んぎ? え、演技って……な、なんじゃそりゃ――!」 それは、今日上条が出した一番の大声だった。 十分後、ふくれっ面をした上条と美琴の目の前のコップに美鈴が苦笑しながらジュースを注いでいた。 「二人ともゴメンてば。ねえ、もう機嫌直してよ」 「…………」 上条は無言で美鈴から目をそらせた。 美鈴はそんな上条を見ながら頭をかくと、今度は美琴の方を向いた。 「こっちはまだダメか。じ、じゃあ美琴ちゃん。美琴ちゃんはもう機嫌直してくれたわよね」 「……私だって怒ってるわよ。あんな酷いこと言って。あれ、母さん達みんなで考えたことなんでしょ。全員同罪、酷すぎるわよ」 そう言って自分をにらみつけた美琴に、美鈴はパンと手を合わせて頭を下げた。 「本当にごめんなさい。悪気はなかったの」 「あったらもっと問題よ」 美琴はコップのジュースをぐいと飲み干した。 美鈴は空になったコップに慌ててジュースを注ぎ足した。 「そうね。でもね、私達がああいうことを心配してたのは本当なのよ。あなた達には幸せになってほしい。だから、あなた達の覚悟や想いの強さを確認しておきたかった。あなた達はちゃんと二人で幸せな未来を掴めるんだって信じさせてほしかったの」 「そういう言い方したって騙したことには変わりないわよ。……でも怒れないじゃない。あーあ、もういいわよ」 美琴はがっくりと肩を落とした。 そしてその呟きを美鈴は聞き逃さなかった。 目をキラキラと輝かせて、ずいと美琴に顔を近づける。 「ほんと? 本当にママ達のこと許してくれるの?」 「本当よ。私達のことを心配してあんなことをしたのは事実だし、これ以上怒ってもいいことないしね。ね、当麻」 美琴に声を掛けられた上条も美琴に続いてがっくりと肩を落とす。 「まあ、美琴がいいって言うんなら俺ももういいです。でも覚えてて下さいね」 「何?」 「本当に二度目はないですからね。悪気があろうとなかろうと、もし今度美琴を泣かせるようなことをしたら、たとえ親でも俺は絶対許しませんから」 「わ、わかってるわよ。もうあんなことは絶対しない」 「約束ですよ」 「約束する。それにしても」 美鈴はチラと上条を見て、はあっと大きくため息をついた。 「あの国宝級に鈍かった上条くんが、まさかあんなにも美琴ちゃんラヴになるなんてね。ちょっと意外かも。それに美琴ちゃんの反応もねー。泣いたり真っ赤になったりもうかわいいのなんの」 「な……!」 「え……!」 美鈴の言葉に上条だけでなく美琴まで絶句した。 二人して顔を真っ赤にしながらわたわたと両手を振りだす。 「だ、だだだだって、俺、美琴のこと大切で、えと、その、頭に血が登って……」 「わた、私は、その、当麻が、絶対護るって言ってくれて、私が泣いたこと、凄く怒ってくれて、だから……」 「はいはい、ごちそうさま」 美鈴は手をぱんぱんと叩くと目で詩菜に合図した。 こくりとうなずく詩菜。その手には紐が握られている。 「さあ、というわけでお二人の機嫌も直ったことだし。本日のメインイベントに行きましょうか。皆さん、手に飲み物を持って下さいね」 詩菜は紐を握った手にぐっと力を入れた。 「美琴さん、当麻さん、お帰りなさい。そして――」 詩菜はぐいと紐を引っ張った。その途端、パンという音と同時に垂れ幕が垂れてきた。 「おめでとう!」 「へ?」 「おめでとう!」 詩菜の挨拶に会わせて親達は次々と手にしたコップをぶつけ合った。 「えっと……」 事態についていけない美琴はゆっくりと垂れ幕の文字を読み始めた。 「えっと、何々? 上条当麻さん、御坂美琴さん。ご、こ、んやく……お、めで、とう!? 何これ!?」 美琴は慌てて美鈴の腕を掴んだ。 「母さん、いったいなんなのこれ?」 一方美鈴はあっけらかんとした表情で答えた。 「何って美琴ちゃんが読んだまんまよ。美琴ちゃん、婚約おめでとう!」 「こ、婚約って、ど、どうしてそんな……」 「だって、美琴ちゃんが電話で言ったんじゃない。上条くん、ううん、もう当麻くんの方がいいわね。当麻くんと結婚を前提に付き合ってるって。それって婚約と同じでしょ?」 「そ、そりゃそうだけど……でも……」 「何よ、嬉しくないの? せっかく両親公認になったっていうのに」 「嬉しいわよ! でもどうして急に……まさか!」 何かに気づいてはっと顔をこわばらせた美琴を見て、美鈴は申し訳なさそうに頬をかく。 「そう、本当は最初っからこうして二人を迎えたかったんだけど、やっぱり親としては二人の仲を認めてもいいっていう、何か確証みたいなのが欲しくてね、それであんなことをして二人の仲を確かめたの。本当、さっきはゴメンね、美琴ちゃん、当麻くん」 「そう、だったの……」 美琴は朱く染まった両の頬にそっと手を当てた。 「婚約……正式に、当麻と婚約。両親に、祝福されて。嬉しい。本当に、嬉しい……」 そのまま瞳を閉じ、美琴はしばし喜びを噛みしめていた。 そんな美琴を美鈴はぎゅっと抱きしめた。 「でしょでしょ!? 美琴ちゃんがこんなに喜んでくれて、ママも嬉しいわ!」 「うん、ありがとう母さん」 麗しい母娘の姿だった。 一方、上条はというと。 「こんや、く……今夜、食う。食事? 夕飯? 夕飯は今からですが……そうそう、こんにゃくはおでんの具として有名ですが上条さんとしては味噌田楽なんかも……」 「当麻、頼むからもう少ししっかりした、逆境に強い男になってくれ……」 「あらあら当麻さん、『あの』刀夜さんの息子とは思えないほどの純情さですね」 脳が完全にオーバーヒートを起こし、両親から呆れられていた。 主人公としての威厳など欠片もない。 結局上条が復活するのを待って、ようやく上条達の歓迎会ならぬ、上条と美琴の婚約パーティが開催された。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/どこにでもあるハッピーエンド
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◆このページのタグ◆ アックア インデックス レッサー 上条当麻 五和 対馬 建宮斎字 御坂美琴 牛深 白井黒子 短編SS 野母崎 香焼 元スレ美琴「待ちなさいってば!」上条「股がビリビリ」 01 02
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初恋同士の恋の詩 学園都市第7学区にあるとある寮。 そこに住む上条当麻は何やら最近になって思いつめる事が多くなっていた。 ぼーっとする時間が多いせいか、料理には失敗するし、授業では先生にチョーク投げられるし、街ではスキルアウトのお兄さん達に からまれまくるし。とにかく何をやるのも上の空だった。 しかし、そんな上条もある人物の前だけ反応を示す。それは――「ちょっとアンタ! さっきから何ぽけーっとしながら歩いてるのよ!」「あ…み、御坂」「ん? ど、どうしたのよアンタ! 顔真っ赤じゃない!! 熱でもあるの!?」「ちょ…熱なんかねえよ! か、顔! 顔近い!!」「あ、…ご、ごめん」 彼女は御坂美琴。学園都市で5指に入るお嬢様学校常盤台中学のエースでレベル5の第3位。 そんな彼女が上条に気さくに話しかけてくるのは、とある事件で上条が美琴の事を救った事から始まったのだが。 美琴はその一件から少しずつ上条に惹かれていった。 そして最近になって、普段は自分の想いも分からなかった彼女だが、上条に自分だけの現実を揺るがすくらいの恋をしている事に気付いたのだ。 しかし気恥ずかしさか、今の関係が壊れてしまう恐怖からかわからないが、いつまで経っても素直になれなかった。 色々上条に対してそれらしいアプローチはしているのだが、鈍感大魔王の上条は美琴の想いに気付かない。 最近になって減ってきたが、以前は事あるごとに上条を目の敵にしビリビリと電撃を浴びせられていた。 もちろんこれは、美琴の『かまって欲しい』の表現なのだが、面と向かって言い出せない。 そんな事が色々とあったのだが、その上条が最近になって美琴の事を過剰に意識し始めてきた。 以前の美琴の様に胸がもやもやしているのだ。これが恋なのか女性を好きになった事がない上条には分からない。 ただ、美琴を見ると顔が熱くなるし、美琴と遊んでいると時間はあっという間に過ぎてしまう程面白い一時を送れる。 上条は上条なりに、美琴に対して好きかどうか自分でも分からないようなアプローチをしている。 手を握ったり、頭に手を置いて撫でたり。 このもやもやした感情がない時はこんな事たいした事なかったが、美琴を意識し始めた上条にとっては顔を真っ赤にしるほどのものだった。 だが、そんな上条にとってはうれしくない誤解があり、アプローチをしたら美琴は必ずと言っていい程漏電し出す。 上条はこの漏電を、以前の出会い頭に電撃を浴びせるという風に捉えてしまい、自分が美琴に近づけば近づくほど美琴に毛嫌いされると 誤解してしまって、その先のアプローチまで至っていないのだった。「あ、あぁ。俺の方こそ…ごめん。やっぱり何か病気みたいかもしれない。顔が熱いし、胸痛いし」「え…? 病気? じゃ、じゃあこんな所にいちゃダメじゃない! ほら。アンタの寮まで送ってあげるから掴まりなさいよ」「………………えっと、御坂さん? 掴まれとは?」「病気でダルいんでしょ? だから肩貸してあげるって言ってんの!」「かっ、かかかかか肩ぁ!? い、いえいえいえいえいえ!! そ、そんな事したらまた悪化するというか近くなるけど遠くなると言うか!」「……はぁ!? アンタほんとに大丈夫!? 最近変よ? …、もしかして何か隠してるわけじゃないでしょうね?」「なっ、何にも隠してない! と、ととととにかく何でもないから! それじゃ!!!」「あっ! ちょ…アンタ! 待ちなさいよ!!」 上条は美琴の申し出を断り、光の速さで逃げ出した。超電磁砲も光には追いつけないのだ。 この上条の逃げるという行為は、美琴の漏電の様なもので、この事にも美琴は悩んでいた。 美琴も過剰に上条とスキンシップを取ろうとすると、上条は慌てて逃げ出してしまう。あまり親しくするのは迷惑なのか、と。 もちろん上条にとっては照れ隠しなワケで、そんな迷惑なんかとは全然思っていない。 そして、その場に残された美琴は「ちぇ。何よアイツったら…人の気も知らないで」といい自分の寮へと戻っていった。 上条は顔を真っ赤にしながら走っている。 途中、なんか最近会ったスキルアウトのお兄さんに声を掛けられた気がしたが、そんな声なんか聞こえないくらい頭が美琴の事でいっぱいだった。「か、肩に手を回すって事は…その、抱きつくって事だよな。……あぁ、素直にしてもらうんだった………じゃない! 死ぬかと思った…」 上条は寮まで帰ってくると一気に部屋に駆け込み、ドアを閉めて息を荒げた。 顔は真っ赤で、頭の中はさっきの映像がフラッシュバックする。「はぁ…」「ん? あ。とーまおかえりー」「おぅ、ただいま。インデックス」「…? どうしたの? 顔真っ赤だけど」「え!? そ、そんなに真っ赤か!?」「うん。恋する乙女が想い人に迫られた時みたいに真っ赤なんだよ」 インデックスは妙に核心突いた言い回しをしてくる。 それもそのはずで、最近の上条は誰が見ても変だった。何をやるにも上の空だし、話しかけても生返事ばかりで。 これは恋に敏感な高校生、中学生ならまだしも、恋に疎い小学生でも気付くであろうレベルだった。「―――で。とーまはどこの誰にその心を奪われちゃったのかな?」「……………恥ずかしくて言えません」「まっまさか…私!?」「それは違うと言い切れます」「むぅ! そこまでハッキリ言われたら流石に傷つくんだよ!……あぐっ!」「ぎゃああああああっ! い、インデックスさん、すみませんでしたーーーッ!! 頭噛み付かないでぇぇぇぇ!!!」「ほーまふぁほっほほんなほころほふぁんふぁえないふぉいふぇないふぁよ!(とーまはもっと女心を考えないといけないんだよ!)」 インデックスの噛みつき攻撃によりダメージをうけた上条は鬱な表情で夕食の準備に取り掛かる。 しかし、ここ最近まともな料理が出来ないためか、軽く作れるものが多くなってきた。 そんな料理でもインデックスは美味しそうにバクバク食べる為、上条はその時だけは美琴の事は忘れ溜息を吐きながらも笑ってしまう。 それで夕食も食べ終わり、食器を流し台に持っていった時インデックスが「さっきの続きだけど…」と言い出した。「とーまはもっと真っ直ぐ向き合うとおもってたよ」「……なにが」「好きな人にはハッキリ好きっていうと思ってたって言ってるんだよ」「…」「何か言えない理由があるの?」「それは……」「私はとーまより全然年もいってないから偉そうな事言えないけど…苦しいならいっそその思いを相手にぶつければいいと思うよ」「……そ、そんな…こと」「たとえ相手がとーまを拒絶しても、私が慰めてあげるんだよ。なんて言ったってシスターだからね。ちょっとくらいなら力になってあげられるかも」「インデックス…」「居候してる身だからね。なにかの役に立ちたいんだよ。私も」「ありがとな。インデックス…。そうだよな、いつまでもこのままじゃいけないよな」「そうだよ。真っ直ぐ進んだ方がとーまらしいかも」「あぁ」 上条はその後またありがとうとインデックスに言って頭を撫でた。 インデックスはいいんだよーと気持ちさそうに撫でられている。そんなインデックスを見て上条は小さく笑い、着替えとタオルを持って 風呂場へと消えていった。 上条の背中を見送ったインデックスは小さく、本当に小さく言葉を漏らした。「とーまにそこまで好かれるなんて、その子は幸せすぎるんだよ」 美琴は常盤台の女子寮に帰ってくるなり、シャワーを浴びて夕食を済ませた。 そして自分の部屋、208号室に帰ってくると一直線にベットに倒れ込んだ。208号室は相部屋なため、もう一人白井黒子がいるのだが、 そんな倒れ込んだ美琴に白井は心配そうに声を掛ける。「お姉さま? お体でも優れませんの?」「んー? んーん。全然平気。ありがとね」「それならいいんですが、黒子に出来る事があればなんなりとお申し付けくださいですの」「うん」 会話が終わると白井は風紀委員の仕事が残ってましたのと言い、机に向かいパソコンで作業をし出した。 お嬢様の寮だけあって周りには騒がしい音が無く、今は時計が時間を刻む音と、白井がキーボードを打つ音しか聞こえない。 耳を傾ければ自分の心臓の音が聞こえてきそうなくらい静かな、夜だった。「黒子」 美琴は枕に顔を埋めたまま白井に語りかけた。 白井も一回は美琴の方を見て、何でしょうか? と言ったが美琴が伏せていたために、目を見て話せない事なのだと思いパソコンに視線を戻す。 そしてキーボードを打つ音が聞こえてきたのを確認すると美琴はまた言い出した。「気付いてるかもしれないけどさ。私…好きな人がいるの」 美琴のその言葉に白井は一瞬キーボードを打つ手を止めたが、また打ち始めた。「そんな事、とっくの大昔に気付いておりましたわ」「………そっか」「お姉さまは素直じゃありませんものね。でもこうして黒子に言い出した事は大きな進歩ですわ」「もっと反対って言うか…色々言われるかと思った」「確かに言いたい事は沢山ありますわ。でもお姉さまもそんなになるまで悩んでるんですもの、黒子は反対なんて出来ないじゃありませんの」「…」「お姉さまは―――」「ん」「お姉さまは黒子の、大切な大切な『親友』ですから」「ありがと。…なんか、……はは」「お姉さま?」「先輩の面子丸潰れね」「親友の前なら弱みを見せてもいいじゃありませんの。いつも常盤台のエースとしてのお姉さまじゃ頼る相手も少なくなってしまいますでしょう?」「………ありがと。ほんとに」「いえ。それにお姉さまは悩むよりまず行動…という性格だと思ってましたわ」「…そう、よね。こんな悩んじゃって私らしくないわよね」「超電磁砲の様に、真っ直ぐに…ですわ」「うん。ありがとね黒子…私、あんたの事誤解してたわ。とてもいい子だったのね。もっと変態だと思ってた」「いやですわお姉さま。黒子が変態だなんて。ところでその想い人の前に、わたくしに貞操を捧げる気はございませんの?」 翌日。学校が終わり、下校中の上条当麻は溜息を吐いて歩いていた。 今日も今日で授業中ぼけっとしてしまい課題プリントを沢山出されたからだ。そんな上条を見かねて委員長の吹寄が気合の説教1時間コースを実施。 終わる頃には完全下校時間が近くなっており、上条と吹寄は下校すると、明日からはシャキっとしろよ! と言い残し吹寄は去っていった。 上条は夕食の材料を買わなくてはいけなかった為に、最寄のスーパーまで足を運ぶ。 しかし時間帯がずれていたのかタイムセールは終わっており、今日特売であった物が置いてあったらしき場所には『完売しました』の 札が貼ってあった。「不幸だ…」 上条がその言葉を漏らすと、後ろから背中を思い切り叩かれる。 こんな事をするのはデルタフォース所属の土御門か青ピくらいだが、この時間にスーパーにいるはずがないのでそれ以外の人物。「よぉ御坂。いきなり背中ど突くのはやめてくれよ。ビックリして心臓止まりかけた」「何言ってんのよ。あの電撃でも止まらなかったアンタの心臓は、これくらいじゃビクともしないでしょ?」「おまえな…」「えへへ」 上条は美琴の笑顔を見ると途端に胸の中にある何かに駆られる。 それはとても苦しく、とても熱いもの。 上条はこの苦しみの正体が分からなかったが、苦しみを抑える事は出来ずに美琴に言った。「……御坂。この後時間あるか? 下校時間過ぎちゃってるけど」「へっ? こ、この後……う、うん。別にいい……けど。何かあるの?」「ちょっと最近悩んでる事あってさ。御坂に色々聞いて欲しいんだ」「……………驚いたわね。アンタでも悩む事あるんだ。まぁ、そういう事ならこの美琴先生にお任せね。何でも相談しなさい」「恐れ入ります。美琴先生」「ッ―――」 美琴は自分で美琴先生と言っておきながら、その言葉を返されると顔を赤らめて俯いてしまう。 上条は夕食の材料を買い物を始める。その材料は野菜や肉など。この後に訪れるであろう美琴に対する思いの打ち上げで、 この苦しい気持ちが消えるであろうと確信したのか、久しぶりに本格的な料理をするため材料を買っていった。 美琴はそんな買い物をする上条を隣でぽけーっと見入っている。 そして会計を済ませた上条たちは自販機のある公園へ向かう。 その間上条は今日学校であった事を美琴に溜息混じりに話すと、美琴は自業自得よと手厳しいお言葉を言い放った。 公園に着くと、上条は美琴をベンチに座らせ、自販機でジュースを買ってきた。 買ってきたのはザクロコーラとヤシの実サイダー。「ほい。ヤシの実サイダー」「…たまにはザクロコーラがいいな」「へぇ、珍しいな。いつもサイダーなのに」「アンタはいつもコーラよね。それで美味しそうに飲んでるから私も飲んでみたくなっちゃった」「ふーん。まぁいいや。ほらよ」「ありがと」 美琴は上条からザクロコーラを受け取ると、その栓を開け一口付けた。 そんな美琴を見て上条もヤシの実サイダーに口を付ける。「…そんな美味しくないわね、コレ」「そうか? 俺は好きだけどな。サイダーは美味いな」「……ねぇ」「うん?」「やっぱそっちがいい」「ブホッ!!」 美琴はザクロコーラを両手で持って顔を赤らめながら、上目使いでねだってきた。 美琴の事を意識している上条にはキツすぎる行為で、もう有無を言わずに真っ赤な顔を伏せ、ヤシの実サイダーを差し出した。 受け取った美琴もさらに顔を伏せザクロコーラを上条に渡す。 共に想い人の口を付けた缶ジュースを持っているため、その後どうすればいいのか分からなくなっていた。 相手から先に飲んでくれればこっちも踏ん切りつくのに、といった牽制のし合い。 しかしさっきの美琴がどうしても頭から離れないのか上条は全く動かない。 美琴も美琴で動けなかったが、この空気に耐え切れず先程のスーパーでの事を話し始めた。「…で。な、なにかしら? 美琴先生に相談事って」「あ、……あの。その…えっと……」「んー? やっぱり言えなくなった? そんなに顔真っ赤にしちゃって。さぞ恥ずかしい事なんでしょうけど」「う…」「へ? そ、そうなの!? あ、ご…ごめん。話づらくなるような事言っちゃって…」「………いや、いいよ。俺がハッキリしなかったのがいけなかったんだから」「そ、そう?」「じゃあ言うぞ?」「ど、どうぞ」 上条は美琴の隣に座ると一回大きく深呼吸をした。 美琴は上条が隣に座ってきたので緊張を解すために深呼吸した。 そして―――「俺さ、もしかしたらおまえに恋したかもしんねぇんだ」「……………………は、…い?」「この気持ちが何なのか、俺分からないんだよ。胸が苦しいっつーか。おまえを見ると体温上がるっつーか」「え…あの、ふぇ? わ、私…?」「これ恋なのか…御坂。おまえ今まで恋した事あるか? この苦しみ何なのか教えてくれよ!」「わ、私だって恋した事くらいあるけど……えっと、それは」「さ、さすが美琴先生だ。…で?」「そ、そうね。たっ、たたた確かにそれは…こ、恋かもしれないわね。私を見たらドキドキしちゃうんでしょ!?」「そうなんです…」「そっかそっか。えへへ、なんだそうだったんだ…。えへへへ」「なるほど。やっぱり恋だったのか…。いやー、気分晴れた。ありがとな、御坂!」「ふぇ!? そ、そんな…いいよ。わ、私も…その…気分晴れたし」「よっしゃ! じゃあ俺もう帰るな! 今日は気合入れて夕食つくれそうだぜ!!」「そっそうね。夕食は気合入れて作らなきゃダメよね……………………………………って、はい?」「ありがとなー。今度何か奢るからさー」「ちょ! ちょっと待ちなさいよ! アンタ私の返事聞かないの!?」「いいよー。俺この気持ちが何なのか知りたかっただけだしー。それに早く帰らないとインデックスに何されるか分からないしなー」「な、に……を」「じゃ、またなー」「考えとるんじゃおのれはあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああす!!!」 美琴は上条の小さくなる影に向かって電撃をお見舞いした。 どうやら右手にかき消されたらしいがそれなりの恐怖を与えたようだ。「あ、アンタね! 自分の気持ち言うだけ言って帰るってどういう神経してるのよ!!」「はぁ…はぁ…し、死にかけた」「ちゃ、ちゃんと私の返事も聞いてもらうわよ!!!」「わかった。わかったからもう電撃は止めてくれ。本当に死にそう」「わかればいいのよ。じゃあ言うわね? じ、実は―――」「っとその前に!」「……な、なによ?」「俺の家で言ってもらってもいい? インデックスが飢えてペットの猫食いかねない」「…うふ♪」「あ、あれ…御坂さん? な、なんで眉をひそめながら笑ってるんでせうか? 笑う時はさっきみたいに、えへへと笑ってほしいのですが」「それは無理ね♪ だってほんとは笑ってないもん。これは作り笑い」「えっと……、では本心は?」「アンタのその脳みそにちょっとばかし電撃を流しこんで無神経な考えを――――」「ちょ! ちょっと待て!! んな事したらまた記憶喪失になるわ!」「いいから。ちょっとだけちょっとだけ」「いやだー! つーわけで去らば!!」「あ! こら!! 逃げんな!!」 そして上条と美琴はまたいつものように走りだした。 しかし表情はいつもとは違う。二人ともとても楽しそうで、幸せそうで、とにかく不幸そうな顔ではなかった。
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Daily Life 美琴が上条を名前で呼ぼうと決意してから、10日が過ぎた。 あの一件以来、美琴は上条と会っていない。 初春らに言われた『名前で呼ぶ』事を意識しすぎ、どういう顔で会えばいいのかわからないまま時が経ったという状態だ。 ワザと上条と接触しないような行動パターンをとったりしている割には、メールはしっかりと送っている。 せめてメール内で『当麻』と読んでみようかと思ったが、指が4のキーを押す事もなく撃沈した。 あれから10日、と言う事は勿論、月曜日は通過しているのだが、『今週は立ち読みしちゃったから』とか言い訳してスルーしてみたりもした。 上条からの返信に『準備してたのに来ねぇとなると寂しいな』なんて文があったものだから、その日は一日中幸せだったりもした。 以前、水曜日の雑誌は買わないのか、と聞いてみたが、週に2冊は厳しいですのよ、との答え。 もし水曜分も買っていたのら、それを口実にも出来たな、と美琴は思う。もっとも、いざ現実となると自分から行くなんて出来なさそうではあるが。 そんな悶々とした10日間、初春や佐天は会うたびに意味ありげな視線を送ってくるし、白井は白井でじっとりとした目で見てくる。 何も悪い事はしていないのに、責められているような後ろめたい気分で落ち着かない美琴であったが、焦って自爆するわけにはいかない。 初春や佐天相手ならまだしも、上条本人に自爆しようものなら死んでも死にきれない。 (だぁぁぁっ、無理っ!どんな顔して呼べばいいのよ。こんなことなら初めから名前で呼んでおけば) そこまで思って気付く。そういえば、上条本人から名前を聞いたことがあったか。 右手に宿る能力を知るために『書庫』にアクセスした時に知ったのだが、本人から聞いた覚えが無い。もちろん、尋ねた覚えもない。 (なんと、まぁ) 意外なる事実に今さら気付いた美琴であったが、これは逆にチャンスなのではないだろうか、と思案する。 (名前の話題から繋げれば……よーし) 妄想もとい暴走を始めた美琴の頭は外の一切を排除し、上条との接触プランを練る。 もはや、上条一色なのだが本人はあくまで認めていない。どんどん小さくなっていくプライドがどこまで持つか。美琴が素直になるのはもう目の前だ。 えへへ、と妄想にふける超電磁砲は、教室中の視線をいつもと違う意味で集めている。 その場に居合わせた先生でさえ、触れずにスルーを決めたほどの不気味な美琴は後々まで語り継がれることになる。 絶賛授業中。この日、常盤台のエースのノートは真っ白のまま進むことはなかった。 美琴と会う事のなかった10日間、上条の生活は劇的な変化を遂げていた。 インデックスがおかしい。 初日はその尋常じゃない事態に、新手の魔術でも発動しているのかと思ったくらいだった。 何がおかしかったか。その始まりは、夕食前のインデックスの一言だった。 「とうまー、私も何かお手伝いするんだよ」 「はいっ!?」 なんと言いましたか、インデックスサン?、と聞き直してしまった。 どういう風の吹きまわしかは分からないままであったが、一生懸命に手伝ってくれる――失敗ばかりだったが――インデックスはとても愛らしかった。 その日を境に、インデックスが妙に丸くなったような気がした。 いざ夕食を食べるときになっても、『とうまも食べなきゃだめだよ』と言いだす。 いつもは量に大差があるのだが、それ以降は同じものを食べることになっていた。 それでもインデックスは妙に楽しげだったし、食後寝る前までテレビの虫だったのに、なにかにつけて話かけてきたり、遊ぼ遊ぼとやってきた。 そんな新生インデックスは、外に出るとどうも色々と悩んでしまう上条の心を癒してくれていた。 (インデックスも、女の子だもんな) 鈍感マイペース純情少年である上条がそう思えるくらいに、インデックスは可愛い女の子になっていた。 以前とのギャップのせいもあるかもしれないが、上条は目の前にいる銀髪のシスターとの暮らしを楽しんでいる。 ただの噛みついてくる居候から、隣に並ぶ同居人に。 上条にとって、インデックスはかけがえのない人である。それは確かだ。 そんな事を思うたびに、自分が彼女を偽っている罪悪感に悩まされていく。 (俺は、どうすればいい) 四六時中、そればかりを考えている。少しずつ、自分の精神が削られていっているような、気が狂いそうな状態。 上条は大きく溜息をつく。神の右席をも破ってきたが、今度の壁はそれよりずっと大きなものだった。 上条は迷っていた。 終業後の教室で1人考え事をしてしまうくらいに。 「帰る、か」 重い腰を上げ、帰り支度をする。ふらふらと考え事をしながら、昇降口を目指す。 職員室の前から小萌先生が見ていたのだが、上条は気付かない。 答えの出ない迷宮をさまよいながら、上条は悩んでいた。 美琴の事は嫌いじゃないし、アステカの魔術師には守るとも言った。それは確かだ。 でも、それでいいのか。単純に弾き出した答えでいいのだろうか。 インデックスは、この身の不幸体質は、右手に宿る幻想殺しは、そして何よりも『記憶喪失』は…… 自分と向き合い、自分と闘う。上条の前にハードルは多い。1つ1つ解決するしかないのだが、自分だけで答えの出ないような気がする。 かといって―― (相談できるような悩みでもねぇしな) そもそもあまり悩みを打ち明けない上条にとっては地獄のような気分だった。 校門に向かいながら空を見上げる。オレンジ色の夕焼けがあたりを染めている。 「どうしたらいいんだろうな」 上条は呟く。答えは――― 「自分の、やりたいようにやればいいんじゃない」 声につられ、目線をおろすと校門の外に美琴が立っていた。 「御坂………久しぶりだな」 「えらく元気ないじゃない。私に会えなかったからかしら?」 腰に手をやり笑う美琴を見て、上条は心が軽くなるような気がした。 (単純だな、俺も) 自分の安さを認識して、頬が緩む。自嘲気味ではあったが、ひどく久しぶり笑ったな、と上条は思うのだった。 「こんなところまで来て………待ち伏せか?」 「アンタに………当麻に話があったから」 辛そうな上条から目を逸らしてしまったことに嫌気を感じながら美琴は素直に答える。 上条が元気に『よっ、御坂!久しぶりっ』なんてテンションで話しかけて来たら、電撃の1つでもお見舞いしていたかもしれない。 「話、付き合ってくれる?」 美琴は逸らしていた目を上条に戻す。上条は驚いた顔をしていた。 「お前、今、当麻っつたか?」 「なによ、ダメだった?」 目を丸くする上条の顔が面白くて、微笑んでしまう。美琴はその勢いのまま、ちょっとだけ皮肉をこめて言い返す。 「いや、悪くはないんだが……今までアンタとしか呼ばれなかったから」 「そりゃそうよ。アンタ、私に1回も名乗ってないのよ?」 「あれ?そうだったっけか。なんとまぁ、上条さんは気付きませんでしたよ」 はははっ、と笑う上条につられ、美琴も笑う。 上条はその美琴の笑顔に荒れた心が癒されるような気がした。 「で、なんだ御坂、話って言うのは?」 「歩きながら話す」 美琴はそう言うと歩き出した。上条も美琴の隣に並んで、歩調を合わせる。 「あのね。話っていうのは、アンタの、当麻の迷ってる事の話」 「……分かるのか?」 上条はちらりと美琴を見る。その表情からは感情は読み取れないが、少し怖がっているようにも見えた。 「当麻は、そんな性格だから誰も頼ろうとはしないと思う。だから、これから私が言う事は、私個人の意見。気に入らなかったら、聞き流して」 「…………」 「正直、記憶喪失の事とか、インデックスの事は私が口を出せる話じゃないわ」 「…………」 美琴は真っ直ぐ前を向いたまま続ける。いつものハキハキした声ではないが、ゆっくり心に染み込むような声。 「どうせアンタのことだから、不幸体質とか気にしてるだと思う。周りに迷惑がかかるんじゃないか、って」 「別に俺は、そんなできた人間じゃねぇよ。自分の事で精一杯だ」 上条が口をはさむ。実際、美琴の言っている事は殆どあっている。自分だけならまだしも、近くにいる人を不幸に巻き込みたくはなかった。 「ううん。他人の事まで自分の事のように考えられるからそう思うだけ」 美琴は首を横に振り呟く。言葉1つ1つが上条の心に響く。 (例え俺が他人の事を思える人間でも、不幸を撒いてしまう事には変わりはない) 美琴の優しさに感謝しつつも、上条は譲らない。 「右手の力が争いを呼んでしまうから、近くに人を置きたくない。何でも1人で背負おうとする」 人には自分を頼れっていうのにね、と美琴は続ける。 上条にとって一番痛い話を、美琴はしていた。美琴自身もその事は分かっている。 (全部、バレてんじゃねーか) 敵わないな、と漏らし、上条は立ち止まる。それに気付いた美琴も、上条の半歩前で立ち止まる。 「……なぁ、御坂。なんで、わかったんだ?」 「私を誰だと思ってんのよ」 観念したかのような上条の前で、美琴はふふんっ、と笑ってみせる。内心はこのあと言おうとしていることによる不安でいっぱいだ。 「さすがは、レベル5。いや、常盤台のお嬢様ってトコか?」 「ううん。私がレベル1のままでも、その辺のただの中学生でも分かったと思う」 美琴はそこまで言うと俯く。手汗が酷い。鼓動の音がやたらと大きく聞こえる。 上条は見た。目の前の少女は何かを決心したかのような目をしていた。 「私は、アンタが、当麻の事が好きだから。だから、気づけたんだと思う」 美琴は顔を上げずに、小さな声で言う。本当に小さな声であったが、上条には大きく強い芯をもって聞こえた。 「当麻の人を傷付けないよう気にしすぎる優しさも、不幸を体質だって笑い飛ばしてしまうところも、私の全力を受け止めてくれる右手も、全部まとめて、大好きなの」 上条は雷に打たれたような気がした。美琴が自分を好いてくれているかもしれない、ということは自意識過剰かなと思いながらも薄々感じていた。 ただ、目の前の少女は今、何と言ったか。 自分の欠点でもあるおせっかいも、呪いたい不幸体質も、争いの種になる右手も、全てを含めて好きだと言ってくれた。 上条は気付かない。自分の目から涙が流れていることに。たった1粒の涙。 記憶喪失になっても、殺されかけても、流さなかった涙。 「ありがとう、美琴」 10日前にも言った言葉。込められる想いの差は、上条のみぞ知る。 「全部片づけられたら、答えるから。待っててくれ……どういう答えになるかは、分からないけど」 わりぃな、と上条は笑った。心の奥から、本当の上条当麻として。 「待ってる」 美琴も応える。10日前と同じ言葉で。込められたる想いはやはり、美琴のみぞ知る。 夕焼けのオレンジが2人を照らしていた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Daily Life
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if.御坂美琴と上条当麻の会合[前編] 1 6月某日「よぉ~、君。かわいいね~、俺たちと遊ばなーい、ぎゃははは」(はぁ。この手のはホント絶滅しないわね)不良にかわいいと言われた少女、御坂美琴は軽く嘆息をついた。いつも絡んできてそして結局はいつも自分にやられる、そんなやりとりにそろそろ疲れてきたなと美琴は感じていた。こいつらは私を学園都市第3位の超電磁砲《レールガン》だとなぜ気づかないのだろうか、そう考えたりもした。「いやぁ、連れがお世話になりました~」「へ?」「ああん?」周りの人達は白状ではないのよね、などと考えているところにツンツン頭の目立つ、美琴より年上であろう少年が割って入ってきた。しかも美琴を連れなどと抜かして。「ということで、失礼しましたー!」「ちょ、ちょっと!」「おいこらぁ!」そのツンツン頭の少年は不良になるべく関わらないよう、そそくさと美琴の手を引っ張ってその場をあとにした。美琴は意味がわからなかった。どうして自分を助けようとしたか、おとなしく周りの人と同じようにしていればいいものを。「はぁはぁ、ここまでくれば見つからないだろ、はぁはぁ」意味がわからないままでは自分が面白くないので、一応、聞いてみることにした。「ねぇ、アンタ。どうして私を助けようなんて考えたわけ? 周りの人みたいに見て見ぬふりをしとけばいいのに」「はぁ? 困っている人が目の前にいたら助けるのは当たり前だろ? 他の人もひでぇよな、目すら合わせようとしないんだもんな」そうか、こいつはそういう奴なんだ、と美琴は思った。困っている人がいたら何が何でも手を差し伸べるそういう奴なんだと。「そう、ありがとね。アンタ、名前は?」「俺か? 俺は上条、上条当麻。お前は?」そのツンツン頭の少年は上条当麻と名乗った。美琴はそのとき違和感を感じていた。なぜ名前なんかを尋ねているのだろうと。しかし、そんなこといつまで考えていてもわからないと感じたので、美琴は相手の質問にも答えることにした。「上条、ね。私は御坂美琴」「御坂か、これも何かの縁かもしれねぇから、覚えておくよ」「そう。じゃあこの辺で、また縁があったら会いましょう、上条」「年下でしかも初対面なのにいきなり呼び捨てかよ……。じゃあな、御坂」「じゃあね」こうして二人の初の会合は終了した if.御坂美琴と上条当麻の会合[中編] 2 8月20日場所は自販機近く。ここ3週間ほどの出来事が原因で美琴はかなり疲労が溜まっていた。まず虚空爆破(グラビトン)事件に始まり、木山春生による幻想御手(レベルアッパー)事件と色々あった。虚空爆破事件ではあのツンツン頭、上条が変な能力を使い助けに入り、そのうえ助けたと名乗り出なかった。少しいけ好かないと感じた。そして、今、絶対能力進化(レベル6シフト)実験というものに直面していた。自分が人の役に立つならと思い提供したDNAマップ。それが自分のクローンを作り、そして殺して、学園都市第1位をレベル6にするために悪用されるようになっていた。美琴はそれを止めるために、研究所をいくつも潰して周った。途中わけのわからない連中とも戦った。そして最後の研究所が手を引いていたため実験は終わったと思い今に至る。(もうあの子達は死ななくても大丈夫よね?できることならもうあの子達とは会いたくない)美琴は今、自分のクローンに会うと実験をやってるんじゃないかと心配になってくる。そして、こんな実験のためにDNAマップを提供した自分は会う資格ないとも感じていた。(はぁ、最近黒子達とまともに会話できてないなぁ。上条とも会ってないなぁ。会いたいなぁ、って何言ってんのよ私はぁぁあああああ!?あんないけ好かない奴と会いたいなんてぇぇええええ!!ってあれ?)自己嫌悪している途中で美琴は自販機の前で何かやっている人物に気がついた。その人物はツンツン頭が目立つ高校生だった。「あっれー?おかしいな、金は入れたぞ?なんで出ないんだ、ちくしょう不幸だー!」美琴はちょうどのどが渇いていたので、その知り合いであろう少年に声をかけることにした。「ちょろっとー?私も飲み物飲みたいから、上条そこどけてよー」美琴はその少年をどかすと小銭を財布から出し、自販機に入れようとした。そこで少年はおかしなことを口走った。「ああ、すいません……って誰だ?常盤台のお嬢様?」「……はぁ?アンタこの暑さで頭おかしくなっちゃったんじゃないでしょうね?御坂よ。御坂美琴。アンタ、上条でしょ?上条当麻」「あ、ああ、すまん、そうだったな」美琴の知り合いであるその少年は変だった。美琴から見た目でも少年、上条当麻は変だった。だが今はいろいろなことがあったのであまり深く考えないようにするのだった。「……たくっ、ちゃんと覚えておきなさいよね。後、この自販機、お札は飲み込むわよ」「な、なんだってー!?俺の財布の全財産がぁ……」「ぜ、全財産!?いくら自販機に入れたのよ?」「……うっ!」上条は明らかに動揺した声を出した。美琴はさらに問い詰めることにした。「いくら入れたの?笑わないから、言ってみて」「……2千円」「は?」「2千円だー、ちくしょう!」「……く……あっははははははは!やめてよ、笑い死んじゃいそう!」美琴は笑わないといったが、上条の発言に耐えられなかった。「笑わねぇっていたのに……どうせ上条さんは不幸ですよー!」「ご、ごめん、ごめん。そんなに自暴自棄にならないでよ。2千円くらいなら貸してあげるわよ。なんなら飲み物も奢るわよ」「え?ホントですか御坂さん!」「う、うん。本当だからそんなに迫らないで」「あ、悪ぃ」上条に近づかれた美琴だったが、そんなに悪くは思わなかった。どうして悪く思わなかったかも、気にならなかった。それが上条へ対するある感情だと美琴はまだ気づいていない。――――――――――――――――――――――――――――――――自販機で飲み物を買った二人は近くのベンチまで行き座っていた。このとき自然と美琴は上条に近寄っていた。だが二人ともそんなことには気づかない。「2千円札なんてよくあったわねー。すっかり絶滅してるかと」「うるせぇ、これでも上条さんの全財産なんだぞ。絶滅したとか言うんじゃねぇ」「あーはいはい。2千円借りる相手にそいう態度なのね。もう要らないって事か」「すいませんでした、御坂さん!」上条はすぐさま土下座モードに移行した。そんな上条を、美琴はジュースを飲みながら楽しげに見ていた。「お姉様?」そこに美琴には聞きなれた、上条には聞いたこと無い声がかかった。美琴はその声の主に気づき、瞬時に固まった。「ん?誰だ?」上条は声の主のほうに向き当然である疑問をその人物に投げかけた。「あらあら、お姉様じゃありませんの。まぁ、こんなところで」「……無視か。ん?お姉様?お前、妹がいたのか!?」上条が驚いて美琴に聞くが、いまだに美琴は固まったままだった。「私は白井黒子と申します。お姉様の露払いをしていますの。どうぞ以後、お見知りおきを」白井と名乗った少女はいかにもお嬢様らしく、スカートの端をつまんで上条に一礼した。上条は、「なんだ妹じゃないのか」、などと呟き自分も名前を名乗った。「それにしても……まぁまぁ、最近帰りが遅いと思ったら、お姉様はこんなところで殿方と密会なさってるなんて。この方は彼氏なんでしょうか?」上条が彼氏というのを否定しようとしたら、いきなり美琴が目を見開き、顔を真っ赤にさせ、叫びだした。「あ、アンタは、こ、こいつが私のかかかかか彼氏に見えんのかァァあああああ!!」美琴は慌ててビリビリしながら否定をした。上条は電撃を見て驚いていたが、違うことが上条の気にかかり、「叫び声を上げて否定することは無いだろう」、と呟いていた。「おっほっほ。そうでしたか。ですがお姉様。密会はほどほどにしてくださいまし」「密会でもないわよ!!黒子ぉ!!」美琴は赤い顔で電撃を飛ばすが、白井は、「では」、と言い残し空間移動でその場からいなくなった。美琴はその赤い顔のまま、「か、彼氏……」、と呟いていた。もちろん、上条には聞こえていなかった。「お姉様?」そうこうしているところへ、また美琴をお姉様と呼ぶ声が美琴の後ろから入ってきた。上条は、「新手か!?」、とよくわからないことを言い、美琴のほうを見てみた。そこには美琴がいた。美琴が〝二人″いた。「ほ、本当に妹!?しかもそっくり双子さん!?」上条は現状が理解できていないようだった。「アンタ……なんでここにいるわけ?」美琴は極めて冷静にその〝妹"に質問した。だが上条に見えない美琴の顔には汗が流れていた。「ミサカは今、研修中です、とミサカは現在の自分の状況を説明します」上条は、「変なしゃべり方だな。しかも一人称が御坂って」、と一人何も理解できないままゴチていた。しかし、美琴はまったくそんなことはなかった。「そう。じゃあ、ちょろっと私に付き合ってもらおうかしら?ということで上条とはここでお別れね。さようなら」美琴の声は据わっていた。上条は美琴の様子がおかしいことはわかっていたが、なにも答えれなかった。「じゃあ、行くわよ。付いてきなさい」「いえ、ミサカにもスケジュールが……」「いいから」「来なさい」美琴はさっきとは違い明らかに怒気の混じった声で妹を黙らし、手を引っ張って、早足で上条から見えなくなるまで遠ざかった。「……なんだったんだ……?」結局、上条はなにもわからなかった。だが、上条はこの後、美琴の〝妹″がどんな存在かを知ることになる。 if.御坂美琴と上条当麻の会合[後編] 3 8月21日深夜御坂美琴は第7学区の大きい鉄橋の欄干に体を預けていた。先日、上条当麻と分かれた後、自分のクローンを連れて“実験”について問いただした。その結果、得られた情報は実験はまだ終わってないということだった。「……」その際、美琴はショックで一切言葉が出なかった。泣くこともできなかった。そして、美琴は決意した。(あの子達を助けるためには、自分が死ぬしかない)美琴自身が死ぬ。それによって『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の演算結果を狂わせてしまうことによって、実験を止めるのだ。自分が死ぬことによって妹達が助かるのなら本望だ、と美琴は考えていた。だが、「……誰か……助けてよ」泣いていた。そして助けを求めていた。そんなことを願っても助けは来ない。涙は止まらないし、嗚咽も漏れる。十分わかっていたが、美琴は願った。そして、最初に頭に映った顔はあのツンツン頭の少年だった。(そっか、私……でも、もう……)そして美琴が何かを悟ったときだった。「……助けてやる、助けてやるよ」ありえないはずの声が聞こえた。美琴はそちらに向くと、何も知らないはずの先ほど頭に浮かんだ少年が目の前にいた。「……どう、して?」美琴はあまりの驚きにそれしか口に出せなかった。少年、上条当麻はその問いに答える。「どうして、じゃねぇ。お前が救いを求めている。それを俺は成し遂げたいだけだ。だから俺は助けてやる。お前も御坂妹も、それが一方通行(アクセラレータ)であっても助けてやる」「どう、して……」疑問が口から出たがすぐに美琴にはわかった。そうだった、こいつはこういう奴だった、と。泣き崩れそうだった。いや、泣き崩れていた。「あいつの場所を教えてくれ」何もできないまま、上条に場所を教えた後、しばらくそこを動けなかった。――――――――――――――――――――――――――――――――8月22日昼過ぎとある名医のいる病院のとある病室の前。美琴は考え事をしていた。結果だけを述べると上条は学園都市第1位、一方通行(アクセラレータ)に勝利し、実験を中止させた。なぜ、上条が戦ったというと、無能力者である上条が一方通行(アクセラレータ)に勝つことで演算結果が誤りだということにし、実験を中止させることになるというものだった。(上条の考えである)だが、上条は体がぼろぼろになるまで戦い、妹達や美琴の協力があり、やっと倒せたのであった。そして美琴はそのぼろぼろになり入院した上条の病室の前にいるのだ。(伝えたいこと、聞きたいことがある)そう美琴には上条に対して言いたいことがある。まず、昨日気づいた気持ち。そしてなにより気になるのは一昨日の上条の自分に対する反応だった。(よし!)上条の病室前でわりと長い時間(長くなってしまったのは気づいた気持ちを告げるかどうか悶えていたため)考えていた美琴だが決意をすると病室のドアをノックした。中からどうぞ、と聞こえたので開けて入りながら第一声を発した。「ど、どう? 元気にしてる?お見舞い持ってきたけど」そう言う美琴は若干顔が赤かった。「ああ、御坂か。まぁ、元気ちゃ元気だ。麻酔切れて少し痛むけど」「ありがとう、妹達のこと」「気にすんなって。俺がやりたくてやったことなんだし」「そう……」実験を止めたことのお礼を言うと美琴は早速切り出した。「あのさ……聞いてほしいことがあるんだけど」「ん? なんだ? 上条さんは何でも聞きますよ」上条はあまり心構えなどはしていない様子だった。それを見ながら美琴は、「……わ、私、アンタが、上条当麻が好きなの……」「へ? それはどういう――――」「もうちょっと続きがあるから黙っててくれる?」「……」赤い顔で告白をした美琴。上条は間抜けた声を出した。だが、美琴の次の言葉に真剣身を帯びていることに気づき黙る。「こんなのを言い訳にするのも自分でどうかと思ってるんだけどさ。やっぱりアンタのこと好きだからアンタの事を知りたいの」「……」「……アンタ、もしかして記憶喪失じゃない?」「――――ッ!?」そこで、上条は美琴が今まで見たこと無い顔をした。やはり、と美琴は思った。上条当麻は記憶喪失なのだ。「……やっぱり。自販機の前で久しぶりに会ったときの上条は何かおかしかった」「ああ、……俺は今、記憶喪失、正確には記憶破壊って言うらしい。もう記憶が戻ることは無いかもしれない。だから俺は“前”の自分を演じてる。」上条の言葉は何か悲しさを帯びていた。美琴は黙って聞いていた。「お前と初めて出会ったときは少し気が抜けてたかなぁ。すぐに知り合いと分かれば隠し通していたんだけど……」そう一人で語る上条は後ろめたさがある感じだった。まだ美琴は何もリアクションを起こさない。「それで、さっきの話だ。いいのか? 俺はお前の知る“前の上条当麻”じゃないんだ。それでも俺のことを――――んぐっ!?」話続けていた上条の口が止まった。美琴がリアクションを起こした。上条の唇を美琴自身の唇で塞いだからだ。「ばか!そんなこと言わないでよ!私の好きな上条当麻は目の前にいる上条当麻。それだけでいいのよ!前とか今とか言わないでよ!アンタは……アンタなんだから……」「……」泣いていた。美琴は泣いていた。それを見ている上条はすごく申し訳ない気持ちで一杯になっていた。「ごめん。お前の気持ちも考えてやれてなくて。そして、ありがとな」「……ばか……ごめんは余計でしょう」二人は見つめあう。「そうか。じゃあ……ありがとな、“美琴”」「どういたしまして、“当麻”」そして、お互いの唇を重ね合わせた。その瞬間の美琴の顔は涙で濡れていたが、実験が続いてた時では信じられないような、とても幸せそうな表情だった。 ☆おまけ☆「ところでさ……」美琴は見舞いに持ってきたりんごを切りながら上条に話しかけた。「なんだ?」「私たちってこ、恋人になったんだよね?」顔を赤くしながら言う美琴。「そうだな。俺は拒否しないぞ?」「よかった……。でさ当麻は実験を知ってたってことは私の部屋に入ったわけよね?」「え?な、なんのことでせう?」上条はあきらかに動揺しきった声を出した。「ほうほう。この彼氏は彼女に嘘をつくんだー。じゃあ、私も嘘付いて引っ張りまわそうかなぁ?」「すいませんでしたー!」上条は怪我の痛さも感じさせないほど、綺麗な土下座をベットの上でして見せた。「まぁ、いいんだけどさ。そ、そのかわりさ、今度デート連れてってよ。アンタが内容考えてさ」「ん?それでいいのか?それならこの上条さんに任せなさい?」(や、やったー!)さりげないデートの取り付けに奥手の美琴さんは喜んでいたとか。
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切れた糸を繋いで 3 番外編 待ち望んでいた彼女との初デートの日だというのに、上条当麻の表情は冴えなかった。彼は今、デートの待ち合わせ場所に向かっている。待ち合わせの時間は14時であり、現在は10時、明らかに早すぎるのだがこれにはわけがあった。一つは、彼が自分が「不幸」だということをよく知っていること。急いでいるときに限って、不良に襲われている女の子を発見してしまったり、野良犬の尻尾を踏んでしまって追いかけられたりする。そのため数時間の余裕を持って出発しても全く安心できない。「はあ……予想していたこととはいえ、今日ばっかりはさすがにこたえるな……」そしていつも通りの不幸な出来事をにより、すでに1時間も無駄に費やしている。これ以上何も起きませんように。そう願っている彼の目の前で、女の子が不良に絡まれていた。その後、もろもろの出来事によりたっぷりと1時間かけ、上条は待ち合わせ場所にたどり着いた。そして、時間を確認して、待ち合わせに遅れなかったことに安堵する。「なんだよ、まだ3時間もあるじゃねーか」さすがに早すぎたかと思い、どこか別に場所で時間をつぶそうかと一瞬考える。しかし、そのまま日ごろの経験から予測すると、そのまま帰ってこれなくなる可能性が高い。やはりこの場所で待っているのが最善だろう。「まあ、たまにはじっと待つってのも悪くないか……」あと3時間で、彼女と会うことができる。そう思うだけで上条の心は不思議なほどに晴れやかになっていった。「早く御坂こねーかなー」ベンチに腰掛けながら、上条はこれからのことを想像していた。出発時間が早すぎた最大の理由。彼は、デートが楽しみのあまり、いてもたってもいられなくなっていたのだ。常盤台中学の制服をきた少女が上機嫌で歩いている。彼女、御坂美琴は念願叶って上条当麻の恋人になることができた。そして今日は待ちに待った(正式な、という意味での)初デートの日である。彼女は期待を膨らませつつ、待ち合わせ場所の公園へと歩いていた。公園にたどり着いたのは、待ち合わせより1時間も早かったのだが、上条は既に来ていた。(え、アイツもう来てるんだ……)遅刻をされた罰ゲームのときとの違いに、美琴は軽く感動すら覚えた。思わず彼に駆け寄ろうとしたところで、ふと考え込む。(あれ、どうやって話しかけたらいいかわからなくなってきた…… やっぱり、こ、恋人なんだし、あの時みたいに「待ったー?」ってやるのがいいのかな……)足を止めて考えこんでいると、上条が美琴を見つけて声をかけてくる。「お、おう御坂……もう来たのか」上条の様子はどことなくぎこちない。しかし、美琴の方はそれ以上だった。完全に体が固まってしまっている。「う、うん……」(な、なんなのよこれ。アイツの声聞いただけでなんでこんなに緊張してるのよ私。 コイツが彼氏になったからっていっても、いままで通りにすればいいだけなのに…… ああ、彼氏かあ……コイツが、彼氏……)「ふにゃー」「いきなりかあぁぁぁ!」上条は悲鳴を上げるとともに、盛大に電気を漏らし始めた彼女の元に突撃した。漏電により意識を失っていた美琴が目を覚ましたとき、視界いっぱいに上条の顔が広がっていた。心配そうに美琴を見つめる上条と視線がぶつかる。「わわっ」「お、落ち着け」上条の静止によって少しだけ落ち着いた美琴は、冷静に状況を把握しようとする。どうやら自分はどこかで横になっているようだ。周囲には公園の景色が見えるので、おそらく公園のベンチに寝かされたのだろう。そして頭の下に枕の様なものがあり、すぐ近くに上条がいる。これらのことが指し示す事態は……(膝枕されてる……)美琴の顔が一瞬にして真っ赤に染まる。「御坂、大丈夫か?」上条が心配そうに聞いてくる。「う、うん。大丈夫……ちょっと、緊張しちゃったみたい……」「はは、緊張してるのは俺も同じだよ。何せ人生初のこ、恋人とのデートだからな」「あ……」そう、今日はデートの日だった。名残惜しいが、いつまでも膝枕をされているわけにもいかない。美琴はそう思って体を起こした。「あ、あはは。いきなりごめんね」「き、気にすんなって。こんなのも2回目だし、慣れてきたから」「う……こんなのに慣れられるってのも悲しいわね……」「「……」」会話が途切れてしまった。美琴が上条の表情を見ると、目をそらして頬をかいていた。どうやらコイツも少しは緊張しているらしい。無言の空間に堪えられずに、何か話題になるものがないかと探す。「そ、そういえば、アンタ、ここにくるの早かったじゃない、いつごろからいたの?」「あんまり覚えてねえけど、2時間くらい前かな」上条の答えは予想を超えたものだった「に、2時間!? いくらなんでも早すぎるわよ!」「早めに出とかないと、だいたい道の途中で何か妨害が入るからなぁ……」遠い目をする上条。その様子がおかしくて、美琴は吹き出してしまう。「わ、笑うなよ。俺だって遅刻しないように必死だったんだぜ」「ぷくく……ごめん。なんかアンタらしいなって思っちゃって」「否定できないのが辛い……」笑うと同時に、体が軽くなるのを美琴は感じていた。結局、恋人同士になったといってもコイツは変わっていない。当たり前のことだけれども、それを実感することで安心できた。「ところで、いきなりで悪いんだが……軽く昼飯でいいか? ずっとここにいたから腹減っちまった」美琴は一瞬キョトンとして。「あはは、そりゃそうよね。ずっとここにいたら昼ご飯どころじゃないもんね。 じゃあ行きましょ。おいしいお店を紹介してあげる」満面の笑顔を作り、上条の手を取って歩き出した。昼食の後、二人はショッピングセンターに来ていた。この場所は前に携帯電話のペア契約を結んだ場所でもあり、美琴はその当時のことを思い出していた。「そういえば、前にアンタここで妹にネックレスを買ってたわよね」そう言って、美琴は少し不機嫌そうな顔をした。「あー、そういやそんなこともあったなあ」「私の罰ゲームの最中だったのに」「あー……悪ぃな。今にして思えば無神経だった」「本当に悪いと思ってる?」「ああ」「じゃ、じゃあさ……」美琴は少しためらった後「お詫びってことで、私にも何か買って欲しいかなぁ……なんて、ダメ?」不安げな表情を浮かべて、少し上目遣いになりながら上条を見つめる。(ぐはっ、その表情は反則だろ……)美琴のおねだりに一発で撃沈する上条。「あ、ああ。俺に買えるものだったら、いいぞ」「ホント?」「ああ」「ありがと。えへへ」美琴は満面の笑みを浮かべる。上条は美琴を見ながら、この顔が見られるなら今月はもう米と塩だけでいいや……、などと恐ろしいことを考えていた。「それで、何が欲しいんだ?」「うーん、と、当麻が選んでくれたものなら、何だっていいかな」「そんなこと言ってると、かなり安めのものになっちまうぞ?」「値段の問題じゃないのよ、当麻が選んでくれたものがいいの」そう言われて、上条は考え込んだ。安いものでなおかつ美琴を喜ばせることができれば、今月の食費は無事に済むかもしれない。しかしあまりにも安すぎても彼氏として格好がつかない。上手い具合にいいラインを探る必要がある。少しばかり計算をした結果、まずプレゼントの予算が決まった。二千円までなら今月をしのげる。これで何を買おうかと、周囲を物色すると、アクセサリー売り場が目に留まった。(そういえば、御坂妹はあのとき指輪を欲しがってたような…… 姉妹なんだし好みも似てるって可能性もあるよな、シンプルなやつなら値段的にも問題ないな、よし)「御坂、あのへんの指輪とかどうだ?」「ゆ、指輪!?」「……あれ、嫌だったか?」「嫌じゃない!」思いっきり叫んでしまったことに気付いて赤くなる美琴。上条は美琴の勢いに一瞬驚いていたが、すぐに気を取り直し、指輪を選び始めた。「綺麗な装飾とかがあるやつはちょっと値段的に厳しいから…… こんなのとかどうかな。御坂、ちょっとサイズ測りたいから指貸してくれ」美琴は嬉しさと恥ずかしさのあまり、何も言うことができず、おずおずと左手を上条に差し出した。すると、上条は手に取った指輪を美琴の薬指にはめた。(く、薬指にって! これってつまり……)うろたえる美琴をよそに、サイズがあっていることに満足する上条。「お、ピッタリだな。御坂、これでいいか?」美琴は顔を真っ赤にしながら、黙って小さく頷くことしかできなかった。「ね、ねえ」店を出た後、美琴は上条に尋ねた。「どうして指輪を選んだの?」「ああ、それは……」前に御坂妹が欲しそうにしてたから。という言葉を上条は途中で飲み込んだ。言ってしまえばおそらくはいい結果にはならない気がしたからだった。「それは……なんとなく、御坂が喜んでくれるんじゃないかと思ったからかな」嘘は言っていないと自分に言い聞かせる上条だが、後ろめたいものがあったのか、視線を美琴からそらしていた。しかし、美琴は上条のそんな様子には気付かず、左手の薬指にはめている指輪を愛おしそうに眺めていた。「うん、すっごい嬉しい……ずっと、ずっと大切にするからね」「そんなに喜んでもらえたなら、上条さんも食費を切り詰めた甲斐がありましたよ」なんとなく気恥ずかしくなって、軽口を叩く上条。「へー、たったの二千円でそこまで変わるんだ。ちょっと信じられないわね」「貧乏学生をなめんなよー」お互いに冗談を言って、笑いあう。そこにはもはや、デート当初のぎこちなさは存在しなかった。その後、二人はファミレスで夕食を済ませた後、展望台へと足を向けた。上条いわく、今日の本番はここだから期待していろ、とのこと。展望台は、高さ300メートルの場所に作られており、学園都市の全景が見渡すことができるようになっていた。この時点で日はすっかり落ちており、外には幻想的な夜景が作られていた。「綺麗ね……」「あ、ああ。そうだな……」微妙に歯切れの悪い上条の答え方に疑問を持つ美琴「どうかしたの?」少しの間を置いたあと、上条は何かを決心し口を開く。「お、お前の方が綺麗だよ」一瞬、キョトンとしていた美琴だったが、すぐに顔が赤く染まる。「ば、馬鹿。そういうことはもっと自然に言わないとダメなのよ」美琴はそう言って顔を背けたが、内心ではかなり嬉しいようで口元は緩んでいた。「なんつーか、こういうやりとりはお約束だー、ってわかってても、やっぱり言うのは恥ずかしいもんだな」「でも、無理して言われても、う、嬉しくなんかないわよ?」「そうか、その割にはにやけてるように見えるけど」「き、気のせいよ!」意地をはる美琴に苦笑する上条。「悪ぃな。次からはもっと自然に言うから。ああそうだ、ずっと立ってたから疲れただろ? あそこに座ろうぜ」二人は近くの椅子に腰を下ろす。そこで、上条は美琴がチラチラと、ある方向を見つめていることに気付いた。「どうした御坂?」美琴の視線の先を追うと、そこにはカップルがいた。そして、その女性の方が男性の膝の上に乗って抱き合っていた。「御坂……お前まさか」「な、何でもないわよ!」「あれがやりたいんじゃないのか?」「ち、ちが……あんな恥ずかしいこと、できるわけ無い……」美琴はだんだん小声になっていき、うつむいてしまう。「しょうがねえな、よっと」「きゃっ」上条はいったん美琴を抱え、上条から見て横を向くような体制にして膝の上に乗せた。そして右手を使い、背中を支えるように腕を回して抱きしめた。「俺がやりたかったということで」顔を若干赤く染め、目をそらしながら言う上条。「あ、アンタ、急に積極的になったわね」「御坂はこういうの嫌か?」「う……べ、別に、嫌じゃ……ないわよ……」美琴はそう言って、上条に身を預けた。二人とも緊張していたため体が固くなっていたが、しばらくすると落ち着いてきて自然な状態に戻っていた。「ちなみに御坂、夜景もいいんだけど、ここはもっといいものが見れるぞ」「へえ、何が見れるの?」「それは見てのお楽しみだ。お、もうそろそろかな」上条が時間を確認していると、急に展望台の中が暗くなった。ただし展望台内の灯りが消えたのではなく、外側、つまり学園都市が発する光が消えていた。そして、二人の頭上には満点の星空が輝いていた。「わあ……」「詳しいことはわからないけどさ、一定の時刻にだけ、空中に浮いてる機械が、下からの光を全部遮るようにしてるらしいんだ。 あと他にもいろいろとやってるみたいだけど、細かいことはわかんねえや」「そうなんだ……」「綺麗な空だな」「うん……」美琴はずっと星空に見入っていた。上条は星空と美琴を交互に見ていた。「前にさ」先に沈黙を破ったのは上条だった。「俺の看病をしてくれてたとき、お前の小さいときの話をしてただろ。 超能力者になったら、空一面の星空が作れるかもしれないって思ってたって」「あ、覚えてたんだ」「ああ、だから、綺麗な星空が見れたらお前が喜ぶんじゃないかって思ってさ」「……うん、嬉しい」美琴は上条に身を預けながら言葉を続ける。「こんなに綺麗な星空が見れたのも嬉しいけど」視線を下ろし、上条を見つめながら。「でも、当麻と一緒にこうやっていられることが一番嬉しい」「御坂……」「ねえ」「ん」「私のこと、「美琴」って呼んで欲しいな…… ずっと、当麻のこと「当麻」って呼びたかったし、当麻には「美琴」って呼んで欲しかったの。 私達、恋人でしょ、だから……」「わ、わかった」上条は一度深呼吸をし、美琴の瞳を真っ直ぐに見つめながら、彼女の名前を呼んだ。「美琴」上条が美琴の名前を呼んだ途端、美琴は顔を真っ赤にして、上条の胸に頭を押し付けた。「それじゃ星が見えねえぞ?」「いいの……今は、こうしていたい……」上条は何も言わず、美琴の頭を撫でた。「ふにゅ……」「たまに猫みたいな声出すよな、お前」「知らないわよ……そんなの……」美琴はそのまま上条に身を預けていたが、やがて頭を上げ、上条をじっと見つめた。上条は黙って美琴を抱きしめる腕の力を強めた。「当麻、好き。大好き」「俺も、好きだよ。美琴」美琴はそっと目を閉じる。上条の右手が美琴の肩をそっと掴む。2人の距離が近づいていく。「ずっと、一緒にいような」そして二人は唇が軽く触れ合う程度の、優しいキスを交わした。帰り道、二人は手をつないで歩いていた。美琴の寮の門限まであまり余裕は無いのだが、少しでも一緒にいられる時間を長くしたいためか、二人の歩くペースはとてもゆったりとしていた。「当麻、今日はありがとう。とっても楽しかった」「喜んでいただけたなら上条さんも光栄ですよ。これで、前の借りは少しは返せたかな」「告白のときのこと? 今はこうやって一緒にいれるんだから、あんなの気にしなくていいのに」「あんな情けない告白の受け方して、気にしないほうが無理だっての。 俺たちがこうしていれるのも、全部美琴が頑張ってくれたからだしな。」「こうやって一緒にいてくれるだけで、私は幸せよ?」「俺だってそうだよ。でもそれだけじゃ納得できないんだよ。 ま、これからは上条さんが全力でもっともっと幸せになれるようにしてやるからな。期待して待ってろ」「ふふっ、じゃあすっごい期待しとくね」美琴がふと空を見上げると、流れ星が見えた。「あ、流れ星」「ん、どこだ?」「もう消えちゃった」「そっか、残念だな」「当麻は何か願い事あった?」「んー、そうだな。ずっと美琴と一緒にいれますように、かな」「じゃあ大丈夫ね、それは私が願っておいたから」「そっか」「そうよ」二人して笑いあう。そうして、二人はゆっくりと、同じ道を歩いていった。これからは、もう離れることは無いようにと願いながら。END
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とある鈍感の疑似恋愛【ギャルゲープレイ】 アレイスター『突然呼び出してすまない。実は君に頼みたい事がある。 学園都市発展の為に、実験サンプルになってもらいたい。 なに、そう心配しなくても危険な事はしないさ。ただ簡単なゲームをしてもらうだけでいい。 ルールも単純だ。九人の女性の中から一人を選び、その人物と恋仲になってもらう。それだけだ。 やってくれるかね?』上条 ⇒1:ああ、いいぜ 2:ふざけんな! その幻想をぶち―――アレイスター『協力感謝する。ではさっそくだが、これから恋人となるパートナーを選びたまえ』 1:インデックス 『所詮とうまはとうまなんだね……』 ⇒2:御坂美琴 『わわ、私!!? どど、どうしてもって言うなら、その…こ、ここ恋…人になってあげてもいいけど!?』 3:姫神秋沙 『……分かってた。私の扱いなんて。いつもこんなものだから』 4:風斬氷華 『そうですよね…私みたいな化け物じゃ、やっぱり嫌ですもんね……』 5:御坂妹 『やはりミサカは使い捨ての消耗品なのですね、とミサカは皮肉を言います』 6:神裂火織 『………ド素人が………』 7:五和 『夢…そうこれは夢…ただの悪夢です…きっとそうに違いありませんよね…は…ははは…』 8:オルソラ 『お選びになる前に、まずはお茶でもいかがでございますか?』 9:鈴科百合子 『くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけここくかくきくこく くけくかきくこけくけくきくきこきかかか―――ッ!!』アレイスター『なるほど、超電磁砲を選ぶか。ふむ、それもまた面白い。 せいぜい好感度を上げて、HAPPY ENDを目指してくれたまえ。 …これで私の計画【プラン】も……ふ。ふふ』 アレイスター上条『あ~…日曜の朝って気分いいな。 いい天気だし、こんな日は』 ⇒1:適当に街でもぶらつくか 2:たまには勉強でもするか 3:さ、二度寝二度寝上条『とは言ったものの、目的も無く一人でプラプラするのもなぁ……』 ⇒1:誰かと会わないかな 2:…美琴に会いたいな…… 3:ま、いっか美琴『ちょ、ちょろっとアンタ~?』上条『(おっ? この声は……)』 1:よう、ビリビリ ⇒2:おす、美琴 3:やあハニー、今日も可愛いね 4:……誰だコイツ? 5:[行動]スルー美琴『おす。てかアンタ今日ヒマ?ヒマよね?ヒマって言いなさい!』上条 ⇒1:まぁ、ヒマだな 2:逆にヒマじゃない美琴『!!! じゃ、じゃあさ! たまたま友達からチケット2枚貰ったんだけど、 き、期限が今日までだし、捨てるのも勿体無いし……だ、だから…その……アンタと……』上条 ⇒1:何で俺なんだ? 白井は? 2:マジか!? ラッキー! 3:「アンタと」の後の言葉が聞きたいのですが…… 4:え~…超めんどくせ~……美琴『く、黒子は風紀委員の仕事で忙しいのよ!! ほら、行くの!?行かないの!?』上条『う~ん……』 1:映画のチケットか…これ観たかったんだよな 2:動物園のチケットか…そういや行ったこと無いな ⇒3:遊園地のチケットか…面白そうだな 4:ゲ、ゲコ太ショーのチケットか…この歳だとかなり勇気がいるな 5:呪いの蝋人形館のチケット……ひ、人にはいろんな趣味があるよな…?美琴『で、でしょ!!? もちろん行くわよね!!」上条 1:もちろん行きますとも! ⇒2:つーか本当に俺でいいのか? 3:美琴とだったら、どこにでも行くよ 4:なァンてなァァ!! 本当にそンな事言うと思ったかァ!? 残念だったなァ三下ァァァ!!!美琴『ど、どういう意味よ…?』上条 ⇒1:知り合いに見られたら勘違いされるんじゃねぇか? 2:本当は好きな人と行きたいんだろ? 3:デートなんて、上条さん初めてなもので 4:俺エスコートなんて自信ねぇよ…… 5:私と行っても。多分。楽しくないと思う美琴『か、か、か、勘違いって何をよ!! べべ別にこんなの普通でしょ!? 考えすぎなのよ馬鹿!!』上条 ⇒1:そんなもんなのか? ならいっか 2:いやいや、男女で歩いてればそういう風に見られるだろ 3:まぁむしろ、勘違いされた方が俺的には嬉しいけどな 4:異教徒ごときに馬鹿呼ばわりされるなんて、心外なんですがねー美琴『そういうものなの! ほら行くわよ!?』上条 1:うし! せっかくだから楽しむか!! ⇒2:なんか…不幸の予感…… 上条『着いたー! …けど…』 1:めちゃくちゃ広いな 2:すげぇ狭いな ⇒3:混んでるなー…… 4:人少なくね? 5:来るまでに大分時間食ったな美琴『まぁ、日曜日だし…これくらいは仕方ないんじゃない?』上条『(けど、こんだけ人が多いとはぐれそうだな……よし!)』 1:美琴、俺の後にしっかりついて来いよ ⇒2:手でも繋ぐか 3:まずはリードと首輪を買おう 4:こりゃ別行動の方がいいンじゃねェかァ? 楽しみにしてたのに残念だったなァ三下ァァァ!!!美琴『なっ!!? きゅ、急に何なのよ!!』上条 ⇒1:迷子になったら困るだろ 2:美琴の手の温もりを感じたい…… 3:第一の回答ですが、恋人だからです 4:遊園地ではヒーローと握手をするもんだろ美琴『こ、子供じゃないん…だから……でも…アンタがしたいんなら…別に……』上条 1:そりゃそうだよな。子供じゃあるまいし 2:俺がしたいんならいいんだな? 3:嫌ならいいですよ…… ⇒4:いや…中学生は子供だろ美琴『こ、子供じゃいないわよ!! てかアンタと2歳しか違わないじゃない!!』上条 ⇒1:わ、悪かったよ。 じゃあいいよ、手は繋がなくて 2:そうだとしても、高校生と中学生では大きな壁があるのですよ 3:何言ってんだ! むしろ胸のサイズは小学生並みじゃねぇか!!美琴『……それと…これとは…話が別じゃない……』上条 1:どっちだよ! ⇒2:あ~も~! 面倒くさいから繋ぐ!! 3:あ~も~! 面倒くさいから繋がない!! 4:あ~も~! いっそのこと抱っこしちまえ!!美琴『ひゃう!!?』上条 ⇒1:文句なら後で聞くから、とりあえず今は我慢しとけ 2:ふっふっふ…これでもうミコっちゃんは、上条さんから逃げる事ができなくなった訳ですよ 3:[行動]にぎにぎする美琴『ままままぁ今だけの我慢ならべべべ別にいいかな!!?』上条『よし! じゃあさっそく回るか! まずは』 ⇒1:遊園地の花形、ジェットコースターだな! 2:定番と言えばこれ、メリーゴーランド! 3:回しすぎに注意、コーヒーカップ! 4:「キャー!」とか言って抱きつかれたい、お化け屋敷! 5:コンマ数秒の戦い、ゴーカート!美琴『やっぱりそうよね! 遊園地に来たらこれに乗らなきゃ!!』 ―――――20分後―――――美琴『アンタねぇ…あれだけ意気揚々と乗り込んで、何で酔ってんのよ……』上条 1:さ、さすがは学園都市製……ジェットコースターにジャイロ回転を加えるとは…… 2:か、川の向こうで一万人以上のミサカが手招きしてるのが見えた…… ⇒3:な、何で美琴はケロッとしてんだ!? 4:[行動]吐く美琴『あんなのテレポート酔いに比べたら、どうってことないわよ』上条 1:俺経験できないけど、そんなにすごいのか…テレポートって…… 2:うぅ…次は絶叫系以外のに乗ろうな…… ⇒3:ちょっと…休もうぜ…… 4:[行動]吐く美琴『ったく、だらしないわね。 ま、仕方ない。何かジュースでも買ってきてあげるわよ』上条 ⇒1:すまん、助かる…… 2:悪いな…… 3:できればスポーツドリンクで…… 4:ここで「きなこ練乳」とか、そういうボケいらねぇからな…… 5:[行動]吐く美琴『別にいいってば』 美琴『どう? 大分落ち着いた?』上条 1:あぁ、すっかり良くなったよ。 ありがとな ⇒2:うん、美琴の買ってきてくれたジュースが効いたのかもな 3:う~ん…もうちょいかかりそう…… 4:美琴がキスしてくれたら治る 5:僕を誰だと思っている? こんなのは治すうちに入らないんだね?美琴『そっか、良かった』上条 1:ホント悪い、せっかくのデートだったのに…… 2:けど、何でそこまで心配してくれるんだ? 3:じゃあ気を取り直して、次は何乗る? 4:さてと、そろそろメシでも食うか? ⇒5:ん? 誰かこっちに手を振ってないか?美琴『ホントだ…誰かしら?』上条『アレは……』 1:ウチのクラスメイトだ ⇒2:美琴の友達かな? 3:一方通行達か 4:浜面達だな 5:か、神の右席!!?佐天『おーい!御坂さーん!!』初春『だ、駄目ですよ佐天さん!! せっかくのデート邪魔しちゃ!!』美琴『い、いや! 違うの!! コイツはそういうのとかじゃなくて!!!』佐天『隠さなくたっていいですって!! こちらがウワサの彼氏さんなんですよね!?』美琴『だ、だから、本当に違うんだってば!! ア、アンタも何か言いなさいよ!!』上条 1:ほら、やっぱり誤解されちまったじゃねぇか…… ⇒2:えっ!?美琴って彼氏いたの!? 3:違くないだろ。俺達付き合ってるんだから 4:彼氏っつーか…むしろ夫? 5:ふざけンじゃねェェェ!!! 俺は12歳以下にしか興味無ェンだよ!! 誰がこンなババァと付き合うか!!佐天 初春『『……はい!?』』美琴『……二人とも分かったでしょ…? コイツはこういうヤツなのよ………』初春『な、なるはど…手ごわいですね……』佐天『大丈夫ですよ! ここの一番人気って実は観覧車なんですけど、何でだか分かりますか!?』美琴『えっ…知らないけど……』佐天『実はですね…ここの観覧車でてっぺんまで来た時、 夕日をバックに告白すると、両想いになれるって都市伝説があるんですよ!!』美琴『!!!』佐天『モタモタしてていいんですか? そろそろ夕暮れですよ?』美琴『ちょ、ちょっと急用思い出した!! 佐天さん、初春さん、また後でね!?』佐天『かわええのう……』初春『ほっこりしますね……』 美琴『ね、ねぇ! そろそろ帰る時間だし、最後に観覧車乗らない!? これなら激しくないし、アンタでも大丈夫でしょ!?』上条 ⇒1:うん、まぁ、それなら平気かな 2:お、お、おう!(て、てかさっきの話聞こえてたんだが……まさか美琴が俺を!? いやいやまさかな……) 3:いや~でも…何かすげぇ混んでるぞ…… 4:うわ~い!観覧車って一度乗ってみたかったの!ってミサカはミサカははしゃいでみたり!!美琴『…結構混んでるわね……夕暮れまでに間に合うかしら………』上条 1:夕暮れまで? ああ、さっき聞いた都市伝説のことか 2:夕暮れまで? ああ、門限があるんだよな 3:本当に混んでるな……何分待ちだ? ⇒4:本当に混んでるな……けどもう、列の真ん中辺りだから、トイレにも行けないな 5:[行動]手を繋ぐ美琴『……トイレくらい我慢しなさいよ……こっちはそれどころじゃないってのに………』上条 ⇒1:あと何人くらいだ? 2:こ、こっちだって…その…き、緊張してんだよ…… 3:無理!限界!ちょトイレ行ってくる!!美琴『あと一人…いや、つ、次ね……』上条『やっと順番が来たか』 1:[行動]とりあえず先に乗る 2:[行動]美琴をエスコートして後に乗る ⇒3:[行動]仲良く同時に乗る 4:[行動]乗らない 5:[行動]トイレに行く美琴『の、の、乗っちゃったわね……』上条 1:おお~! どんどん景色が小さくなってくな! 2:そ、そうですね…… ⇒3:さすがにコレを降りたら終わりだよな……今日は楽しかったよ、美琴 4:…このまま時間が止まっちまえばいいのにな……美琴『ううん! 私の方こそありがとう! と、と、当……麻………』上条 1:礼を言うのは俺の方だって 2:今、何て……? 3:きゅ、急にそう呼ばれると照れるな…… ⇒4:……………美琴『な、なにか言いなさいよ!!』上条 ⇒1:ごめん、あまりにも綺麗だったから…… 2:わわわ悪い!! ちょっと見惚れて…い、いや!何でもない!! 3:……………美琴『…え………』上条 ⇒1:あっ!ゆ、夕日! 夕日が綺麗だって話な!? 2:だから…美琴が綺麗だって…言ったんだよ…… 3:[行動]無言でキスをする 4:だからンな事言う訳無ェつってンだろ!! 何回騙されれば気が済むンだ三下ァァァ!!?美琴『そそそそうよね!! 夕日よね!! あははは!…はは…… ………ね、ねぇ……頂上に着いたら……大事な…話があるの………』上条 ⇒1:いや、俺に言わせてくれ 2:…分かった美琴『………うん………』上条『俺は―――』 1:美琴のことが…好きだ!!! 2:お前を絶対幸せにするって約束する!! だ、だから…… 3:これからもずっと……例え爺さんになっても、隣には美琴にいてほしい…なんて思ってる 4:こんな気持ちになったの…初めてなんだ…… 5:美琴に迷惑をかけたくない……けど、抑えきれないんだ…どうしようもなく…美琴のことが…好き…なんだ…… 6:[行動]じっと目を見つめる 7:[行動]そっと抱き寄せる 8:[行動]ゆっくりと口づけを交わす ⇒9:ジュース飲みすぎたのかな…マジでトイレ限界なんだけど、あと何分くらいで降りられるんだっけ?美琴『知らねぇよ!!!!!!!!!!』 GAME OVERアレイスター『…失敗か………また私の計画【プラン】に誤差が………』
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こぼれ話 大覇星祭こぼれ話 Ⅵ 美琴「いやぁ。ツイにⅥですヨ。食蜂サン☆」 食蜂「デスよねぇー。今回はぁ、上条さんと御坂さんの絡みよりも私たちのぉ絡み、っていうかぁ、仲の良い所を披露するんだゾ☆」 上条「何そのぎこちない前セツ。とってもわざとらしくてドン引きなんだがぁぁぁああああっ!!」 寮監「ふむ。確かに仲が良さげだな。そこの少年が何を言いかけたかは分からんがクロスボンバーは息が合ってないとできない大技だ。しかも御坂の電磁力が食蜂の腕の貴金属を引き付けていたから完全に元ネタを再現している。首が飛ばなくて良かったな少年よ」 上条「……げ、げほ……あ、あのなぁお前ら……って(ええっと、どうして二人して睨みつけてきてるのでせう?)」 美琴「(このど馬鹿! アンタは寮監の恐ろしさを知らないんだろうけど、不幸な目に会いたくなかったら、今回は不用意な発言は一切、慎みなさいよ。いいわね?)」 食蜂「(上条さぁん? 本気力で御坂さんの言うとおりだからねぇ? じゃないとぉ、私も本気力で許さないからぁ)」 上条「(お、おう……てか、お前らレベル5だろ? なのにあの人が怖いのか?)」 美琴「……レベルの差が絶対的な戦力の差だなんて思わないでよね……」 食蜂「……寮監様はぁ、能力値なんて超越したところにいる、ある意味『絶対能力者』なのよぉ……」 寮監「ほほぉ。御坂と食蜂。なかなか良いことを言うじゃないか」 美琴「え、ええ。モチロンですとも!」 上条「ほへぇ。すげえなアンタ。御坂と食蜂がアンタの前だと借りてきた猫のようにおとなしくなるなんでっ――!」ごきっ 食蜂「あちゃぁ~~~寮監の得意技、首ひねりなんだゾ……」 美琴「はぁ。不用意な発言は慎めって教えてあげたのに……」 寮監「少年よ。お前は学生なのだろ? 大人の私を『アンタ』呼ばわりの上にタメ口とは礼儀がなってないぞ?」 上条「……は、はい~~~! ええっと、でも俺は貴女様のことを何と呼べばいいのでせう?」 寮監「そうだな。私にはまだ本名設定されていないから――『寮監』で構わん」 上条「わ、分かりましたっ!!」 寮監「ふむ。良い返事だ」 「初春ちゃんっ」 「美鈴さん!」 美琴「私の記憶は消去しても、私のママの事は覚えてんのね」 食蜂「ま、あくまでも改竄したのは御坂さん本人に関する記憶だけだしねぇ」 寮監「御坂のお母上は随分と若々しいな。失礼だが、おいくつなんだ?」 美琴「え? …3x歳ですけど」 寮監「そうか。つまり私と同い年の時には、すでにご結婚もなされて御坂も産んでいたのだな」 美琴「え、ええ。まぁ」 寮監「そうか。………そうか…」 上条「ものすげー、遠い目をしてるな」 「いやだから「かもしれない」だってば 常盤台には記憶を操る能力者がいるんでしょ?」 食蜂「むぅ…意外とこの子、敏感力が高いわねぇ。侮れないわぁ」 美琴「佐天さんって、何気なく言った一言が後々伏線になる時が多いからね」 寮監「ふむ。敏感で危機察知能力が高いと言う所は、少年、君に近いかも知れんな」 美琴&食蜂((敏感に察知してくれるのは、乙女心以外の部分だけどねぇ…)) 上条「え? 俺の事、知ってるんですか?」 寮監「『噂』はよく耳に入ってくる。特に寮での食事中、御坂から君の名が出ない日は無いくらいに―――」 美琴「なあああああああんっ!!!///」 「『妹達』と呼ばれる美琴ちゃんのクローン。一体ドコに隠してるのかな?」 上条「なんだと……?」 食蜂「わぁお。上条さんったらぁ、急に男の顔になっちゃったぁ」 美琴「過去の映像にそこまで怒りを感じられるって凄いわね。まあ私もちょっとむかついたけど」 上条「いや……まあそうだが……」 寮監「……」 「『絶対能力進化』計画をアナタが妨害していたのはとっくに調査済み。計画破綻後、『妹達』がどうなったか知らないわけないわよねっ。学園都市内に残ったクローン、どこに匿ってるのかなっ? 暗部の情報網をフル回転してるっていうのに『妹達』を探ると必ず途中で手掛かりが切れちゃう。どんだけセキュリティに特化した組織に預けてんのよ? ヤンナルネ」 「アンタ達が何者か知らないけど、私の友達を襲ってまで何がしたいわけ?」 食蜂「ちなみにぃ、妨害どころか、潰しちゃったのはぁ、上条さん、なのよねぇ?」 美琴「///」 上条「御坂なぜ赤くなる? って、ちょっと待ったこの話って――!」 寮監「……」 「――私に言わせれば、こんな街でノウノウと暮らしていられる美琴ちゃんの方がよほど異常だけど」 「だってホラ、今まで色々見てきたでしょ? 『絶対能力者』を生み出すために為されてきた非人道的行為。『置き去り』を使った人体実験、交渉人を使ったDNAマップの搾取――」 上条「だああああああああ! 絶対にまずいだろこの話! 御坂や食蜂はともかく、そちらの寮監さんは――!」 美琴「――――、知ってるに決まってるでしょ」 食蜂「学園都市でもぉ、機密力が段違いの学舎の園で働いているのよぉ。それも常盤台なんだしぃ。理事会に立ち会う事もあるからいくらでも噂は耳に入ってくるわぁ」 寮監「果てしなくこの話オリジナル設定のような気がするがまあそういうことだ」 上条「何? 知ってるだと?」 寮監「ん? お前、また言葉遣いが――」 上条「そんなんじゃねえ! テメエ! 知っているなら何故止めなかった!! テメエはそういう立場に居られる『大人』じゃねえのかよぉぉぉぉおおおっ!!」ごききっ! 寮監「言ったはずだ。言葉遣いに気を付けろ、と」 上条「あががががが……け、けど……」 食蜂「あのねぇ上条さん? だからぁ、寮監はぁ、寮則、特に『門限』に厳しいのよぉ?」 上条「……へ?」 美琴「子供のケンカじゃあるまいし、寮監一人で学園都市上層部に歯向かえるわけないじゃない。だから、寮監は上を止めるんじゃなくて、子供たちを危険な目に合わせない方を選んだの。分かる? じゃあ子供たちを危険な目に合わせないためにはどうするのが一番かしら?」 上条「……危険な場所に近づけさせないこと……?」 食蜂「そういうことよぉ。何も立ち向かうだけが『正しい』ことじゃないってことなのぉ。特に大人になれば『大人の事情』ってものがあるしぃ、そんな中でも寮監は自分のできることで最善の方法を選んだ、ってことなんだゾ☆」 上条「そ、それはそうかもしれないが……」 寮監「ふぅ……少年よ。では聞くが、私が学園都市上層部に意見したらどうなる? よくて学園都市追放、最悪、闇に葬られる可能性があるわけだが、そうなったら誰がこの悪ガキどもの面倒を見るのだ?」 上条「すんません……」 「黒子ならきっとママを助けてくれるって信じてたからさ」 食蜂「あらぁ、フラグの建設力がビンビンねぇ。このまま百合力を全開にして、白井さんルートで攻略したらぁ?」 美琴「…アンタ分かってて言ってるでしょ。黒子の事は大切に思ってるけど、そこに恋愛感情とかは一切無いわよ!」 ??「そんなお姉様! わたくしはいつでもお姉様と愛の契りを交わす準備はできぎょぐえっ!!?」ゴキッ 寮監「ふん」 上条「おお、すげぇ! ??の首が変な方向に曲がっとる!」 美琴「……電撃ツッコミしないで済む所だけは、寮監がいて良かったって思うわ」 食蜂「下手したらこの人、第一位や第二位にも素手力だけで勝てるんじゃなぁい?」 「はっ 放してくださいましっ わたくしにはそのような趣味はありませんのぉ~」 寮監「まったくそうは見えんな」 上条「記憶が無くても白井は白井って事ですかね~…」 ??「ああん、我ながら勿体無い! お姉様と密着しておきながら何もしないなんて…今ならばお姉様の体という体を全身くまなくぎゃぼらばぁっ!!!」ギュルグキャゴキボキベキッ 上条「……明らかにヤバい音出ましたけど、大丈夫なんですか…?」 寮監「中途半端なだとすぐに復活するからな。少し強めにしておいた」 ??「お…姉さ、ま……がくっ…」 美琴「ねぇ、黒子から私への邪な感情だけ消す事ってできないの?」 食蜂「無理ねぇ。白井さんの変態力はすでにレベル6級だしぃ」 上条「ま、まぁそれだけ想われてるってのは幸せな事なんじゃないか?」 美琴「アンタならともかく、黒子に想われても意味は無―――」 上条「えっ? 俺だと何で意味があるんだ?」 美琴「のぉおおおおおわああああぁぁぁ!!! ななな何でもない何でもないっ!!!///」 「あの…妹さんをさらった人――食蜂操祈さんでいいんですよね?」 「うん…それは間違いないと思う」 食蜂「人聞き悪いなぁ、御坂さん」 美琴「分かってるわよ。アンタは『さらった』んじゃなくて『保護した』んでしょ」 上条「なんだ良い奴じゃないか。そっかそっかエライぞ、食蜂」なでなで 食蜂「いっやぁ~~~ん☆ 上条さんに褒められた上に頭なでられちゃったぁん☆」 寮監「ほぉ。食蜂でも素直に嬉しそうな表情を見せるときがあるのだな」 美琴「……」 上条(うわぁ……この辺でやめとこ。寮監の後ろから御坂がとぉっても怖い顔で睨んでおられます……) グンッ 「だからソイツを私にぶつけろっつってんのよ!! なんで…ッ」 食蜂「下乳力で上条さんを誘惑しちゃうゾ☆」 上条「う、うん。あの、えーと……うん(だ、駄目だ! どうリアクションしても不幸な未来にしかならない気がする!)」 美琴「アンタねぇ…そんな茶化せるようなシーンじゃないでしょ、ここは!」 食蜂「え~? でもせっかくサービスカットだしぃ。自分がはみ出せないくらいちっぱいだからって、そんなに嫉妬力出さないでくれるぅ?」 美琴「よーし、その喧嘩買ってやるわ―――」 寮監「……喧嘩を何だって…?」 美琴&食蜂「「……ナンデモナイデス」」 「協力? 信頼? なんでそんな不確かなものを信じられるのかしらぁ? 人の言うことを安易に信じた末路が『量産型能力者』計画と『絶対能力進化』計画じゃない」 「ッ……」 「私は協力者の頭の中を必ず覗くわよ? 思惑の有り様、営為の規範、場合によっては感情も行動も操縦するわ」 「何考えてんだがわからないアナタと組む気なんてはなからないの」 寮監「……ある意味、食蜂の能力の悪い弊害、だな……はぁ……まあ、言ってることは分からんでもないが……」 食蜂「さすが寮監様ぁ☆ 『理解者』ってありがたいわぁ」 美琴「ふーん。てことはアンタ、コイツとも相性良くないってことよね? コイツにもアンタの能力は通じないわけだし」 上条「あーそうなるよなー。まあ、そういう事情があるんなら仕方ないは仕方ないが」 食蜂「――!? ち、違うわよぉ!? 上条さんはトクベツなんだから頭の中が読めなくてもオールOKなんだゾ☆」 寮監「食蜂、無理するな。お前の考え方ではこの少年とは相容れることはないのだから諦めろ」 食蜂「ちょっ! 寮監様!?」 美琴「そうそう。でも安心して。アンタの分まで私が」 上条「は? 『私が』?」 美琴「――っ!! ななななななな何でもないわよ何でも!?///」 上条「?」 寮監「なあ食蜂? 今の御坂ならお前でも頭の中が覗けるんじゃないか?」 食蜂「そうですねぇ。ていうか、今の御坂さんの頭の中を除くのに能力は必要ないんじゃないですかぁ?」 「そこに木原玄生がいるのね」 「妨害力さえ発揮しなければここで見ててもいーのよ?」 「冗談。誰かの犠牲なしには何もできないヤツらに引導を渡してやるわ」 上条「お? それでもお前ら二人で突入か。熱い展開だな。例えるならジョナサンとディオが組むようなものか」 美琴「当然、私がジョナサンよね!」 食蜂「あらぁ? 私は別にディオでもいいわよぉ?」 美琴「え、そうなの? でもなんで?」 食蜂「決まってるじゃなぁい。ディオならぁ、この場合、エリナ役が上条さんになるからぁ、上条さんにズキュゥゥゥゥゥゥゥン!!できるってことでしょぉ? それで上条さんにこう言うのぉ。『御坂さんとはまだキスしたことないよなぁ? 初めての相手は御坂さんではなぁい! この食蜂操祈だぁっ!』って」 美琴「うわなんだろ? 思いっきり嵌り役っぽかった」 食蜂「ちょっとぉっ! ここは御坂さん、ムキになるところよぉっ!?」 寮監「お前ら、実は仲良いんじゃないか?」 上条「逆に考えるんだ。『仲良くなっちゃってもいいさ』と」 (食蜂!?) キョロキョロ (いない。ここまでは一本道、はぐれるはずが――嵌められた!) 美琴「そんな風に考えていた時期が私にもありました」 上条「何だ? その『ふーやれやれ』って自嘲してる顔は」 寮監「深読みし過ぎたんだろうな。ここは逆に食蜂の能力があれば良かったと思える場面かもしれん」 食蜂「……それって全然褒めてないですよねぇ……寮監……」 (調子のいいこと言って誘い込んだつもりかもしれないけど、やるってんなら全力……で?) 「ちょ……ゼー…ちょっとぉ、待ちなさいって……ゼー…言ってる…じゃない…ゼー…注意力とかないわけぇ…ゼーゼー…ひとりで勝手に盛り上がってんじゃ…ないわよ……」 上条「あー……さっきの熱い展開が台無しだな……心なしか、目の中のキラキラも霞んでるし…」 美琴「いやー真面目に応戦しようとした私が恥ずかしいわ。うん」 寮監「食蜂? お前も少しは運動したらどうだ?」 食蜂(うぅ…何かドヤ顔の御坂さんが腹立たしいんだゾ) 「全力ダッシュしてんじゃないわよ……」 「いや…ジョギングくらいだったと思うけど」 美琴「アンタはどう思う?」 上条「まあ俺にも御坂のペースはジョギング程度かな、とは思った」 食蜂「い、いいの!!/// 私は御坂さんと違って、野蛮力は必要ないんだからぁ!!///」 寮監「しかし食蜂よ。あまり運動しないのはマズイと思うぞ。成長期の今は良いが、成長期が終わった後、運動不足が常態化すると胸以外のところも膨らみ始めるからな」 食蜂「うわぁ。真面目にネガティブな知識力だしぃ」 上条「つーか、御坂の全力ダッシュはこんなもんじゃないってことは俺が一番知ってるぜ」 寮監「ん?」 上条「天下の逃げ足王たる俺が引き離せないんだからな。今は記憶を失くしたんで確かじゃないんだが、御坂曰く、俺を一晩中、追っかけたことがあったらしいし、御坂の全力ダッシュははがっ!?」 美琴「(このど馬鹿!! 寮監の前で何を暴露してやがんのよ!! アンタ私を殺す気!?)」 上条「(わ、悪かった悪かった! と言うか、ヘッドロックを解いてくれ!? 上条さんの顔に御坂さんの胸が、胸がー!!)」 美琴「(!!!!?!/// ば、馬鹿!! こんなときに何考えてんのよアンタは!!///)」 寮監「御坂? 何か今不穏な単語が聞こえたような気がするが?」 美琴「きききききき気のせいですよ気のせい!! ほら、コイツも『記憶がない』って言ってたから何かと勘違いしてるんですよ!!」 寮監「そうか。ならいいが」 食蜂(その時の様子を寮監の頭に書き込んじゃおうかなぁ……でも『能力』を使うと後が怖いからやめとこ) 「ま…まぁー、御坂さんとは部分的な重さが違うしぃー、そっちは空気抵抗も控え目だからー」 ピキ 「この苦労はわからないわよねー」 「…つーかさ――アンタが運痴なだけでしょ」 …… 「はァーーーッ? はァーーーッ?? 誰が運…ッ」 「そーいやアンタが体育の授業を受けてるの見た記憶がないわね」 寮監「食蜂? お前、ちゃんと授業を受けていないのか?」 食蜂「ち、違いますよ寮監様ぁ! 私と御坂さんの受けてるカリキュラムが違いますしぃ! たまたま時間が合わないだけなんですよぉ!!」 美琴「そうなの? でもこれで一年と半年以上は経過してるのに一度も見た記憶がないってのはおかしくない?」 食蜂「そ、それはぁ! 御坂さんの記憶力に致命的な欠陥があるせいなんじゃないかしらぁ!?///」 上条「食蜂も御坂と似てんなぁ。負けず嫌いと言うか、負けを認めたくないって気持ちで溢れ返ってんぞ」 食蜂「ち、違うもぉん! 本当に授業をサボってなんか―――」 美琴「あ、でも大覇星祭初日に、『午後の競技は能力でぜんぶキャンセルさせてもらった』とか言ってたわね」 食蜂「ちょ、まっ…み、御坂さん!!!」 寮監「………ほう…?」 上条「あ。寮監さんのメガネが今、光ったぞ」 美琴「指も鳴らし始めたわね」 食蜂「い~~~~やぁ~~~~~!!!!!」 「なによっ 運動能力がいい人がエラいの? 小学生? あぁ~そんなだから体型もお子様なんだぁ?」 「たっ体型は関係ないでしょうがあッ!! アンタこそその目のキラキラ何? 少女マンガ?」 「生まれつきですぅー! 人の身体のコト バカにしちゃいけませんって習わなかったのぉ?」 「どの口が言うかッ!!」 上条&寮監「「……………」」 食蜂「え、え~っとぉ…」 美琴「あの…せめて何か言って欲しいんだけど……」 上条「……子供か」 寮監「はぁ~~~…お前ら…」 美琴「ま、まぁそういうリアクション…よね。そりゃ」 食蜂「正直力で言っても、今、自分で見ると恥ずかしいもんねぇ…」 「うー科学万能の学園都市でよりによってこんなの引き当てるなんて―――不幸だぁー…」 寮監「『おまもり』か…確かに学園都市では手に入りにくい品だな」 上条「でしょー!? 運営委員も、こんな意地悪なもん書かなくてもいいのに…」 美琴「でも全く無いって事もないでしょ? 神学系の学校もあるし、外部からのお客さんだっているんだし」 上条「簡単に言うけどなぁ…この時上条さんがどれだけ走り回ったと思ってんだよ…」 食蜂「私に言ってくれればぁ、能力を使ったローラー作戦力ですぐに見つけてあげたのにぃ」 美琴「…それは反則でしょ」 上条「あ、そうだ。御坂は持ってないのか? お守り」 美琴「え? 持って無いけど……でも何で?」 上条「いや、前に好きな奴がいるとか言ってただろ? 恋愛成就とか縁結びのお守りって持ってないのかな~と」 美琴「な、無いわよそんなの!(……でも今度買っておこう…あ、そう言えばお守りじゃないけどひょっとしてアレを渡すチャンスなんじゃ……!///)」 ??「おねーたま☆ ヒーローさんが恋愛成就とか縁結びのお守りって言ってんだから、ハワイで買ったリングを渡そうよ。ほらほら♪」 美琴「にゃああああああああああ!! アンタはいったいどこから湧いて出たぁぁぁぁああああああああああああ!!!///」 上条「リング?」 美琴「な、何でもないわよ! 何でも!!(ほらさっさと帰る!!)」 ??「ぶーぶー」(強制退場) 食蜂「さすが(三次計画の、とは言え)妹達の一人ねぇ。御坂さんの思考を完璧力に読みとってたわぁ」 「わかった えーと…」 「あ 佐天です」 「こっちは上条当麻 ありがとな必ず返すから」 美琴「…ふーん? こうやって佐天さんにもフラグを立ててたって訳ね」 上条「いやフラグって…借り物競争ん時にお世話になっただけだって後夜祭でも言っただろ。つか、今さっき見たろ。何でちょっと不機嫌になってんだよ」 美琴「だって…」 食蜂「ま、気持ちは分からなくもないけどねぇ。でもこの程度力でイチイチ目くじら立ててたら、キリがないわよぉ?」 美琴「ぐっ…! まぁ、そうだけど…」 寮監「何だ? この少年はそんなにも軟派な男なのか?」 美琴&食蜂「「ええ。そりゃあもう」」 寮監「……お前達が息ぴったりになる程か」 上条「上条さんは紳士なのですが…何故に誰も信じてくれないのでせう?」 「おおっ! 発見 ひょっとして今日の上条さんツイてるんじゃ…」 上条「そんな風に考えていた時期が俺にもありました。(まさか二日連続で事件に巻き込まれるとは…)」 食蜂「ま、この後とんでもない事になるものねぇ」 美琴「うっ!」 寮監「例の、御坂が木原の実験で暴走する話か。全く…普段から気を引き締めていないからそんな事になるのだ。根性が足りんぞ、根性が」 上条「……ものすげー聞き覚えのある台詞だな…」 美琴「ううぅ…返す言葉もないです…」 食蜂「根性力でどうにかなる事でもないと思うけどねぇ」 「まぁ最悪 御坂さんの野蛮力が必要になるかもしれないしぃ」 美琴「野蛮力ってどういう意味だコラァ」 食蜂「言葉通りの意味よぉ。て言うか、今アナタが発揮してのが正にそれねぇ」 美琴「ああ゛ん!?」 食蜂「やだ、こっわ~い」 寮監「ほう…? 怖いか。それは私に一撃を食らう以上の恐怖なのか?」 美琴「食蜂さん。私達って親友よね」 食蜂「ええ、勿論。私、御坂さんの事は心から尊敬力を感じてるものぉ」 寮監「良し」 上条「…もしかして寮監さん一人いれば科学サイドの争いを全部止められるんじゃね?」 「大丈夫よぉ☆ その点は胸囲力が戦闘力に吸い取られたアマゾーンがいるから心配しなくていいゾ♪」 「誰のコトかな?」 美琴「体力が全部、胸に吸い取られたような奴に言われたくないわね」 食蜂「ぷーくすくす! それって負け惜しみにしか聞こえないんだけどぉ?」 寮監「……………」 美琴「って言うのは冗談でよね!? 食蜂さん!」 食蜂「勿論よぉ! ほら、握手握手!」 寮監「良し」 上条(一応握手してるけど、二人とも手に力が入ってるな…) 「ヤツらの真の狙いは 御坂美琴だ」 食蜂「……上条さんの性格力は知ってるから御坂さんが特別って訳じゃないんだろうけどぉ、こうして御坂さんの名前が出ただけで直球力で現場に駆けつけるっていうのは、流石に嫉妬力が湧き出ちゃうわねぇ」 上条「嫉妬って何だよ。誰かが困ってたら普通助けるだろ? それが御坂なら尚更だ」 食蜂「…むぅ~!」 美琴(食蜂の言う通り、これが私じゃなくてもコイツは助けに行くんだろうけど……でもやっぱり嬉しいな…///) 食蜂「ちょっとぉ! なんで『御坂さんならな尚更』なのかなぁ!?」 上条(あれ? そう言えば何でだろ? 今、自然と口を付いたような……) 食蜂「私のときもぉ! 私のことを覚えてなくても助けに来てくれたのにぃ!! なのに何で『御坂さんなら尚更』って言ってんのかなぁ!?」 美琴「あんまり深く考える必要ないんじゃない? どうせコイツのことだから『御坂なら尚更』は『知ってる人なら尚更』くらいでしかないわよ」 上条「え? まあそう、かな……?」 食蜂(うわ。意外なところから意外な援軍なんだゾ☆ 御坂さん自身は気付いていないみたいだから絶対に言ってやらないけどぉ) 寮監「……なるほど。これが噂の無自覚フラグ能力か。私もあと5~6年若ければ、コロッとやられていたかもしれないな」 上条「え? 寮監さん、今でも充分若くて美人じゃないですか」 寮監「えっ!!? そ…そう……かな…?///」 美琴&食蜂「「うぉおいっ!!!」」 ざわっ 「その子に何をしたァッ!!!」 「第一候補の影に隠れた統括理事長【アレイスター君】のお気に入り、その眠れる力を覚醒させる起爆剤に使うのはどうだろう」 寮監「ふむ。噂には聞いたことがあったが木原玄生が語ってことは確かな話なのだな」 食蜂「すっごぉ~い。これは本気力でビックリなんだゾ☆」 美琴「え、ええっと……そうなの……? もしかして、ひょっとして、私が絶対能力進化実験のときに夜な夜な研究施設を潰し回ったことが大目に見てもらえたのはそういうことだったのかな…………?///」 寮監「……何? 夜な夜な何だって?」 美琴「!!!!?! なななな何でもないですよ何でも!?」 食蜂「あぁ。そう言えばぁ、夏休みのある時期ぃ、御坂さんが夜中に寮から抜け出す姿を何度か見た気がするぅ」 美琴「ちょ、まっ…しょ、食蜂!!!」 寮監「………ほう…?」 上条「あ。寮監さんのメガネがまた、光ったぞ」 食蜂「指も鳴らし始めたわねぇ」 美琴「いぃぃぃぃやぁぁぁあああ!!!!!」 「御坂君は天上の意思に辿り付けるかな?」 寮監「……角、生えてるな」 食蜂「悪役力、丸出しねぇ」 美琴「し、仕方ないでしょ!? 私だって、なりたくてああなった訳じゃないんだし!」 上条「大丈夫。俺が必ず助けてやるから」 美琴「…あ、うん………ありがと…///」 食蜂「いや、助けるも何も、これもう終わった事なんだけどねぇ。しかも上条さんも当事者だしぃ」 寮監「野暮な事は言うべきではないぞ食蜂。せっかくのいい雰囲気なのだから、そっとしといてやれ」 食蜂(だからこそ、ぶち壊したいんだけどぉ…) 上条「今回はここまでか?」 食蜂「まぁ、丁度9巻が終わった所だからねぇ」 美琴「そろそろ大覇星祭編もクライマックスね…寮監はこのまま残られるんですか?」 寮監「いや、私はここで失礼させてもらおう。仕事を抜け出して来たから長居はできん」 美琴「そうですか…(良かった…)」 寮監「……おい御坂。今心なしかホッとしなかったか…?」 美琴「(ギクッ!)ししし、してないですしてないです!」 食蜂(してたわねぇ) 上条(してたな) 寮監「…ふん、まぁいい。ではな」 美琴「は~い! …はぁ、やっと帰ってくれた……何かどっと疲れた…」 上条「今日は緊張しっ放しだったもんな」 美琴「そうね………で食蜂、アンタは帰んない訳?」 食蜂「ええ、そうねぇ。だって私ぃ、次回力のゲストだもぉん」 美琴「はぁっ!!? 次も!? アンタ連続で何回ゲストやってんのよ! 準レギュきどりかっ!」 食蜂「この話は私の影響力が大きいんだから、仕方ないでしょぉ!? 上条さんだってぇ、私がいた方が嬉しいわよねぇ?」ムギュ 上条「え、あ…あー、うん…まぁ…」 美琴「くおらぁ! 何デレデレしとんじゃ! てか、引っ付いてんじゃないわよ! 羨ま…じゃなくてっ!/// うっとうしいじゃない!」 上条「デ…デレデレなんぞしておりませんですのことよ!? 証拠にホラ、ミコっちゃんにもギュ~ッ!」 美琴「にゃああああああっ!!! 急に抱き締めんな馬鹿っ!!!///」 食蜂「あ、ちょっとぉ! 私が先に抱擁力いっぱいに抱き締めてたんだからぁ! 横取りしないでよぉ!」 美琴「よよよ横取りとかっ!!! してないし!!!///」 ??「何だ? 鯖折りすればいいのか?」 食蜂「…へ? 何か今後ろから声ぎゃあああああああああっ!!!!!」 ??「どうした金髪女。もうギブアップか? 根性が足りねーぞ!」 食蜂「折れる折れる折れる! ギブギブ、放してお願いいいいぃ!」 ??「仕方ないな…そら」 食蜂「げほげほっ! あー…死ぬかと思ったわぁ……一体誰よぉこんな事したのはぁ!」 ??「俺だ」 美琴「ゲッ! アンタは…」 食蜂「うわ~、あなたかぁ…通りで馬鹿力な訳よねぇ…」 上条「お前は……削板軍覇!」 削板「よう! 久しぶりだな上条!」 上条「って事は…軍覇が次のゲストなのか!?」 削板「知らん」 上条「えっ?」 削板「よく分からんが、ここに行けって言われたから来ただけだ。何をやるかは俺も知らんから、ゲストかどうかも知らん。何やってんだお前ら?」 上条「………」 食蜂「……こいつはこういう奴よねぇ…」 削板「ん? よく見たら一緒に選手宣誓した女じゃねーか。それにもう一人の方は電撃女」 美琴「あー…久しぶりねー…」 上条「御坂、知り合いだったのか? この後の話では御坂と軍覇って会話もしてないはずだよな」 美琴「その前に会ってんのよ。偽典でね。その時はお互いに名前も知らなかったんだけど……でもそうか。食蜂と一緒に選手宣誓したって事は、レベル5だったのね。道理で滅茶苦茶な訳だわ…」 上条「そ、そっか。それだけか(…あれ? 何か今、俺ホッとしたような気が…?)」 食蜂「という訳でぇ、次回力のゲストは私とナンバーセブンでお送りするわぁ」 削板「おう、任せとけ! …で、結局何するんだ?」 食蜂「……黙って突っ立ってればいいんじゃなぁい?」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こぼれ話
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ねむねむタイム それなりの修羅場はくぐってきた。ある時はレベル5の第一位と戦い、またある時は、ローマ正教を裏で牛耳る最強の魔術師と互角に渡り合った。ロシアでは戦場を駆け抜け、バゲージシティでは地獄も見てきた。たかだか一介の高校生には受け止めきれない程の心の傷を負いながらも、彼はここまでやってきたのだ。しかしここに、そんな彼すらもあざ笑うかのような、最大の敵が立ち塞がっている。過去の偉人たちに睨まれ、異国の言語を読み取り、暗号と数式の解を求め、化学式に頭を悩ませる。ぶっちゃけ課題である。上条はここ三日間、ず~~~っと問題集やらプリントやらとにらめっこをしていたのだ。それもそのはず。何しろ三日前、小萌先生に泣き付かれてしまったのだ。ただでさえ成績は下から数えた方が早いくらいなのに、度重なる無断欠席で出席日数もギリギリで、もはや小萌先生のフォローだけでは、学校側としてもどうしようもない状態になっていた。なので今回の三連休を使い、「せめて誠意だけでも見せる」ため、この三日間、ただひたすら、黙々と課題をやっていたのだ。だが人間の集中力には限界がある。そうでなくても、徹夜続きだ。フラフラするのも無理はない。しかし課題はまだ山のようにある。小萌先生のところにインデックスを預けてまで(本人は渋々だったようだが)やっている課題だ。さすがに終わらせないと色々とマズイ。けれども眠いし終わらない。上条は働きが鈍くなった頭をなんとか動かし、ある人物へと電話する。「……あ、美琴…か? 悪いんだけど………た、助けてください!」その言葉を最後に、上条は力尽きた。 せっかくの休日だというのに美琴はヒマである。ルームメイトの白井は、風紀委員で忙しいのだそうだ。ベッドに転がり、少女漫画を読みながらダラダラとしていると、ケータイが鳴り響いた。この着信音は一人だけにしか設定していない。ガバッと起き上がり着信相手の名前を見る。やはり上条からだ。まず慌てる事31秒、心を落ち着かせる事14秒、軽い発声練習8秒、鏡を見て前髪だけでも直そうかと思ったが「あっ、電話だから関係ないや」と思い直した事0.17秒。計53.17秒の準備期間の後、美琴はケータイを手に取った。「ななな、何の用かしら!!?」それでもこの体たらくである。『……あ、美琴…か?』上条の声は明らかに弱々しい…と言うより半泣きだった。『悪いんだけど………た、助けてください!』「助けてって…アンタ何があったの!?」尋常ではない上条の様子に、美琴は思わず声を荒げる。だがそれ以降は上条の声は聞こえてくる事はなく、代わりにツー、ツーという音が聞こえてくるだけであった。嫌な予感がする。美琴はケータイの着信履歴を見る。不幸中の幸いと言うべきか、どうやら寮の固定電話からかけられたものらしい。場所なら分かる。美琴は急いで上条の寮へと走り出した。 この野郎!それが現場に駆けつけた美琴の心の中の声の、第一声であった。被害者はコタツで突っ伏す形で倒れており、チャーペンを握り締めたまま固まった右手は、ノートに「(x-6)(x+2)=0 これより,x-6=0 またはx+2=0 よって,x=6,-2」という謎のダイイング・メッセージを残している。よほど凄惨な事件だったらしい。「ったくもう! 心配して損したわよ!!」そう言いながら毛布をかけてあげる美琴。本人のためを思うなら、本当は起こしてあげる方がいいのだが、上条がそこまで切羽詰った状態である事を美琴は知らないのである。だがコタツに広がった参考書やら問題集やらを見て、ある程度状況を把握した美琴は、「せっかく来たんだから、ちょっとくらい手伝ってやりますか」と、上条の握っていたシャーペンを抜き取ろうとする。その瞬間、美琴はとんでもない事に気付いてしまった。今ってもしかして、二人っきりなんじゃね?そうなのだ。この狭い空間で、美琴は上条と二人っきりなのだ。黒子はいない。いつもコイツにくっついている、ちっこいシスターも何故かいない。しかも目の前にいるコイツは熟睡していて、自分が何をしても起きそうにない。そのことに気付いた美琴は、声にならない叫びを上げる事5秒、色々と想像して悶絶する事246秒、一旦落ち着こうとして深呼吸する事133秒、そして再び想像して悶絶する事177秒、その後なんやかんやで405秒。計966秒、約16分間も何かワチャワチャしていたのだ。こんなチャンスは滅多にない。今こそ積年の恨み(主にスルーされたり、イライラさせられたり)を晴らす時。当初の目的【べんきょうのてつだい】はどこへやら、上条が無防備なのをいいことに、仕返しという名のイタズラが、今、始まろうとしている。 美琴は高鳴る胸を抑えながら、その油断しきった顔に近付いていく。くかーっと寝息を立て、よだれを垂らし、時折むにゃむにゃと何か言っている。非常にだらしない姿だが、恋する乙女はそれを「カワイイ」と表現するらしい。子犬でも見つめるようにウットリとしている。しかし、長時間直視する事はできないらしく、「見つめる→目を逸らす→深呼吸→見つめる」を繰り返していた。こうしてるだけでも充分幸せなのだが、しかしそれでは、せっかくのこの貴重な時間が勿体無い。コイツが起きる前に、普段できないような事をして、もっと楽しんでしまおう、と美琴は考えた。 [MissionⅠ NEGAO WO GEKISYA SEYO!]美琴はケータイを取り出し、その寝姿を保存しようと企んだ。一応建前上は、「何かあった時に、この写メを材料に交渉【きょうはく】する」というものだが、本当の使用目的は乙女の秘密である。何度もパシャパシャと音を立て、うまく撮れて保存したもの、緊張して手ぶれが激しくなり失敗したもの含めて、約100枚近くの写真を撮る。もうホクホクである。「ふっふ~ん。 いっつも私をスルーするから悪いのよ~♪」と、口では言っているが、顔はニヤケきっている。上条とは違った意味で、こちらもだらしない。と、その時である。上条が「みこ…とぉ……」と小さく呟いた。バレた!!? と思ったが、寝言だったようだ。「お! お! 驚かすんじゃないわよ!!」本当に心臓が飛び出るかと思ったらしい。後に美琴はこのときの事を、「14年間生きてきて、一番ビックリした瞬間だった」と語っている。しかし上条はどんな夢を見ているのか。その後も何度も「美琴」の名前を呟いている。実際は「ヘルプで呼んだはずの美琴が、課題の追加を大量に持ってきた」という、とんでもない悪夢を見ている訳なのだが、そんなことを知る由もない美琴にとっては、「ひょっとしてコイツ、夢の中で私と!?」とか思ってしまう。真実というのは残酷なものだ。 [MissionⅡ NAMAE WO YONDE MIYOU!]何度も何度も名前を呼ばれ、美琴も妙な気分になってくる。この特殊な空間がそうさせたのだろう。普段ならありえないが、コイツが寝ている今なら言えるかもしれない。コイツの名前を。「み、こと……」「ななな、何よ! と、と、とう、ととと、とう」「みこ…むにゃ……」「とう、とう、とと、と、とう…………ま………」「言えた!」と胸を張って言えるかは微妙だが、一応名前を呼んだと言えなくもないような気がする。その後も何度か挑戦したが、「と」と「う」と「ま」を繋げて呼べたのはこの時だけだった。 それにしてもこの男、まるで起きる気配がない。これだけ近くで美琴が大騒ぎ(本人的にはその自覚はない。あくまで冷静なつもりである)したというのに、相変わらずレム睡眠の真っ最中だ。これだけ起きないのであれば、多少無茶しても大丈夫なのではないだろうか。 [MissionⅢ IROIRO SAWATTE TANOSHIMOU!]一応、名前は呼べた(と本人は思っているらしい)ので、今度はもう一段階ハードルを上げてみる。ゴクリと生唾を飲み込んだ後、そ~っと腕を伸ばし始めた。どうやら触れてみたいらしい。相手を刺激しないように、まるで猛獣と触れ合うかのような、ゆっくりとした手つきではあったが、美琴の右手は、見事、上条の頭にポフッと着陸した。「ふぉ!? ふおぉぉぉおおおお!!?」感激と興奮のあまり、言語中枢がおかしくなった模様。そのままワシャワシャと頭を撫でてみた。トゲトゲした髪は、触ってみると意外と柔らかく、「大型犬ってこんな感じなのかな?」と、何となく思った。その後も鼻をつまんでみたり、耳たぶをフニフニしてみたり、首筋をコチョコチョしてみたりと、本人が寝ているのをいいことにやりたい放題だ。自分からやっておいてイチイチ悶える美琴も美琴だが、これだけされても全く起きない上条も上条である。だがほっぺたをプニプニと突いている時に事件は起こった。くわえやがったのだ。美琴の細い人差し指を、上条の口が無造作に。「!!? !!!!?? !!!!!!????」あまりの出来事に脳が追いついていないらしい。学園都市で第三位の演算能力をもってしても、処理できないことはあるのだ。上条は「千歳飴……」と、とても夢の内容が分かりやすい寝言をほざきながら、チュピチュピと美琴の指を、吸ったり舐めたり転がしたりしている。本当は起きているのではなかろうか。「や……ちょ、やめ………ぁ…は、あ…………んん!!」やだ、なにこれエロイ。やっとの思いで指を抜き取ると、上条の口と繋がった糸がツツーッと引いていた。美琴はそれを、心臓をバックンバックンさせながら、自分の唇へと当てようとする。もう一度言うが、普段の彼女は絶対にこんなことはしないだろう。何もかもこの状況が悪いのだ。だが唇に触れようとした瞬間、ハッと思い直し、頭を抱えた。(な、何をしようとしてんのよ私は~~~!!! これじゃ変態【くろこ】と一緒じゃない!!!)惜しい。もうちょっとだったのに。美琴はティッシュで指をふき取った。思い直してからティッシュを使うまで、色んな葛藤があった事は内緒だ。 冷静になったのか、さすがに懲りたのか、それとも、「思い返すととんでもなく恥ずかしい事をしていた」という自覚をしたため上条の顔をまともに見れなくなったからなのかは分からないが、これ以上ちょっかいを出さないでおこうと美琴は思った。そっと立ち上がり、帰ろうとする。ホント何しに来たのやら。だがその時、美琴は左腕をガッとつかまれた。一瞬、何が起きたのか分からない美琴に、本日最大の試練が訪れる。 [Final Mission KAMIJOU NO HANGEKI KARA MI WO MAMORE!]そのままグイッと引っ張られ、美琴は床に倒れこむ。「いった~! 何が起きた…の…?」本当に何が起きたのか。目の前には、自分に覆いかぶさる形で抱き締めてくる上条の姿があった。「ちょちょちょ持って待って!!? 何!? 何これ!!? えっ、アンタ起きてんの!!?」急な展開に焦る美琴だが、どうやらこれでも上条は寝ているらしい。「ん~…あと5分……」とか言いながら顔をスリスリしてくる。「や! ほ、ほんとに…やめなさいよ! ちょ、ちょっとおおお!!」それでも上条の暴挙はとどまるところを知らない。いつも幻想をぶち殺すその右手が、美琴の控えめな現実【むね】を鷲づかんだのだ。「ぇぇぇぇええええええええ!!!?」そのままモニュモニュと胸を揉む幻想殺し。「…肉まん……」などと寝言をぬかしてはいるが、肉まんはそんな持ち方しないだろ。こんな神業【ねぞう】ができるのは、彼か結城リトぐらいなものだ。「ん…は…あぁん……ら、めぇ………や…ぁ、あ…んあ!」やだ、なにこれ超エロイ。好きな男に押し倒され、胸を揉まれているのだ。変な気分になってもおかしくはない。どんどんエスカレートする上条の手つきに、美琴の高ぶる感情も歯止めが利かなくなりそうだ。が、いいところで上条の動きがピタッと止まった。焦らしまで寝相で行うとは、さすがは一級フラグ建築士である。「はえ…? なんれ…?」効果は抜群だ。美琴はトロンとした目つきで、上条の方を見る。すると上条は、ここで止めを刺しにきた。ムチュッ唇と唇が重なり合う感触。今まさに美琴は「奪われた」のだ。いわゆるファーでストなキスを。それも寝ている相手にだ。今日はあらゆる意味で頑張ったが、さすがにこれには耐えられなかった。いつものように、「ふにゃー」の掛け声を残し、美琴は心地よ~く気絶した。 何かあった。この状況はどうなってる。上条が目を覚ますと、もう夕方だった。腕から伝わってくる感触は、とても温かくて柔らかい。まるで女の子でも抱き締めているかのような感覚だった。いやいや、そんなはずがない。だって身に覚えがないもの。しかし目を開けると、そこには真っ赤に染まった美琴の顔がある。いやいや、そんなわけがない。だってありえないもの。きっとこれはまだ夢なのだ。上条はそう言い聞かせて再び目を瞑る。「って! んな訳あるかあああぁぁぁぁ!! 何で!? 何故に美琴センセーがワタクシめの部屋にいるのでせう!!? そして何で俺と一緒に仲良く寝てんの!!? てか何で俺は美琴を抱き枕にしてんだ~~~!!!?」抱き枕どころか、もっと大変な事をしてた訳だが。上条はとりあえず水を一杯飲み、落ち着いたところで今日の出来事を思い出していく。今日は課題に追われていた。ここまではいい。睡魔と戦いながらも手と頭はなんとか動かしていた。問題はここからだ。たしか数学の問題(多分、二次方程式だったと思う)を解いている時に限界に達し、最後の力を振り絞り、美琴に助けを求めた…気がする。だから美琴がここにいる理由は、まぁ分かる。では何故、その美琴を抱き締めながら、自分は寝ていたのか。その答えを鈍感王上条が導き出せるわけもなく、彼は訳も分からず頭をかきむしる。絶賛気絶中の美琴。全く進んでいない課題。それだけでも厄介なのに、さらにこの後、「よ~カミやん! 課題は進んでるかにゃー? ヒマだから冷やかしに来てやったぜい」と、最悪な理由で遊びに来た友人と、最悪なタイミングで鉢合わせする事になり、その翌日、クラスで上条の公開処刑が行われる事になるのだが、それはまた別の話。
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お薬出しておきますね ご存知の方も多いと思われるが、佐天涙子は都市伝説や噂話に目が無い。友人達【みことたち】と集まった時は必ずと言っていいほど進行役を務める為、常にその話題【ネタ】を探しているのである。故に今日も彼女は自分の部屋で、スマホのディスプレイとにらめっこしていた。「う~ん…何か面白そうなの無いかなぁ。 また実地テスト用の試供品が売られてるサイトでも見てみようかな?」言いながら、佐天はお気に入りのWebページを開く。わざわざブックマークしている辺り、相当頻繁に覗いているページなのだろう。学園都市には、大学や研究所などで作られた薬品や機械が数多くある。それらを商品として売り出し、実地テストと称して購入者の反応を見るケースも少なくない。「ガラナ青汁」や「いちごおでん」等々の、学園都市名物・変な缶ジュースシリーズも、その一環である。言ってみれば人体実験に他ならないが、能力開発の為に進んで人体実験を繰り返している学園都市の生徒にとっては、今更気に留める事でもない。佐天が開いたページは、そういった商品を専門で通信販売しているサイトである。かなりコアだが、だからこそ固定客【じょうれんさん】などが多く(佐天もその一人)、扱っている商品の種類も豊富なのだ。未確認情報だが白井の怪しげな『パソコン部品』も、ここから取り寄せているとかいないとか。佐天はこのサイトで、過去あらゆる面白グッズを買っていた。ある時は、人の心が簡単に分かる嘘発見器型のオモチャを、またある時は、その香りの中で眠ると未来が見えるというアロマオイルを。佐天は事ある毎に珍しい物を購入しては、遊びながら実験している。主に美琴を実験動物代わりにして。そう。これらのグッズは、先に述べた通り話題作りの意味もあるが、それ以上に美琴を弄る為の意味合いが大きい。佐天は、美琴が上条に惚れている事を知っている。ちなみに初春も白井も知っている。だが美琴が素直な性格じゃない為(そして上条が鈍感すぎる為)、その恋は中々進展しない。だから佐天はその背中を押す為…という大義名分の下、あらゆる手段を使って弄っているのだ。実地テスト用の商品で実験するのも、そんな理由が半分ある。もう半分は単純に遊んでいるだけだが。事実、嘘発見器では美琴の上条に対する本当の気持ちを(無理矢理)聞き出せたし、アロマオイルは美琴と上条が将来家族になるという夢を見せてくれた。これらの経験から佐天はこのサイトをご贔屓にしており、今日も今日とてカートの中に何か入らないかと探している。すると。「……んっ!? 『スナオニナール』…? これは商品名からして危険【オモシロ】な臭いがしますなぁ~♪ 購入決定!」その分かりやすすぎる名前と、『飲んだら3分間素直になります』という説明文だけで、特に考えもせずカートへと入れてしまう佐天。その後に小さく書かれている、『※副作用として―――』という箇所には気付きもしないで。 ◇もう説明するのもめんどいが、ここはいつものファミレスである。美琴、白井、初春、佐天という毎度お馴染みのメンバーは、しかし少々いつもと様子が違っている。佐天は終始ニヤニヤしており、初春は周りの反応を見てソワソワし、白井は目の前を睨みつけながら歯軋り、そして美琴は顔を真っ赤にしたまま固まっている。その元凶は、大方の予想通りこの男の存在だ。「あ、あの~…わたくしは一体、何故この場に呼ばれたのでせうかね…?」上条当麻。4人掛けの席に無理矢理座らされた、5人目の人間。初春と白井の反対側の席に、佐天と美琴と上条が座っており、しかも美琴は佐天と上条に挟まれているので、上条と肩と肩が当たる密着状態にある。更に佐天が隣からグリグリとお尻で美琴を押してくるので、尚更上条との距離が近い事に。その様子を白井が良しとする訳もなく、愛しのお姉様とゼロ距離な上条を睨みつけているのだ。その原因を作ったのは上条ではなく佐天の筈だが、白井の怒りの矛先は何故か上条なのだから不幸な話である。上条も白井からの痛い視線と、隣の美琴から髪の匂いやら体温の熱さやらを直に感じたりで、とても居心地の悪い状況になっている。美琴の心音が妙にドキドキしているのも気になる。白井はイライラしながら、「何故この場に呼ばれたのか」という上条の問いに答えた。「嫌ならば今すぐお帰りになっても構いませんの!」否。問いに答えるつもりはなく、手で「しっしっ」と追い払うようなジェスチャーである。そもそも上条がここにいる理由など特にない。佐天がこっそり上条に電話して呼び出したのだが、どうせろくでもない事でも企んでいるのだろう。そんな佐天は含み笑いをしたまま不気味に沈黙しているので、初春が口を開く。「ま、まぁたまには男性も交えてお茶会もいいじゃないですか! ねっ、御坂さん!?」「そそそそうね! べ、別にコイツがいようがいまいが関係ないしねっ!」チラチラと上条を見て、全く関係なくなさそうな態度を取る美琴。と、美琴は手元にティーカップの取っ手部分を摘んだ。カラッカラに乾いた喉を少しでも潤す為だ。しかし美琴がそのまま紅茶を一口飲むと、佐天は心の中で「来たっ!」とガッツポーズを取る。やはり、何か企んでいたようだ。分かってはいた事だが。紅茶を飲んだ美琴に対し、すかさず佐天は美琴にある質問をぶつけてみる。さぁ、弄りタイムの始まりだ。「ところで御坂さん。さっきから何か緊張してるみたいですけど、どうしたんですか?」すると美琴から、驚くべき言葉が飛び出してくる。そしてその一言は、ここにいる佐天以外の人間を凍りつかせる物だった。「き、緊張ぐらいするわよ! すぐ隣に好きな人がいるんだから!」………………………え? 彼女は今、何と言ったのだろうか。先にも説明したが美琴が上条の事を好きだという事は、佐天も初春も白井も知っている。しかし美琴は基本的にツンデレなので、その気持ちを表に出す事はない。(ただし本人は表に出すつもりはなくても、自然と溢れ出れいる事は間々ある)その為、いきなり上条の事が好きだなどと、しかも上条本人を目の前にして言うなど有り得ないのだ。数秒間空気が凍結した後、堰を切ったように白井と初春が絶叫した。「えええええええええええええみみみみさみさ御坂さぁぁあああああああんんん!!!!?」「おおおおおねおねおねねおね姉様っ!!!? ななな何を仰っておりますの!!!?」「…え? な、何々? どうしたのよ二人共?」自分で何を言ったのか分かっていないのか、美琴はキョトンとしている。実はコレ、冒頭で佐天が購入した「スナオニナール」の効力だ。飲んだら3分間素直になるというその薬を、佐天はこっそりと美琴の紅茶に一服盛っていたのである。それをまんまと飲んでしまった美琴は、今現在、自分の気持ちにウソがつけなくなっているのだ。しかし上条の鈍感も斜め上を行っており、美琴の「すぐ隣に好きな人が」という言葉を、まさかの方向から解釈する。上条は『美琴の隣』にいる佐天の方をチラリと見ながら。 「隣って…まさか佐天が美琴の!?」「んな訳ないでしょ! 私が好きなのはアンタよアンタ! 上条当麻ただ一人よ!」だが上条のトンチンカンな推測も、アッサリと美琴が否定する。これも普段では見られない光景だ。「んな訳ないでしょ! 私が好きなのはアンt……じゃ、じゃなくて! 何でもないわよ馬鹿!」というのが普段の美琴の反応である。こんなストレートな言葉をぶつけられたら、如何に鈍感な上条と言えども。「あ、ああ…なるほどね。俺の事が………って、ええええええええええええええええ!!!!?」「な、何よアンタまでそのリアクション…ただ本当の事を言っただけじゃない」美琴のとてつもなく予想外な返答と、過去味わったことの無い衝撃に、上条は顔を真っ赤にして大声を上げてしまう。だが相変わらず美琴は、むしろ驚かれる方が意外だと言わんばかりに平然としていた。これには流石の白井も、類人猿【かみじょう】に怒りをぶつけるより先にお姉様【みこと】の心配を優先する。「お……お姉…様…? た、大変失礼ですが…何か、わ、悪い物でもお召し上がりましたの…?」口から半分魂が出掛かっている状態ながら、搾り出すように質問する白井。美琴が不思議そうに「何で?」と聞き返すと、今度は初春が口を開いた。「だ、だって明らかに様子がおかしいですよ! と、ととと、突然上条さんの事をぬふぇ~~~」しかし最後まで言い切る事が出来ず、「ぬふぇ~」する。普段の彼女達ならば、佐天が『何か』した事くらいは見抜けたのだろうが、あまりの出来事すぎて頭が回らないのかも知れない。美琴の素直ショックで白井、初春、そして上条の三人が固まっているので、佐天が助け舟(?)を出す。「みなさん、何をそんなに驚いてるんですかね? 上条さんの事が好きだって言っただけなのに」「ホントよ! 私は出会った頃から、ずっと当麻が好きなんだから」益々固まる三人。白井など、もはや完全に魂が抜けてしまった。しかし佐天は攻撃の手を緩めない。薬の効果は3分。今の内に、聞き出せるだけ聞き出さなければ。「ところで上条さんのどんな所がお好きなんですか?」「そんなの決められないわ。言ってみれば全部かしら。 当麻の目も、鼻も、口も、背中も、指先も、声も、ちょっと抜けてる所も、優しい所も、 笑顔が可愛い所も、一緒に歩くと歩幅を合わせてくれる所も、エッチな所も全部好き。 本当はまだまだいっぱいあるんだけど、言い出したらキリがないし」「ほほう、なるほどなるほど。エッチな所も…ってのが気になりますね」「当麻って、転んだ拍子に私の胸とかお尻とか触る事がよくあるから。 でも私もそれが嫌じゃないって言うか、むしろ当麻になら触られてもいいって言うか」「うほう! それは中々の大胆発言ですね! じゃあキスとかも…?」「それはまだないけど…でもそうね。してはみたいかな。 多分、ドキドキしすぎてどうにかなっちゃうと思うけど」「どっ、どうにかって具体的にはどんな風に!?」「ん~…例えば何も考えられなくなって、そのまま当麻に身を委ねたり…と……か…?」言いながら、美琴がふっと何かに気付く。そしてそのまま、見る見る内に真っ赤になっていった。残念だが、どうやら時間切れのようだ。「ふにゃーーーーーっ!!!!! ななな、なに、なに、何言っちゃってんのよ私いいいい!!? こここ、こ、これはウソ!!! 今さっき言った事は全部ウソだから!!! わ、わわ、私がこの馬鹿の事を、す、すすす、好………き…だなんて!!! 有り得る訳ないじゃないそんな訳ないじゃなぁぁぁあああああああああい!!!!!」 目をグルグルにして手をバタバタと振り回し、必死で否定する美琴だが、その言葉を信じられる者は誰一人としていない。勿論、上条も含めて。何故なら、上条の事が好きだと言っていた時の美琴は、真実を語る目をしていたから。愛する人の事を語る、乙女の目をしていたから。上条は突如突きつけられた好意に、どう対処すれば良いのか分からず、口をパクパクさせながら、恐る恐る言葉を発する。「美…琴? えっと、その……い、今のは……」「だ、だだ、だか、だから違うっつってんでしょっ!!? アアアアアンタの事なんて何とも思ってにゃい、はら…………………っ!!!?」再び否定しようとしたその時だった。美琴は自分の身に起きている、体の異変に気付く。「あ…れ…? ハッ…ハッ…な、にこ、れ……体が、ハッ…ハッ…熱、い…?」それはあまりに突然の出来事だった。美琴が(佐天の薬から)我に返って数秒後、彼女は謎の発熱で息が苦しくなってしまったのだ。火照った体からはジットリと汗が浮かび、目は虚ろ、頬は熱で上気する。「あの…み、美琴…?」先程とはまた違う美琴の異変に、上条は心配そうに美琴の顔を覗き込む。するとその直後、佐天すらも驚愕する行動を美琴が取り始めたのだ。「当…麻ぁ……♡ んむ、ちゅる♡」「「「っっっっっ!!!!!!?!!??!?!?!!!?!?!?!!???」」」それは紛れもなくキスだった。上条、初春、佐天の三名は、急転直下なこの状況にただただ目を丸くする。魂が抜けて絶賛死亡【きぜつ】中の白井は、ある意味良かったのかも知れない。この惨劇を直接見ずに済んだのだから。上条の頭が働きだすまでは、まだ数分かかりそうなので、代わりに初春がツッコミを入れる。「どどどどうなってるんですかコレ!!!?」「いや…あたしがちょっと御坂さんの紅茶に自白z…もとい、 スナオニナールを入れただけなんだけど…あたしの手に負える事態を超えちゃってるね…」「何なんですか、その聞くからに怪しげな名前の薬!!? それと今、明らかに自白剤って言おうとしてましたよねっ!? て言うか佐天さん!? 何だか御坂さんのご様子が尋常じゃないんですが!?」見ると美琴は、あのまま執拗に上条の口内を舐っていた。所謂ベロチューである。先程「キスしたらドキドキしすぎてどうにかなっちゃう」と美琴本人が語っていたが、まさかこんな形でどうにかなってしまうとは、思いも寄らなかった事だろう。そしてそれは上条も同様で、頭の中は完全に真っ白になっている。「あ、あれ!? おかしいな、副作用でもある訳じゃなし………あっ。あった」流石の佐天もこれはおかしいと、もう一度よく薬のビンを調べてみる。するとそこには、『※副作用として、使用後に異常なほど性欲が促進される場合がございます。 過度な使用は控え、用量・用法を必ずお守りください』さて。ご存知の通り、佐天はこの注意書きを読んでいない。薬の量も、考えなしに紅茶へと入れてしまった。つまり、促進される性欲も計り知れないという事だ。サーッと血の気が引けていく佐天に、初春が絶叫する形で声を掛ける。「さ、さささ佐天さんっ!!? これちょ、と、止めないとマズイですよっ!!!?」「うわわわわわっ!!! み、御坂さん!!! お店の中でそれ以上はヤバイですってばっ!!!」見ると美琴と上条は、もはや『目も当てられない状況』になっていた。今回ばかりは流石にやりすぎたと、佐天も反省するのだった。…えっ? 目も当てられない状況って具体的にはどうなってるのかって?それに副作用の効果が切れた美琴と、美琴から告白とディープキスをされた上条の、その後の反応も気になる?ちょっと何言ってるのか分からない。